テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
奏多
空はもうオレンジ色、深紅色、薔薇色、夕焼け色。太陽が屋根の向こうに沈み、長い影がアスファルトの上に、誰かの骨ばった指のように伸びている。日中の暑さの後では、このかすかな涼しささえも神々の贈り物のように感じられる。どこかで犬が吠え、どこか開いた窓から音楽が流れ、どこかで女性が子供たちを夕食に呼んでいる。
雷電は三階に上がる。階段が足元で軋む、それぞれが独自の音で。二階の踊り場では、ボルシチの匂いがする。誰かが料理をしていて、階段全体に匂いが広がっている。アパートは静かだ。母はおそらく仕事だろう。彼女は地区の病院の看護師で、勤務は十二時間、時にはそれ以上だ。帰宅は遅く、出勤は早い。二、三日会えないこともある。
雷電は玄関でスニーカーを脱ぐ。居間に入る。バルコニーのドアのところにしゃがみ込む。
夕日を見つめる。
窓は開いていて、暖かい空気がカーテンを揺らす。遠く、屋根の向こうに川の帯が見える。それは溶けた黄金のように輝いている。鳥たちはもう歌っていない。雀たちが寝る前に騒いでいるだけだ。
雷電は両腕で膝を抱える。背中をガラスにもたれかける。それは冷たく、気持ちがいい。
彼は弟のことを考える。
ヒラ。末っ子の弟。彼が死んだのは十四歳の時だった。十四歳、笑える年齢だ。額にニキビ、声は裏返り、懐中電灯で布団の中で漫画を読んでいた。犬と揚げ出し豆腐が好きだった。母のように医者になるのが夢だった。雷電はその時十五歳で、自分だけでぶらぶらしていて、弟をパンを買いに店にやった。
車。横断歩道。歩行者用の青信号。しかし運転手は酔っていた。会社の忘年会の後にハンドルを握り、制御を失った。全速力でヒラをはねた。体は十メートル飛ばされた。一瞬で死んだ。「痛っ」とさえ言わなかった。
雷電は五分後に駆けつけた。弟の白い、新しい、誕生日に買ってもらったスニーカーが、アスファルトの上に、体とは別に落ちているのを見た。そして血。たくさんの血。空を映し出す血の水たまり。
彼もその時、膝をついた。そして、今日のリュウタのように叫んだ。しかし彼の叫びはもっと静かで、内面的なものだった。
「ごめん」彼は弟の遺体の上でささやいた。「許してくれ。俺がお前を行かせたんだ。俺が悪いんだ。」
父はその喪失に耐えられなかった。
最初はただ黙り込んだ。二週間全く話さず、まるで影のように家の中を歩き回り、冷蔵庫を開け、閉め、椅子に座り、立ち上がった。その後、飲み始めた。最初は少しずつ、その後どんどんと。仕事を失った。夜中に叫び始め、冷や汗をかいて目を覚まし、ヒラを呼んだ。母は泣き、彼をなだめようとしたが、彼は母を突き飛ばした。
半年後、父はいなくなった。心臓だ。一つの臓器にとって、悲しみは大きすぎた。彼は台所で、頭をテーブルに落として死んだ。隣には、飲み残しのコップがいっぱい立っていた。
雷電は学校に行く準備をしている朝、彼を見つけた。
その時、彼は泣かなかった。泣けなかった。内側は空虚だった。広大で、黒く、宇宙のように。彼はただ立って父を見つめていた。父の顔は、半年ぶりに落ち着いていた。
母は受付で泣き叫び、看護師たちは彼女に鎮静剤を投与した。
それから数年が経った。母は働いているが、どこか機械的に、起きて、行って、帰って、横になる。時々雷電は、母が冷めた紅茶のカップを持って台所に座り、一点を見つめているのを見る。「どうしたの?」と尋ねると、「何でもない、ただ疲れただけ」と答える。
彼にはわかっている。彼女はただ疲れているだけではない。彼女は内側で、一滴ずつ、毎日死んでいるのだ。しかし愚痴は言わない。
雷電は顔を上げ、夕日を見る。オレンジ色はもう紫色に変わり、地平線に最初の星々が輝き始めている。
彼は痛みについて考える。
「人は自分自身で痛みを作り出す」彼はささやく。「神でも、運命でも、カルマでもない。自分自身だ。自分の決断で。自分の言葉で。」
彼は今日の喧嘩を思い出す。リュウタが地面の上で悲鳴を上げていた様子。彼の鎖骨が砕ける音。
「彼自身が来た」雷電は声に出して言う。「彼自身がこの道を選んだ。彼自身が憎しみに自分を駆り立てた。そして憎しみは痛みを生む。俺の、そして彼の。」
しかし、選べない別の痛みもある。横断歩道の車のように、自分からやってくる痛み。心臓発作のように。死のように。
「その痛みは倒せない」彼は続ける。「耐え抜くだけだ。あるいは耐えられない。第三の選択肢はない。」
彼は指を握りこぶしにして、それから開く。
「そもそも、なぜ俺は戦うのか?」彼は自分自身に問いかけ、そして答える。「気が狂わないためだ。空虚以外の何かを感じるためだ。夜に悪夢を見ないほど疲れるためだ。」
