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「オーナーによく似た従兄の? あの、男前だけどちょっと怪しげな。今日も来られていましたね」
「ああ、俺が呼んだからね。あの人、くせのある女性が好みでさ。桜庭乃愛の話をしたら、興味津々でね」
玲伊さんは、ちょっと口の端を上げた。
「今ごろ、どっかで口説いてるんじゃないかな。そんな男に言い寄られて翻弄されたら、彼女も人のことになんて、かまっていられなくなると思うよ。遠慮なく振り回してくれって、念を押してあるし」
「まったく、相変わらずぬかりありませんね、オーナー」
笹岡さんは、なかばあきれたような声で言った。
「それは誉め言葉と受け取っていいのかな?」
「どうぞご随意に」
わたしも、笹岡さんの意見に完全同意だった。
実は、今回のパーティーでわたしたちの結婚を発表することにしたのは、桜庭乃愛の件のためだけでなかった。
なんの後ろ盾もないわたしとの結婚に、難色を示している彼の祖父を出し抜く意味も込められていた。
玲伊さんの顧客には、光島夫人を筆頭に各界のセレブが居並んでいる。
そんな方たちが集まっている場で結婚を公にしてしまえば、さすがに祖父も文句を言えないだろうという、一石二鳥の作戦だったらしい。
本当にぬかりがない人だと、あらためて思う。
玲伊さん、いや、わたしの夫は。
***
わたしたちは打ち上げから早々に部屋に引き上げた。
ビールかけ被害のせいだ。
でも、二人ともかなり疲れていたので、それはそれで、いい口実になった。
「うわ、まだ、べたべたしてる。気持ちわるっ」
「早くシャワー浴びなきゃ」
玲伊さんはシャワーブースに直行し、わたしは着替えやタオルを持って、後に続いた。
「タオル、置いておくね」とわたしが言うと、中から「優紀も浴びたらいい」と彼。
「うん」とわたしも言葉を返した。
ここで暮らしはじめたころなら、絶対にためらうシチュエーションだ。
でも慣れというのは恐ろしいな、と思いつつ、ドレスを脱ぎ、彼の待つシャワーブースに入っていった。
贅肉というものがまったくない、引き締まった彼の体は芸術品のようで、感心して見とれてしまう。
西洋の美術館に陳列されている古代の彫刻にも、まったく引けをとらない。
遠目で眺めていて、なかなかそばにいかないわたしに焦れて、彼は手を差し伸べる。
「おいで、優紀」
その手を握るとぐっと引かれ、すでに全身に水滴を滴らせている玲伊さんの胸に抱きとめられた。
「あのドレスを着た優紀、あまりにも色っぽくてさ。早くこうしたくてうずうずしてたよ」
耳に蜜のような甘い言葉を注ぎ込まれて、それだけで、わたしはすっかり骨抜きにされてしまう。
さっと体を洗い、シャンプーもしてもらい、それから、絶え間なく降り注ぐシャワーに打たれながら口づけを繰り返した。
「優紀……」
彼は腕に一層の力をこめて、わたしを抱きよせる。
すでに張りつめている彼の欲望がわたしのお腹のあたりで存在感を示している。
「そっちに手をついてごらん……」
欲情にかすれた声で彼が言う。
「ん……」
そして、わたしも、素直に彼の言うことをきいてしまう。
彼の手がわたしの双丘を押し開き、確かめるように狭間を行き来する。
「ああんっ……」
狭いブースのなか、シャワーの水音と喘ぎ声が満ちてゆく。
すると、彼の手の動きが急に止まった。
「えっ?」
「もっとしてほしい?」
わたしは首だけ回して、堪えきれないと目で訴える。
あんなことをされて、情欲を焚きつけられて、普通でいられるわけがない。
「でも、今は……ここまでにしておくよ。後でたっぷり可愛がってあげるから」
「どうして?」
玲伊さんはちょっと困った顔をして、それから耳朶をそっと噛みながら囁いた。
「俺、ちょっと興奮しすぎてる。今、優紀のなかに入ったら、一瞬で暴発しちゃいそうだからさ」と。
あけすけで正直な言葉に、わたしは顔を赤くして俯いた。
彼は顔にかかっているわたしの髪を両手で後ろに回し、それから唇をついばんだ。
ふたりともバスローブだけ身に纏い、玲伊さんはこんなときでも丁寧にわたしの髪を乾かしてくれた。
「もう一度、乾杯するか」
そう言って、彼は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ナッツをお皿に乗せてソファーテーブルに置いた。