コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【紗那、元気か?】18:48
【俺は散々な目に遭ったよ。どうやら乃愛に騙されたらしい。紗那も乃愛のせいで大変なことになっているらしいな】18:49
【俺たちやり直さないか?】18:49
【だいたい俺と紗那がこんなになったのも乃愛のせいだろ。乃愛とは別れたから、俺たちはまたやり直せる。5年も付き合ったんだからお互いに愛情はまだあるはずだ。俺はそう信じてる!】18:51
【返事くれよ。既読にならないってことはもう俺のことブロックしたのか?】19:34
【おーい、紗那。返事しろよ】19:54
【お前、既読スルーかよ】23:58
【見てるなら返事しろって】0:12
【ふざけんなよ。こっちは譲歩してるのに無視するな】1:32
【お前のせいで今日寝てないんだわ。責任とれよ】5:42
【くそっ!仕事でミスしたらどうしてくれんだよ?】6:33
【くそねみー。今日絶対ミスるわ】7:48
【電車乗り遅れた。これ完全に遅刻】8:36
【紗那のせいで怒られただろ!】12:41
*
昨日からいきなり元カレがメッセージを送りつけてくる。
ただでさえ頭の痛くなることばかり続いているのに、優斗からこんなしつこいメッセージが来るとうんざりする。
通知は切っているので気づいたら100件とか表示されて見るのも億劫になった。
最近優斗は静かだったので、そろそろ縁切りできるかなと思い始めたところだった。
しかし千秋さんは「甘い」と言ってブロックも着信拒否もしないようにと言った。
何かあったときのための証拠になるから。
あとは、急に拒否すると相手が何を仕出かすかわからないから。
なので、ひたすら優斗のメッセージを黙って受け取った。
だいたい落ち着いた言葉から始まり、こちらが無反応だと感情的になっていき、最後は暴言。
この繰り返しなので証拠にするにはあまりに適した文面だった。
そして、これは優斗だけではなかった。
*
【紗那さんお元気かしら?
体を壊していないか心配だわ。
ゆっくり過ごしてみて落ち着いたのではないかしら?
優斗との付き合いは長いでしょう?
私たちもあなたを家族のように思っているのよ。
そろそろ戻ってきたら?
優斗も反省しているのよ。
これからは紗那さんのことだけ考えると言ってるわ。
あなたも実家は窮屈でしょうから戻ってくればいいわ。
結婚式の衣装はあなたの希望通りドレスでいいわよ。
おばあちゃんもあなたと暮らせることを楽しみにしているわよ】11:46
【紗那さん、どうしてお返事くれないの?
そういう失礼なことはやめなさい。
社会人としてどうなのかしら?
あなたは今まできちんとしてきたでしょう?
私はあなたのことをちゃんと理解しているわ。
だから一度会って話しましょう。
同居が嫌なら敷地内に別の家を建ててもいいわよ。
こちらは譲歩するのだから、紗那さんも誠意を見せてちょうだいね】21:03
【あなたはまだ優斗のことを怒ってるの?
