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【紗那さん、朗報よ。

おばあちゃんは介護施設へ入れることにしたの。

これであなたも心置きなくうちへ来れるわよ。

その代わりなんだけど、施設代が高額なの。

あなたと優斗のお給料で支払ってくれないかしら?

紗那さんは大変優秀な社員だし、お給料も高いと優斗から聞いているわ。

大丈夫よ。子どもができたらあたしが面倒みるから。

あなたは家のことだけすればいいの。

どうかしら?

これで気が楽になったでしょう?】12:06



【わかったわ。

同居じゃなくてもいいわ。

敷地内にあなたたちの家を建てるから。

お父さんが頭金を出してくれるんですって。

可愛い息子のためだもの。当然よね。

家のローンは優斗と紗那さんの共同名義にすれば負担が少ないってご近所の方に聞いたのよ。

ここまでいい条件で嫁入りできるなんて他ではないわよ】16:28



【紗那さん、いい加減に返事をしなさい。

あなた失礼よ!

こちらがここまで譲歩しているのに何が不満なの?】18:51



【📞不在着信】19:46


【📞不在着信】20:01


【📞不在着信】20:34





【紗那、外を見てみろよ。今夜は星が見えるぞ】22:12


【思えばお前と星を見たことはなかったな】22:13


【俺たちはいつも一緒にいて、それが当たり前になったせいか、些細なことに感動しなくなった】22:13


【それは紗那がいつも近くにいたからなんだ】22:14


【紗那の大切さに気づけた今は、こうして離れているのも意味があると思ってる】22:15



【昨日俺は料理したんだぜ。野菜炒めにソースを入れてみたら結構上手くてな。今度紗那に作ってやるよ。俺も料理できるようになったんだ。嬉しいだろ?】22:21



【紗那、早く会いたい】23:46


【俺たちならやり直せる】23:46


【戻ってきたら最高に幸せな花嫁にしてやるよ】23:47



【なあ、そろそろ連絡くれよ。この世で一番紗那を愛してやれるのは俺だけだぞ】0:33


【無視するなよ。お前はそんな女じゃないだろ?】0:34



【どうして俺の気持ちをわかってくれないんだ】1:09


【返事しろよ。これ以上俺を苛立たせるな】1:11



【いい加減にしろ!ふざけんなよ!調子に乗るな!】2:05





「発言が過激になってきたんですけど」


朝食のためのコーヒーを淹れながら私がそう言うと、千秋さんはフライパンでパンケーキをひっくり返しながら笑って言った。


「焦ってるね」

「笑いごとじゃないです」

「じゃあ、そろそろ燃料を投下してみようか」

「え? これ以上激昂させてどうするんですか」

「決着をつけるんだよ」


千秋さんはそう言ってパンケーキを皿に重ねていく。

テーブルの上にはベーコンエッグとサラダがある。

私たちはテーブルに向かい合って座った。


「こちらが動けるように理由を作るんだ」

「はぁ……」

「正当に主張できるようにね」


千秋さんはそう言ってパンケーキの上からメイプルシロップをとろとろ落とした。


私はこの日、優斗にメッセージを返した。


【いい加減にしてください。私たちは別れたんです。これ以上しつこく連絡してくるなら警察に相談しますよ】


すぐに優斗から返事がきた。

そこには激怒して脅すような言葉から、泣きついてくるような弱々しいものまで立て続けに何十件も連投された。


【紗那、お前が悪いんだぞ!】

【反省して帰ってこい!】

【恥ずかしい真似はするな!】

【まわりに迷惑かけて楽しいか?】


私が一体何の迷惑をかけたというのだろう?

