テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
――っていうか、もう夜だし。
焚き火を囲みながら、私たちはぼんやりと過ごしていた。
度重なる緊張からようやく解き放たれて、ただひたすらにダラダラとしていた。
明日の朝にはまた移動を始めるから、しなければいけない話もそろそろしなければいけない。
……そんなことを考えていると、エミリアさんが話を振ってきてくれた。
「そういえばアイナさん、ルークさんが凄かったでしょう?
英雄の人と渡り合っていたんですよ!」
神剣カルタペズラを操る、英雄ディートヘルム。
強大な力を持つ英雄が、強大な力を持つ神器を振るう――
……いわゆる鬼に金棒というやつだ。
普通に考えれば、同じ条件で渡り合えること自体、とても凄いことだと思う。
「本当に、凄かったですよね。
ところで、ルークの呪いはもう大丈夫なの?」
自然な流れで、ルークに話を振ってみる。
「実はアイナ様が倒れられているときに、『神竜の卵』からレアスキルを授かったのです。
その効果で、呪いも完全に解かれたようでして」
「おお、そうだったんだ……!!
どういうスキルを手に入れたのかな?」
「いえ、詳しい効果は鑑定をしてみないと分からないのですが……」
ルークは少し困ったように笑った。
鑑定スキルの類が無ければ、本人ですら自分のスキルはよく分からないからね。
「それじゃ、鑑定してみるねー。それっ」
私が鑑定スキルを使うと、宙にウィンドウが映し出された。
三人寄り添い、その内容を見てみると――
──────────────────
【光の祝福(状態異常)】
光属性・闇属性・虚無属性の状態異常を無効化する
──────────────────
……と、こんな感じだった。
「『神竜の卵』の効果は、『所有者の強い望みに応え、新たなスキルを得る』……でしたよね。
それならこれは、なるほど納得です」
「……ふむ?」
エミリアさんの言葉に、私は不思議な声を出してしまった。
「このスキルはですね……アイナさんが倒れているのを見て、そのときに獲得したんですよ。
……ね? ルークさん」
「ははは……。いやぁ、その……」
「うおおおぉー!! ……って♪」
「エミリアさん!? その話は内緒ですよ!!」
「……どゆこと?」
エミリアさんとルークの会話に、私は付いていけなかった。
……私が倒れている間に、何があったのだろう。
「それは置いておくとして……。
呪いも無事に解けましたので、そこからは以前のように動けるようになったわけです」
「本来の動きができるようになったんだね。
それで英雄と渡り合えるだなんて、ルークもS+ランク冒険者の実力がある……ってことかな」
「いえ、修行中の身ですので……。私はまだまだ力不足です」
力不足――
……力不足。うーん、力不足……か……。
ルークはどこまで力を手に入れれば満足なのだろう。
……きっと、私を何からでも護れるようになるほどの力……かな?
しかし英雄と対峙したり、大勢の人間に囲まれて攻撃をされる機会だなんて、そんなに多いはずは――
……無くも無いのか。自分たちの立場を考えれば、多くないわけも無い。
それなら私も、強くならないといけない。
私がもっと強くなれば、二人の負担も減るはずなのだから。
私の手に入れたユニークスキルは凄いものだけど、これからは根本的な強さも手に入れていこう。
今さらすぎて、何だか申し訳ないけど。
「――ちなみに私の『神竜の卵』は、何もしてくれませんでした!!」
少し間が空いたところで、エミリアさんがそんな話をねじ込んできた。
笑ってはいるものの、何だか少し悔しそうだ。
「あはは……。でも今回は何とかなりましたし、次の機会に期待しましょう。
こんなことが何回もあっても困りますけど――」
「そのときは、スペシャルでゴージャスなスキルを求めます!」
エミリアさんは明るくそう言った。
そしてまた、少しばかり空白の時間が訪れる。
……まぁ、次は私の番か。
でも、名前と効果を先に見せても、少し理解しにくいやつなんだよなぁ……。
「……それじゃ、次は私の手に入れたユニークスキルのことをお話しますね」
「「ユニークスキル」」
「え? あ、はい」
「アイナ様、さすがです……。
私はレアスキルでしたが、アイナ様はユニークスキルだったのですね……!!」
ルークが何やら尊いものを見る眼差しを向けてくる。
エミリアさんは横で静かに、頭を前後に揺らして大きく頷いていた。
「う、運が良かったということで……。
えぇっと……、ちょっと先に、具体的に使ってみますね」
私はアイテムボックスから水を出して、手元のコップに注いだ。
そしてそれを、二人の前に置いてみる。
「アイナ様、これは――」
「ただの水。……それじゃ、見ててね」
れんきーんっ。
バチッ
……その瞬間、コップの中の水が、お湯になった。
「「……え?」」
「――とまぁ、簡単に言うとこんなことができるようになったわけです。
スキルを鑑定すると、こんな感じ――」
そう言いながら、宙にウィンドウを映し出す。
──────────────────
【収納スキル拡張】
アイテムボックスの収納量を10倍にする。
自身の周囲をアイテムボックスとして扱う
──────────────────
「……??? アイナさん、ちょっと良く分からないですが……。
んんー???」
エミリアさんは難しい顔をしながら考えていた。
こんなの、やっぱり説明しないと分からないよね。
「えっとですね、私は収納スキルと『工程省略<錬金術>』のスキルを連携させて、一瞬でいろいろなものを作っているんです。
つまり、収納スキル……アイテムボックスに素材を入れることが前提だったわけです」
「はい」
「今回手に入れた『収納スキル拡張』は、自分の周囲を『アイテムボックスとして扱う』んです。
つまり、必ずしも素材をアイテムボックスに入れる必要は無くなった……と」
「ふむふむ……。
つまりさっきのは、アイテムボックスとして扱われたこの辺りの――
……このコップの水を使って、錬金術でお湯にしたということですか」
「その通りです!
で、これを応用して色々とやらかしていたわけですね」
「色々と――」
「まずは……『疫病の迷宮』。
素材に『大地』なんていう無理難題がありましたけど、『周囲のもの』ということでクリアしたんです」
「なるほど……?
ちなみにディートヘルムを倒したのも、錬金術でした……よね?」
「ルークは見てたもんね。
あれはディートヘルムのまわりの酸素を――ああいや、空気の成分をちょっと変えて気絶させたというか。貧血にさせたというか」
「むむぅ……?
アイナさん、神剣カルタペズラを消したのも錬金術だったんですか?」
「はい。消したというよりも、元の素材に分解した感じですね。
分解したものは、しっかりアイテムボックスの中に残ってますよ」
「そうなんですか……。
……え? 神器の素材が残って……?」
エミリアさんも、さすがにこれには驚いたようだった。
神剣アゼルラディアは光属性の剣。
これを作るには『光竜の魂』が必要だった。
そして神剣カルタペズラは火属性の剣。
これを作るには『火竜の魂』が必要だったわけで――
「……なので、『火竜の魂』も無事にゲットできていますよ。
上手く結晶化していたようで、アイテムとして残ってくれました♪」
「「おお!」」
改めて振り返ると、神器の素材で一番難しいものは『竜の魂』だった。
偶然だか必然だかは分からないけど、今回はそれを手に入れることができた。
――つまり、第二の神器は手の届くところにある。
それを作れば、きっと私たちの力になるはずだ。
今後はそれも、目指していくことにしよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!