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「静かだな…」
誰も居ない夜の波打ち際に湊は立っていた。
月明かりが湊を照らす。
打ち寄せる波の音だけが響き渡る。
目を閉じて星空を見上げると、昼間の光景が蘇る。
「お前とは付き合えない」
決めたのは自分だった。
その言葉を聞いた時のシンはとても悲しそうな顔をしていた。
「どうしてですか…」
答えられなかった…
悪いのはお前じゃない…
俺が…俺自身が未熟でちっぽけで…
お前の側に居る資格がないから…
そう言ってもシンには理解してもらえないだろう。
ただ側にいるだけの事がこの先、どれほどの後悔を生むことになるか…若いお前にはわからない。
変わらなきゃいけないのは俺なんだ…
このままの自分じゃダメなんだ…
閉じた瞼の隙間から涙が溢れる。
『生涯俺が好きなのは湊晃ただ一人だけです』
今までに見たことのないくらい真剣な顔で…
真っ直ぐな瞳でシンはそう言ってくれた。
何度も何度も考えて出した答えを告げた事を今更ながらに後悔する。
背を向け泣きながら去って行くシンの後ろ姿が目から離れない。
そんな姿は見たくなかった…
泣かせるつもりはなかった…
「全部言い訳だ…」
わかっていただろう?
全力で…真正面からぶつかってきてくれるシンにあんな言葉を伝えれば悲しむのは。
『好きですよ。湊さん』
いつだってシンは素直な気持ちを伝えてくれる。
応えられないのは自分が弱いからだ。
傷つきたくなくて…
逃げてばっかりで…
頬に伝った涙を拭う。
目を開けて暗闇の地平線を見つめる。
浮かんでくるのはシンの優しい笑顔ばかりだ。
アルバムをめくるように、幾つもいくつも…
不意に襲われる後悔の念に押しつぶされそうになる。
「だめだ…」
「言ってはいけない…」
込み上げてくる悲しみに耐えきれなくなってその場にしゃがみこんだ。
どうしようもない感情が溢れてくる。
涙がとめどなく溢れてくる。
肩を震わせ泣きじゃくる。
幸いここには誰もいない。
誰も聞いていない。
ならば声に出しても許されるだろうか。
本当の気持ちを…
今だけ…
この瞬間だけ…
どうかシンの耳には届きませんように…
願うような気持ちで、声をふりしぼる。
「好きだよ…シン」
「大好きだ…」
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