今まさに優斗のせいで千秋さんに迷惑をかけているのは事実だけど。


【いいのか?このままだとお前は会社にいられなくなるぞ?】


もしかしたら私のことを誇張して会社で言いふらすのかもしれない。

私は今、社内で立場が悪くなっているから、優斗はそれを利用するだろう。


私をさらに孤立させて誰にも頼れなくなったところで優斗が甘い言葉をかけてくる。そして私が逃げられないようにするのだ。


と千秋さんが言った。


「どうしてそこまでわかるんですか?」


私が訊ねると彼は冷静に答えた。


「こういう思考回路の人間はだいたい同じことをするんだよ」

「千秋さんの知り合いの方も?」

「……本当に厄介だった。俺の従姉なんだけどね」

「え? じゃあ、私にマンションを貸してくれた人が?」

「ああ。今は誠実な人と再婚して幸せに暮らしてる」


そう言って彼は柔らかく微笑んだ。





さっそく優斗は行動に出た。

週明けに会社へ向かうとオフィスビルに着く前に、彼は私を待ち伏せしていた。出勤する人たちが多く通り過ぎていく中、彼だけが私に向かって歩いてくる。


「紗那、おはよう。待ってたよ」


満面の笑みでそう言ってくる優斗に、私はぞぞぞっと背筋に鳥肌が立った。

他人の目もあるし、彼も変なことはできないだろう。私は毅然とした態度で接することにした。


「朝から何かご用ですか?」

「冷たいな。今まで毎朝起こしてくれたのに、そんな警戒心丸出しの顔するなよ。まるで見知らぬ人に声をかけられたような態度だよ?」

「あんな脅迫めいたメッセージをしてきたのに、よくそんな笑顔でいられますね?」

「仕方ないだろ。俺が優しい言葉をかけてやってるのに紗那が無視するからだ。お前はそんな失礼な女じゃなかったよな? 俺と離れて心が荒んでるんだよ。素直になれよ。俺のところに戻ってこい」


やばっ……!

やばいやばいやばい!!

ほんっとに頭がおかしくなってるよ、この人。


「最後にもう一度だけ言います。私たちは別れたんです。都合のいいことを言わないでください。私は絶対に戻りません」


強い口調で告げると、私の様子に通りがかりの人がチラ見していった。

しかし優斗はまったく気にする様子もなく感情的に私に迫ってくる。


「紗那、わがままを言うなよ! お前のせいでみんなが迷惑してるんだぞ」


みんなって誰よ。あなたとあなたの母親でしょ?

こっちはあなたのせいで他の人に迷惑がかかっているというのに。

などと言っても通用しないので、私はため息をついて短く返答する。


「もういいですか? 遅刻するので」


そう言って優斗の横を通り過ぎようとしたら、彼に腕を掴まれた。


「いい加減にしろ、紗那。戻らないとどうなるか……」

「ちょっと、放し……」


次の瞬間、私の腕を握っていた優斗の手が離れた。

同時に、背後からすらりと背の高い男性の姿が現れる。


「いい加減にするのは君だよ」

「千秋さん!」


千秋さんが優斗の腕を掴んで立っている。

けれど、彼はいつの間に近くにいたのだろう?

だって、マンションを出るときは会わなかったのに。


「は? 誰あんた」


優斗は眉をひそめて千秋さんを睨みつけている。

対する千秋さんもいつもの余裕ある感じではなく、少し強張った表情をしている。

次の瞬間、千秋さんはとんでもないことを優斗に告げた。


「俺と彼女は付き合っている」


私と優斗は同時に「え!?」と声を上げた。

周囲が少しざわつき始めた。


「なんだ? 朝から喧嘩か?」

「え? 修羅場?」

「てか、うちの会社じゃない?」


優斗は他人の目にようやく気づいておろおろし始めたが、千秋さんはまったく動じない。

さすがに私も恥ずかしくなって周囲に目を向けたあと、千秋さんにこそっと声をかけた。


「みんなが見てます」

「見せてやればいいよ。俺と君が付き合っていることを多くの人が証明してくれる」

「いや、恥ずかしすぎるから!!」


まさか、こんなことになるなんて思ってもなかったので内心焦りが込み上げる。だって、私は今、社内で最悪な印象なのに千秋さんを巻き込んでしまう。

彼のイメージに傷をつけてしまうかもしれない。そんな不安がよぎってしまったが、当の本人は本当に気にしておらず。


「君は元カレだよね? 未練がましく俺の恋人に連絡してくるのをやめてもらえる?」


千秋さんの言葉に優斗があんぐりと口を開けて絶句した。


「え? 何どゆこと?」

「あの人、元カレなんだって」

「うわ……きっつ」


周囲のひそひそ声に優斗が慌て出した。

まさか、千秋さんはわざと人の多いところで……?


「あのう、千秋さん……さすがに騒ぎになるとまずいので」

「どうして? 俺と君は何も悪いことはしていないのだから堂々としていればいいよ」


まったく恥ずかしげもなく、むしろ冷静な千秋さんに私まで圧倒された。

さ、さすがアメリカンというか、些細なことで動じないところはすごい……って、感心している場合じゃない。


「あんまり目立ちたくないので行きましょう」


そう言うと、千秋さんは私と手をつないでにっこり笑った。


「ああ、そうしよう。こうして衆人環視の中で恋人宣言したのだから、今後は一緒に出勤しようね」

「は、はぁ……」


衆人環視って日本語が使いたかったんだな、ってそんなどうでもいいことが頭に浮かんだ。

私は千秋さんに手をつながれたまま会社に向かって歩き、背後で優斗がぶつぶつ声を上げているのがうっすら聞こえた。


「裏切り者。慰謝料払えよ。お前浮気してたんだろ。何とか言えよ」


もう、聞こえないふりをした。

そしてこのあと、まあ予想していた通りのことが起こる。

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