テラーノベル
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🎧「熱」
夜。
いつもより、少し静かだった。
琉夏「……?」
ソファに座りながら、ふと顔を上げる。
音がしない。
いつもなら、どこかでギターが鳴ってる。
小さくでも、適当にでも。
でも、今日はない。
(……寝てんのか)
立ち上がる。
隣の部屋のドアを、軽く叩く。
琉夏「おい」
返事がない。
少しだけ、違和感。
ドアを開ける。
琉夏「……は?」
ベッドの上で、冬星が横になっている。
顔が、少し赤い。
琉夏「お前……」
近づく。
琉夏「熱あんじゃねえの」
冬星が、ゆっくり目を開ける。
冬星「……まあ」
声が、少し掠れている。
琉夏「“まあ”じゃねえだろ」
思わずため息が出る。
琉夏「いつから」
冬星「さっき」
絶対嘘だ、って思う。
でも、それ以上は言わない。
琉夏「薬は」
冬星「ない」
琉夏「だろうな」
短く吐き捨てて、部屋を出る。
夜のコンビニ。
さっきまでの静けさが、少しだけ重くなる。
(……なんだよ)
ただの風邪。
それだけ。
なのに。
妙に、気になる。
急いで戻る。
袋をテーブルに置く。
水と薬を取り出す。
琉夏「起きろ」
冬星が、少しだけ眉を寄せる。
冬星「……いい」
琉夏「よくねえよ」
半ば無理やり、起こす。
水を渡す。
薬を押し付ける。
琉夏「飲め」
少しだけ間。
でも、ちゃんと飲む。
それを見て、少しだけ安心する。
琉夏「ちゃんと寝ろ」
冬星「寝てる」
琉夏「さっきまで起きてただろ」
小さく返す。
でも。
それ以上、何も言わない。
部屋を出ようとして、止まる。
少しだけ迷う。
結局、ドアを少しだけ開けたままにする。
リビングに戻る。
ベースを手に取る。
でも。
弾かない。
ただ、持ってるだけ。
(……静かすぎる)
ため息をつく。
少しだけ時間が経つ。
また、部屋を覗く。
冬星は、眠っている。
呼吸が、少し荒い。
琉夏「……ばか」
小さく呟く。
何に対してかは、自分でも分からない。
ただ。
“いない音”より、もっとはっきりした違和感。
ここにいるのに、いつもと違う。
それが、少しだけ怖い。
椅子を引く。
ベッドの横に座る。
しばらく、何もしない。
ただ、そこにいる。
琉夏「……早く治せよ」
ぽつりと落とす。
返事はない。
でも。
その一言で、少しだけ落ち着く。
夜は、ゆっくり過ぎていった。
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