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「リインカネーションの一周年と、優紀のリインカネーション(再生・転生)に、あらためて乾杯」
グラスを合わせてきた彼に、わたしは尋ねた。
「わたしの〈リインカネーション〉って?」
「ああ。今日限りで、もう過去を思い悩むことはなくなるだろう?」
本当にそうだ。
もう彼女の鋭い目つきを思い出しても、何ひとつ恐れの感情は湧いてこなかった。
彼は微笑み、それからわたしの髪に指を絡めた。
「それにしても今日の優紀は本当に素敵だった。惚れ直したよ」
「でも全部、玲伊さんのおかげだから」
彼はわたしの髪を口元に持っていき、軽く口づけをしながら、わたしを見つめる。
「いや、俺は導いただけ。優紀の努力が実を結んだんだよ」
手放しで褒めてくれるのはとっても嬉しいのだけれど、照れ臭くなってしまう。
そんなことないよ、わたしは首を振り、それから話を変えた。
「そうだ。わたし、これからもエクササイズ続けたい。体が軽くなると調子がいいことがわかったから」
「ああ、いいんじゃないかな。結婚式も控えてるしな。でもあんまり筋肉をつけないように気をつけろよ。優紀、ハマると徹底的にやるだろ」と言いながら、彼はわたしの二の腕を撫でた。
「うん、そうだね。気をつけます」
「あー、それにしても、いい夜だ」
彼は甘えるように、わたしの肩に頭をもたせかけてきた。
その様子がなんだか子供みたいで、わたしは腕を回すと、彼の頭をそっと撫でた。
仕事中の彼からは、とても考えられない無防備な姿。
わたしだけが知っている玲伊さん。
わたしの心に彼への想い、そして愛おしさが募ってゆく。
「しかし、さすがに疲れたね、今日は」と玲伊さんは大きなあくびを一つした。
「一日中、店中を駆けまわっていたんだもんね。お疲れ様……あれ、玲伊さん?」
横を向くと、彼は腕を胸の前で組み、目をつむっていた。
睡魔には勝てなかったようでそのうち、スース―と寝息が聞こえてきた。
あ、わたしによりかかったまま、寝ちゃった。
本当に疲れていたんだ。
起こしてはかわいそうだと思ったわたしは、しばらく、そのままの姿勢で彼の寝息に耳を澄ましていた。
他にはなにも聞こえない。
おごそかなほど静謐な夜更け。
世界にいるのはわたしたち二人だけのように錯覚してしまいそうになる。
そして、そのことがこの上なく幸せで……
「う……ん」
彼が身じろぎしたのを合図に、わたしは、そっと彼の唇に自分の唇を重ねた。
「優紀……」
「起きてた?」
「ほんの少し前にね」
そう言うと、彼はわたしの腕をひっぱった。
そして、ソファーに重なりあって倒れこんだ。
「あん、玲伊さん」
彼はわたしの首に手を回し、下から見つめてきた。
「初めてだね。優紀が自分からキスしてくれたのは」
「うーん、前にも、したことあったけど」
「あのときは、言われたからだろう。でも、今日は違った」
その様子があまりにも嬉しそうだったので、わたしは身を屈めて、もう一度、唇を重ねた。
はじめは大人しくわたしのキスを受けていた玲伊さんだったけれど、そのうち、ほのかにビールの味のする舌がわたしの口腔を這いまわりはじめて、形勢はすぐに逆転してしまった。
わたしを抱いたまま、彼は起き上がり、逆にわたしの背をソファーに押しつけ、唇を激しく貪りはじめた。
気が遠くなるほど長いキスから解放されたとき、わたしは囁いた。
「ねえ、疲れているんじゃなかったの?」
「今、少し寝たから、もう平気」
「でも、5分も寝てない」そう言って、わたしは笑った。
彼はふっと微笑みを漏らすと、ちょっと不満げな声で言った。
「レッスンの成果が出すぎたみたいだな。優紀、何されてもぜんぜん動じなくなったよね。前は、ちょっと深いキスしただけで、顔を真っ赤にしていたのに」
わたしは笑顔のまま、答えた。
「先生の熱心なご指導のおかげで」
そんなわたしの鼻先を彼はちょんとつつく。
「本当に生意気な生徒だな。でも、そんなことを言っていられるのも今のうちだよ」
「きゃっ」
彼はわたしを抱き上げ、口づけを落としながら、そこから一番近い、ゲストルームのベッドに運んでいった。
わたしをベッドに横たえると、彼はすぐ、わたしのバスローブのベルトをほどいた。
そして、自分のバスローブも脱ぎ去った彼にすぐ、組み敷かれてしまう。
両腕をまとめて頭の上で押さえると、彼は囁きながら、首筋に顔を埋める。
「優紀……愛してる」
素肌が重なり合い、わたしは安堵に似たため息を漏らす。
彼の唇は、額に、頬に、首筋に這いまわる。
そのうち、さっきのシャワーブースで火を付けられた、たまらなく悩ましい感覚に、ふたたび捉えられてしまう。
「あ……ん、玲伊……さん」
彼は半身を起こすと、熱のこもった視線をわたしに据えた。
そして、わたしが弱いところを熟知している彼の指は、両方の胸の尖端を捉える。
「やっ、ああん……」
感じている様を余すところなく見られていることの羞恥と、じわじわと脚の間に熱がたまってゆくような快楽に、わたしは声をあげながら、いやいやするように首を左右に振る。
「ああ、可愛いよ……もっと感じてみせて」
絶え間なく漏れるわたしの声に煽られ、彼の行為も激しさを増してゆく。
わたしが幾度も絶頂に達し、声も枯れはてたころ、ようやく彼がわたしを押し開いた。
「あぁ」
二人で同時に、ため息のような声を上げる。
「ゆ……うき」
今までにない激しさで抱かれながら、必死で目を開けて、わたしは彼を見つめ続けた。
情欲に身を焦がす、この世のものとは思えないほど美しい彼……わたしだけが知っている玲伊さんの姿を。
「れ……いさ……ん」
まるで祈りを捧げるかのように、わたしは彼の名を呼んでいた。
そんなわたしの声に答えて、彼は、まるで自分の存在をわたしに深く刻みつけるかのように、激しくわたしを貪りつづける……
わたしが欲しているように、彼もわたしを欲してくれている。
そのことが、何にも増して、わたしを陶然とさせた。
そして、心も体も、未知の快楽へと|誘《いざな》われていった。