テラーノベル
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夜の帳(とばり)が下り、都内の高層ビル群でさえも灯りが消え始める、午後23時ころ。5人分のお弁当を持ってTENGAのオフィスが入るビルの前にやってきた。入口は固く閉ざされているので、現在、夜間入口から出入りができる。ここまで睦月君に来てもらわなきゃ。
会えなかったら大脇さんにお弁当を託そう。
迷惑だと思いつつ、睦月君に電話を掛けた。電話に出てもらえるように、緊急だからすぐ連絡を取りたい、と先にメッセージを送っておいた。
『もしもしっ。なにかあったの!? 先生、無事?』
さっきまでぜんぜん電話に出る気配もメッセージを返すこともしてくれなかったのに、私からのSOSはちゃんと見てくれているんだね。
「うん。緊急の用事で。忙しいところ申しわけないけれど、夜間の入り口まで来ているから、下まで来て欲しいの」
『先生、TENGAまで来たの?』
「うん。迷惑だった?」
『迷惑なんてそんなッ…。でも、僕……ごめん』
「どうして謝るの?」
『先生と約束したのに。折り紙の味を世界に届けるって』
「ええ。届けてくれるんでしょう?」
『…きっと、だめだよ。今日のプレゼン、頑張ったけど…悪い結果になると思う』
「プレゼンのことより、私、旦那様の顔がみたいんだけど」
『――!』
「ごめんね、遅くなって。睦月君、私、あなたのお嫁さんになってもいいかな?」
『え、待って。ちょ…え……先生、それ、ほんとなの? ホンキで言ってる?』
「うそでこんなこと言わないよ。ねえ睦月君、早く降りてきてくれないかな。あなたの顔が見たいの」
『すぐ行く!』
少し待っていると夜間入口が開く音がして、勢いよく睦月君が飛び出してきた。
「先生……来てくれたんだ」
「うん。会いたかったから。これ、みんなで食べて。差し入れ」
5人分のお弁当を差し出した。
「ええっ……こんな…ありがとう。それどころじゃなかったから、誰もご飯食べてなくてさ。助かる」
「よかった。顔見れて」
「先生……ごめんね。約束…守れなくて」
「まだ決まってもいないのに弱気なのね。私の旦那様はそんな人だったの?」
「……」
睦月君は俯いてしまった。
「待たせてごめんね。私、睦月君が誰よりも大切だってことに気が付いたの。もうどこにもいかないで。あなたが…好き」
「先生…」
「もう私をお嫁さんにはしてくれないの?」
「する! 先生、僕と結婚して。僕もあなたが好き。ずっと一緒にいたい……」
睦月君は差し入れのお弁当を持ったまま、私のことを抱きしめてくれた。「張り切って宣言したのに、未来スーパー側に僕の企画を盗られて、同じ内容で被せてきたんだ。勝ち目がないって思ったから合わせる顔がなくて……」
「缶詰の企画は、フジノじゃないとできないの?」
「いや……そんなことはないけど……」
「だったらやることはひとつよ。マルヨーさんを潰さないで。睦月君の手腕にかかってる。私も手伝うから、フジノに採択されなかったら、他で頑張ろう!」
「他で……なるほど」
「それにまだ終わったわけじゃない。睦月君が頑張ってきたことを信じなきゃ! 私はあなたを信じてる。だって……私の旦那様が先頭を切ってやっている企画なんだもの!」
「ありがとう」
私を抱きしめてくれる腕がさらに強いものになった。
恥ずかしいけれど私も睦月君の背中に回した手に力を込めた。
コメント
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さぶれさん、第83話読みました…! 夜のオフィスに差し入れを持って駆けつける主人公、かっこよすぎます。「お嫁さんになってもいいかな?」の告白、胸が熱くなりました。プレゼンがうまくいかなかった落ち込みに寄り添いながら「まだ終わったわけじゃない」と背中を押す姿に、本当のパートナーシップを感じます。睦月くんが抱きしめ返す腕の力、そこに彼の気持ちが全部詰まっていました。大好きな回です🤍