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「さてと、揃ったことだし本題に入りますか?」
この集まりを、杏奈が仕切るようだ。
佐々木を見ると、背の高いやつなのにいつもより小さく見える。
_____大丈夫だ、佐々木。俺がきちっと説明するから
あの日の夜のことは、何回もシミュレーションしてある。
「はい、私もわからないことがあるとスッキリしないので、ここでハッキリさせて欲しいです」
舞花が挙手で発言している。
「佐々木さんとこも、あれから何も話してないの?」
「感情的になって問い詰めてもはぐらかされると思って、今日まで我慢してた。妊婦の精神的ストレスは計り知れないんだから」
舞花は大きくなったお腹を、ゆっくり愛しそうにさすった。
「そうよね、ゆったり過ごしたい時期なのにね」
「ハッキリしないのは私、嫌なので。今日の結果次第で離婚するかもって、パパとママには言ってあるから」
「え!待って、舞花。なんで離婚になるんだよ」
_____佐々木は浮気なんてしてないのに、離婚?
舞花の気性の激しさに驚きながら、シミュレーションしていたことを話す。
「あー、あのさ、わからないことってさ、アレだろ?俺の帰宅時間と佐々木の帰宅時間がズレてることなんだろ?」
「そう。それ!隼人君と雅史さんが一緒だったっていうのは嘘なんでしょ?」
強い目で俺を見る舞花。
「隼人君は私に言えないところに行ってたから、咄嗟に雅史さんの名前を出したんだろうけど、雅史さんはまだ帰ってなかった、ですよね?杏奈さん」
卑怯な手を使って佐々木の子供を妊娠し、やっと佐々木と結婚できたはずの舞花。
それなのに、たった一度の疑いだけで離婚を言い出すのは、それほどプライドが高いということだろう。
_____これじゃぁ、佐々木がかわいそうだな
自分のことを忘れて、佐々木に同情してしまう。
いざとなったら、佐々木はお得意さんに怪しい店に連れて行かれただけだと打ち明けるだろう。
でもそうすると、俺のしていたことを説明しなければいけなくなる。
京香と飯を食ってホテルに行って……
頭の中であの夜のことを思い出しながら、絶対にバレてはいけないと心を決める。
最終的に、杏奈に夜相手にされないから浮気した、杏奈も男がいるから俺もつい、なんて言い訳を頭に浮かべていたけれど。
「うん、舞花ちゃんから“隼人さんは雅史と偶然会って飲みに行って10時過ぎに帰って来た”って聞いたけど、雅史が帰って来たのは12時を過ぎてた。舞花ちゃんから連絡があって起きて待ってたから、間違いないよ。あの日は会社の退職する人の送別会だったんでしょ?あなたは」
“あなた”なんて呼ばれて、ギョッとなった。
杏奈は俺のことを“あなた”なんて呼ばない。
その呼び方がとても冷たく聞こえて、焦る。
「う、うん、そう!ちょっと離れた洋風居酒屋にみんなで電車で行って、その後カラオケに行って電車で帰って来た時に佐々木とバッタリ。その後また飲んだんだけど、佐々木と別れてから記憶がぼんやりしてるんだよね。やっぱり飲み過ぎはよくないね。ごめんね、舞花ちゃん、佐々木のことは心配しなくても、大丈夫だよ。なにもおかしなことはしてない。俺が酔っ払い過ぎて帰りが遅くなっただけだから」
できるだけ詳しく説明しようとしてみた。
「記憶がないってこと?2時間も?」
「いや、ないわけじゃなくて、キッパリと言い切ることができないくらい酔ってたってこと。ま、とにかく佐々木とは10時よりも前にわかれたと思う。その後はコンビニに行ったような、通りのベンチに寝転がったような?」
あくまでも酒のせいにする。
浮気してたなんて証拠はどこにもないのだし。
何かの記事で読んだ、決定的な証拠がない限り、“一度でも認めたらいけない、認めてしまったらその後一生疑われ続ける”と。
「そんなに酔ってたっけ?どちらかというといつもより酔ってなかった気がしたけど」
_____え?
冷や汗が滲む。
杏奈の言うとおり、確かにあの日はそんなに酔ってなかった。
お酒はほどほどにして京香との行為に勤しんだのだから。
「雅史さん、おかしなことってなんですか?」
怒ったような、責めるような目線で訊いてくる舞花。
「あ、いや、その……浮気とか?風俗とか?」
「絶対してない?隼人君も雅史さんも?じゃあなんで、夜遅くなって変な言い訳して、そんなにうろたえてるの?」
舞花は佐々木と俺を見比べて、何かを探るように迫ってくる。
_____なんで俺がこの子に追い詰められるんだ?
変に逆らわず、したてに出てやんわりとやり過ごそうとしているのに、舞花のジリジリとした威圧感が俺をイライラさせる。
「私もそれを訊きたい、雅史のその空白の2時間、どこにいたのか、誰といたのかきちんと思い出して!」
杏奈までが俺の言うことを信じようとしない。
二人に問い詰められて、もう言い訳するのがうざったくなった。
_____これ以上何か言ってもどうせ信じてくれない
張り詰めていた何かが、プツンと切れた。
「あーっ!もうっ!なんなんだよ、たまに亭主の帰りが遅くなるくらい、どうでもいいだろ?舞花ちゃんもね、あんなことまでしてやっと結婚できた佐々木を、そんなことくらいで離婚とか言い出すのもわけがわからないよ」
「え?」
「…?」
「あんなこと?」
3人が、きょとんとしてしまった。
_____しまった!
舞花が佐々木と結婚するためにやったことを知ったのは、紗枝が舞香の裏垢だというSNSを見せてきたからだ。
紗枝の話なんて、今はなにも関係ないのに。
「なんのことですか?あんなことまでしてって、なんのことを言ってるんですか?!」
「そうだよ、岡崎!俺たちのことで何を知ってるって言うんだよ!」
驚いたような怒ったような形相で、舞花が立ち上がる。
「ちょっと待って舞花ちゃん、落ち着いて、ね?雅史、ちゃんと説明して」
“一つ嘘をつくと、その嘘を正当化させるためにさらに嘘をつく”
何かで読んだその言葉が、今は痛いほどわかる。
_____さあ、どうする?俺!
どう説明しようか、頭の中でぐるぐる考える。