世界最強シリーズに入る可能性があった没作品 がiCloud内から出てきたのでリメイクして出します。
高校生活にも慣れ、夏休みを目前とした7月。
朝、教室に入ると、とある噂が耳に流れてきた。
[なぁなぁ、今日、転校生来るってよ]
[え〜、性別関係なく可愛いといいなぁ…]
正直言って興味はあるが、面倒だからそのままスルーする事にした。どうせ後5分で結果はわかるのだから。
[席につけ。まず、ホームルームを始める前に、転校生の紹介だ。]
全員に噂は流れていたからか、もう興奮も収まり、緊張感が走る。
[じゃあ、入れ。]
その声と共に、開いていたドアをすぎて、教室に入ってくる。
その姿を見た瞬間に、心臓が跳ね上がった。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳がチラッと見える。
『…星月莉音です。よろしくお願いします。』
そう答えて、また俯く。
かっちりと着た 学ラン、深緑のはね毛。黒縁の太い眼鏡、綺麗な瞳。
大人しそうな子だな。
そう思った瞬間に、一つ後ろの席に座っているmenこと、大原桃弥が驚いたような、大きな声を出す。
〔えっ、おんりー⁉︎〕
『…men…?』
〔そうだよ、久しぶりだな‼︎〕
『…うん、そうだね。』
一瞬表情が明るくなった気がしたが、久しぶりと言われて、また暗くなった。
〔まぁ…そうだよな…〕
menだけが何かを知っているような顔をしていた。
ーーーーーーーー
6限が終わって、menに聞く。
〈ねえ、men…星月さんって…〉
〔俺の幼馴染。でもあいつっ…〕
menの言葉が止まる。
『… えっと…雪宮さん…?』
〈あ、星月さん⁉︎〉
『…men、別に話してもいいんだよ…?』
〔…じゃあここで話せる内容ではないし、屋上行くか。〕
ドアノブに触れ、押す。それだけなのに、緊張する。
外に出て、思いっきり空気を吸ってから、その場に座りこむ。
〔俺が話すね。〕
〔まずこいつは、才能があったんだ。魔法が使える、世界最強だった。〕
嘘でしょう。星月さんには申し訳ないが、少なくとも見た目からはそのようなイメージにはならなかった。
〔最初は、周りからも称賛されて、まあ、よかったんだ。でも、ここで、問題が起きた。〕
〔こいつは、拉致されたんだ。〕
ーーーーーーーー
あいつは、公園で俺と一緒に遊んでいたんだ。そうしたら、黒ずくめの覆面マスクを被った男たちがおんりーを攫ったんだ。
こいつは、この能力のせいで、利用されてしまったんだ。汚れた、金に目が眩んだしょうもない大人に。
もちろん俺は必死に止めた。できることは全てした。でも、成人した大柄な男なんかに、7歳のヒョロヒョロのガキなんかが勝てるわけがないんだ。途方に暮れることしかできなかったな。
3年経って、ちょうど俺もおんりーも10歳になった時、警察の協力のおかげでこいつは解放された。
ただ、常にそういった大人に狙われるようになって、自分の命の危機を悟った実の母親は、こいつを捨てた。
元々父親とは離婚していて、おんりーは一人で取り残されてしまった。
ただでさえ人間不信になっていたというのに、さらに母親にも捨てられて。
ーーーーーーーー
『…ごめんね、嫌なこと話させちゃって。』
〔全然。〕
『人に愛されたことがないんだ。結局、搾取されていただけだったんだ…』
そう呟く星月さんは、ものすごく寂しそうだった。
沈黙が流れる。その沈黙を遮るようにして、声を上げる。
〈愛してみせるよ。〉
『ぇ…?』
〈本当の愛を、僕が教えてあげるよ。〉
無表情に見えた星月さんの表情が、少しだけ明るくなったように見えた。
『…おんりー。おんりーって呼んで。なんだか堅苦しいから』
〈おんりー、これから、よろしくね。〉
そういうと、今でも少し表情がこわばっているけれど、ふっと笑ってくれた。
もう、夕焼けも群青色に染まってきていた。下校最終時刻5分前の鐘がなり、急がないと、と走って階段を駆け降りる。
今日だけで、おんりーのことを、たくさん知れたな。
BL要素はないです。期待した方、ごめんなさい。
コメント
5件
もうなんか、神最高やばいこれ好きだわ、うん(語彙力ぶっ飛んだ)