ほんの浮気心なんだから許してあげなさい。
男はね、みんな一度は浮気するの。
だから、これくらいで腹を立ててはだめよ。
それにね、相手の子には二度と顔を見せないように釘を刺したわ。
だから安心して戻ってきなさい。
とにかく一度会いましょう】9:51
【返事してちょうだい!】16:34
*
優斗母に対してはもう突っ込みも忘れるレベルでただ無の感情になった。
腹を立てたり悩んだりするのも無駄。
私は淡々と優斗母のメッセージを保存しておいた。
一週間ほど経つと、周囲の反応も薄れてきて、私はとにかく仕事に邁進することにした。
あれ以来嫌がらせもなくなったし、みんな結局自分のことで忙しいから他人に構ったりできないのかもしれない。
それか、私に関わらないようにしているのか。
たまーにこっそり嫌味を言う子はいるけど。
私が書類の間違いを指摘すると若い子はその場で謝って立ち去ったあと、こっそり誰かに愚痴をこぼすのだ。
「あたしも呼び出されていびられるかも」
「こわーい!」
美玲と休憩スペースでコーヒーを買って飲んでいたら、私の悪口を話している子たちに出くわしてしまった。
やっぱり陰でこそこそ言われてるよね。
「こら、あんたたち聞こえてるわよ」
美玲が彼女たちに向かって声をかけると、みんな逃げるように立ち去った。
「美玲がいなかったら会社辞めてたかも」
「あんたは何も悪くないでしょ。堂々としていればいいのよ」
「あの写真……」
「誤解なんでしょ。紗那がそんなことするはずないもんね」
「うん、ありがと」
ひとりでも味方がいるから、私はまだ、辞めずに済みそうだ。
*
【紗那、俺は心を入れ替えることにした】19:01
【今まで紗那に甘えていたんだ。ひとりになって紗那の大切さがわかった】19:02
【これからは紗那だけを愛して生きていくと決めたから、安心して戻って来いよ】19:02
【そういえば覚えているか?】19:23
【俺たちの初めてのデートは水族館だったな】19:23
【紗那は魚を見て可愛いと言ってて、美味そうだと言った俺に紗那がふくれっ面になったよな。そんなこと言ったら魚が可哀想だなんて言ってさ】19:24
【でもな、紗那はその夜レストランで魚料理を食べたんだよ。俺がそのことを指摘したら、紗那はそれとこれとは別だって言ってまたふくれっ面になった】19:25
【そのとき紗那のこと可愛いなって思ったんだ】19:26
【この子を一生大事にしようってな。俺は初心に戻ることにしたよ】19:26
【そうだ。今度またその水族館に行こうか。俺たちは新しい関係を築くんだ】19:28
【紗那の返事を待ってる】19:28
【紗那、俺はいつまでも待ってるからな】19:59
【俺の愛する女は紗那だけだ】20:00
【夢の中で紗那に会ったよ。笑っていた。俺は悪いことをしたと反省した】
02:16
【紗那のことを思うと涙が出てくるよ】02:17
【紗那、世界で一番お前を愛してる】3:00
*
「気持ち悪っ」
最後のメッセージを見た瞬間に心の底から飛び出した言葉がうっかり口から洩れてしまった。
愛してるなんて表面的な飾りの言葉を並べ立てて自己陶酔するのもいい加減にしてほしい。
朝から気分の悪いものを見てしまった。
布団の中でスマホ画面を見つめていると、背後から腕が伸びてきてスマホを取り上げられてしまった。
「……千秋さん」
「ふうん、なかなか面白いね」
彼は胸もとが大きく開いたシャツを身につけた状態で寝転び、仰向けで私のスマホを見ている。
「そうやって見てると落としたときに顔面直撃しますよ」
「あはは。それ、わかる。俺もやったことある。結構痛いよね」
彼はけらけら笑いながら私のスマホ画面をスクロールした。
ここ最近は彼と私がお互いの部屋に泊まったりしている。
というのも私が精神的に落ち着かず、眠れない日が続いていたからだ。
千秋さんと一緒にいると眠れる。
恋人でもないのにこんな関係はどうなのだろうと思うけど、彼はまったく気にする様子もなく、ただ私のそばにいてくれる。
好きでもない女と寝れるなんて、彼も遊び人なのかなって思うときもあるけれど、今は彼の優しさに甘えていたいと思ってしまう。
「いつまで既読無視していればいいですか?」
私は千秋さんに訊いてみた。
いい加減にブロックしたいと思っているからだ。
すると彼は私にスマホを返しながら横向きで笑みを浮かべた。
「もう少し泳がせてみよう。そのうち向こうからアクションがあるから」
「え?」
アクションって優斗が私に何かをするってこと?
そんなの怖すぎるんですけど。
私が不安げに見つめると、彼は上半身を起こして腕を伸ばし、私の髪をくしゃっと撫でた。
「大丈夫。何があっても君を守るから」
その言葉にどきりとする。
彼は私と付き合おうなんて言うし、そんな期待させるような言葉も口にするし、一体何を考えているんだろう?
私たちはバーで初めて会っただけだよね?
彼がそんなに私に親切にしてくれる理由がいまいちわからない。
もしかして、詐欺じゃないよね!?
だってあまりにも別れさせ方に長けているような気がするから。
あ、もしかして副業で別れさせ屋とかしているのかな?
「千秋さん、副業してます?」
「え? いきなりどうした」
「何でもないです。忘れて」
毎日優斗から頭のおかしくなるようなメッセージが来るから私の頭が本当におかしくなっているのかもしれない。