…接待終了後、俺は抱き締めていた本の中身を読むこととなった
俺が全力で頼み込み、それを珍しくアンジェラ様が了承してくれた為だ
そうして、アンジェラ様と共に『スミレの本』の一ページ目を開く
『スミレのページ』
『……気づけばこのイカレた世界にいた。毎日何処かで人は死んでいき、何処も彼処も死臭が漂っている。深夜になれば人間を燃料?として動く化け物共がうじゃうじゃと徘徊している。皆が皆この世界で真っ当に生きていける訳も無く、人を殺す事に快感を感じる変態だって珍しくない
……私は、そんな都市が大嫌いだった。裏路地の治安が悪いことなんて当たり前、誰も疑問を抱かない。そんな都市を変えたくて…署名活動を行って人を集めようとした。演説を行い人々の心を動かそうともした。……けれど、誰も聞いてなんてくれないし、都市は何も変わらなかった。
いずれ心も擦り切れ、諦めてネズミとして意地汚い生き方を重ねて…殺され掛けて。ゆっくりと瞳を閉じて、生きるのを辞めかけた時…貴方が現れた
貴方は誰も耳を傾けてくれなかった私の声を聞いてくれて、私を肯定してくれた。その瞬間私の全てが報われた気がして…私にこの都市は変えられないけれど…それでも良い。初めて、人の為に…貴方の為に生きたいと思えた。
だから、貴方の為なら何でも出来る。
貴方と沢山の人を殺したあの日も、貴方を庇って2つになった時も、また貴方と再会して、貴方が死んだ日も、私が貴方を守れずに死んだ日も、貴方の為に何も出来なかった日も、貴方を拒絶した日も、貴方の最期の言葉を聞くことしか出来なかった日も………全部全部全部全部…………苦しかった。
でも、その全部が貴方の為だから。
その為なら、何度だって苦しんでみせる。
貴方との”これから”の為なら…何度だって悲しんで見せる
何度でも、何度でも……何度でも。
…だから、泣かないで?ハンス。
私は貴方を恨んでなんか無いから。
この苦しみは、痛みは、悲しみは…結局無駄足だったかも知れないし、何もせずに居た方が幸せだったかも知れない。
…でも、いつかその全てを帳消しに出来る程の幸せが来ると私は信じてるから。
色んな事が絡まり合って、重なり合って、今の貴方が居るから。
…今までの私達が居るから。
……この思いが届くかも分からないし、
私の苦しみは誰にも届かないかも知れない。
……それでも、この気持ちは変わらない。
…………大好きだよ。ハンス。』
「……………ぁ」
記憶の中の彼女が、微笑んでいた気がした
「………………スミレ………」
…スミレの本を優しく抱き締める
涙も、嗚咽も、想いも、全てを垂れ流して
(……貴方が過ごしたあの時間は、私の過ごした時間の100分の1にも満たないのでしょう。
………それでも……。)
アンジェラは何か気付いた様な、気付かされた様な表情をしていた
「さぁ!それじゃあ準備して。
この都市の歌がフィナーレを控えているから……
お前はお前たちのストーリーを守らないとね?」
「イヒヒヒヒヒイイン!!
コココッッ!!!ワン!
キャーン!!キャキャキャン!!」
「……ローラン」
「何も言うな。
まだアルガリアを止めるべきという同じ目的があるから……。」
「……そう。」
「ああ、それが都市だ……
それはそれで、これはこれだから。
だから俺も徹底的に都市の人間としてお前を殺してやる。
俺はお前を殺して復讐を果たし、お前は俺を殺して自由を得ればいい。
お互いにストレートで簡単な1つの心構えで立ち向かえばいいんだ。
お前も別の考えを抱かずにただ、自由と復讐に対する欲望だけ抱いてくれればいい。」
「1歩先しか見れない愚かな利己主義……今の結果にのみ満足する間抜けな人間……。
それがお前だ。そして俺だ……。
いつか同じ理論で挫けるしかないはずだ……。
本当に自分の為を思うなら……お互いこんな選択をしちゃ駄目なんだ。
長くは続かないんだ……利己的でいるためには自分だけを見つめてはいけない。
周りの物も確実に目に刻むべきだったんだ。
全ては繫がっているから……。」
「……。」
「さっさと殺せよ。最後に迷ってちゃ外に出ても長く生きられないぞ。」
「……。」
『ローランを赦さない。この痛みすらも抱き、自由に向かって歩み出す。』
『ローランを赦す。全てを手放したまま、ただ元通りに戻す。』
(…私は……)
───でも、その全部が貴方の為だから。
───その為なら、何度だって苦しんでみせる。
───貴方との”これから”の為なら…何度だって悲しんで見せる
───何度でも、何度でも……何度でも。
(………そうね。)
”再び芽吹いた光の木は灰色の都市を暖かく染め上げる”
”都市を包んだ光は人々の心に染み入り……それまで過ごしていた感情と向き合う事になるでしょう。”
”ただ、種が撒かれたとはいえその変化が急激に起こりはしないでしょう。”
”きっと芽吹く時すらも違うでしょう。それは徐々に……。”
”でも、時が流れればみんながみることのできる……そんな変化の流れで都市を包み込むでしょうから。”
”自分が抱いている心に向き合ってさらけ出す機械が与えられるのよ。”
”……惜しくも私は、その姿を見れそうにないね。”
”最後の瞬間、あなたたちが残念って言ったのがどういう意味なのかやっと分かったわ。”
「ああ……この暖かい光の中で……共に美しく永遠なる踊りを踊ろうか。
みんな注目!
俺達を完成させてくれる最後の光を手に入れるんだ。
フィナーレはどうか俺に指揮させてくれるか?」
「その姿になっても相変わらずだな。」
「……どうして?いいえ……こうなっちゃ駄目……私が残ってちゃ……。」
「アンジェラ!久々に会えて嬉しいよ。
やっぱり機械の体に戻ってくるしかないのか……顔面蒼白だよ。」
「ローラン、何をやらかしたの。」
「最終日にお前が消えるところだったんだ。だから俺が光の柱からお前を取り出して。
後まだ終わったわけじゃないから……ちょっと待ってろ。」
「……そんなことするべきじゃなかった。
こうしちゃ全てを完全に戻せないのよ……。」
「全部無駄になった……。
最後の機会だったのに……。
ローラン……アンジェラ!!!」
「最後の最後まではお前らしくいなきゃ。
ガミガミ言うだとからしくないことしてるから隙ができるんだよ。」
「……おぞましいな。
少なくとも最後だけは美しく在りたかったのに。
……アンジェリカにはよろしく伝えとくよ、義弟。」
「……地獄に落ちとけ」
「ふぅ、大体は現状整理できたと思うんだけど……。
こるからどうするんだ?」
「どうしよう……。」
「やっぱり体は機械の体に戻ったな。」
「ええ……少しの間だけど、忘れたいことを忘れられて良かったわ。」
「図書館で本になった人が生き返るって言ったろ。
でも、今まで生き返ったのは青い残響とその友達しか居なかったろ。」
「長い夢から覚めるように、都市のどこかで目覚めるでしょうね。」
「……スミレが……生き返る……!?」
アンジェラ様からそう伝えられ、声を荒げてしまう
……スミレとまた再会してから、そしてスミレの本を読んでからはしっかりと接待するようになった
アンジェラ様曰く、
「その本に…いえ、彼女に助けられたからよ。」…らしい
…そんなスミレが生き返る?
本当だろうか?
流石に現実味が無く疑ってしまう
俺の手には未だにスミレを手に掛けた感触が残っていた
「…図書館が光を放ったあの日、今まで接待したゲスト達は生き返ったわ。
…いつ都市の何所で目を覚ますのかは分からないけれど…。」
「……そう……ですか………」
…例えその話が本当だとしても、もう二度とスミレとは会えないだろう
既に図書館は『頭』によって外郭へ放られた為だ
(……だとしても)
……何処かで生きてくれている
…確かに寂しいが、それだけで十分だろう
俺は図書館の天井…その先にある空を見つめる
きっとその空の下で、生きてくれているから
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最高ね!