彼は父のことを思い出す。父も若い頃、リングで戦っていた。アマチュアの試合だ。彼は良い右ストレートを持っていた。雷電は、父が自分にこう教えたのを覚えている。「決して先に殴るな。しかし殴られたら、一生忘れられないようにやり返せ。なぜなら、力なき優しさは弱さだからだ。そして弱い者は食い物にされる。」
「お父さんは正しかった」雷電は言う。「俺はやり返す。しかしやり返すたびに、俺は自分の中に痛みの欠片を残す。そしてそれは大きくなる。」
彼は立ち上がる。足が痺れ、鳥肌が全身を這う。涼しさのせいか、それとも思考のせいか。
アパートの中に入る。浴室で鏡を見る。割れた鼻、目の下のあざ、頬骨の擦り傷。シャツにはシミがあり、まるで吸血鬼の衣装のようだ。彼はそれを脱ぎ、冷たい水の張った洗面器に投げ込む。漬けておこう。
「ひどい顔だ」彼は呟き、顔を洗う。洗面器の水がピンク色になる。
彼は寝ずに、台所に座り、蛇口から冷たい水を自分に注ぎ、少しずつ飲む。壁の時計を見る。夜の十時。母はあと一時間で帰ってくる。
「花を買わなくちゃ」彼は思う。「明日。または明後日。お金ができたら。」
彼は水を飲み終え、グラスを流しに置き、部屋に行き、顔を枕に押し付けてベッドに倒れ込む。
眠りは来ない。
夜。
街の別の場所で。
ゲンゾはベッドに横たわっている。
部屋は小さく、物で溢れている。古いチップボードのクローゼット、壊れた脚の椅子(もう一年直そうと思っているが、なかなか手が回らない)、ひび割れた画面のノートパソコンがナイトスタンドの上、叩くと点滅する黄色い電球のフロアランプ。窓辺には、干からびたサボテン。ゲンゾはもう一ヶ月水をやっていないが、サボテンはまだ生きている。頑固だ、まるで飼い主のように。
窓は大きく開け放たれている。夜の音が部屋に飛び込んでくる。葉の擦れる音、遠くの犬の遠吠え、隣の家々のエアコンの唸り。空気は暖かいが蒸し暑くはなく、そよ風がカーテンを揺らし、その影が幽霊のように床を滑る。
ゲンゾは眠れない。
彼は仰向けに寝て、Tシャツを胸の上までまくり上げている。目は開いている、大きく、ぼんやりと、天井に向けられている。白い天井、見知らぬ国の地図のような、水漏れによる黄色い染み。シャンデリアから隅に向かうひび割れ、まるで稲妻のように。
彼は規則正しく呼吸しているが、心臓は速く打っている。理由はなく、ただ体が眠れず、何かしらの活動を求めているからだ。
右手が布団の下で動いている。
ゆっくりと、自動的に、ほとんど機械的に。まるで、止め忘れられたゼンマイ仕掛けの時計仕掛けのように。彼はそこすら見ていない。視線は天井、稲妻のひび割れ、黄色い染みに注がれている。その動きは、とうに快感をもたらすものではなくなった。ただの儀式だ。脳が眠るのを拒み、体が休むのを拒む午前三時にやる、何かの行為。
単調なリズム。静かな吐息。一瞬だけ筋肉が緊張する。腹部、腿、腹筋、それから弛緩する。
「くそ」ゲンゾは虚空に向かってささやく。
彼は手のひらをシーツの端で拭う。自分の手を見る。指が細かく震えている。
「俺はどうかしてるのか?」彼は天井に尋ねる。天井は沈黙する。
彼はまた始める。もう一度。そしてまた。
体は従順に反応するが、意識は冷たく、明晰で、いやに冴えている。ゲンゾは理解できない何かを考えている。人生についてではない。学校についてでもない。母についてでもない。喧嘩についてでもない。名前のない何かについて。空虚について。無限について。なぜ星は落ちないのか、落ちるはずなのに。
今晩五回目。五回目。
彼は五回目に果てる。短い痙攣、静かな呻き、そして再び空虚。手を離し、一秒だけ目を閉じ、開ける。
「不眠症」彼は呟く。「この野郎、不眠症」
立ち上がる。足が震えている。疲労から、過負荷から、もうどれだけ眠っていないのか分からないという事実から。二日?三日?それとも四日?もう数え切れない。Tシャツが背中に貼り付き、汗で濡れている。ゲンゾはそれを頭から脱ぎ、床に投げ、椅子の背もたれから別のTシャツを見つける。清潔だが、しわくちゃだ。
台所でお茶を淹れる。やかんの沸騰したお湯。彼はまだ昨日それを沸かし、お湯はぬるくなるまで冷めていた。ゲンゾは構わない。茶葉は安物のリーフティーで、縁が欠けたブリキ缶に入っている。彼は山盛り一杯をすくい、お湯を注ぎ、一分待つ。お茶は苦く、濃く、ほとんど黒くなる。
それをマグカップに注ぐ。古い、取っ手にひび割れのあるマグカップ。そこには「最高のパパ」と書かれている。何年も前の父からのプレゼントだ。ゲンゾは手のひらを温め、バルコニーに出る。
バルコニーは小さく、段ボール箱、古い靴、壊れた椅子で溢れている。手すりは錆び、ペンキは剥げ、コンクリートの床には、ずっと前に枯れた植木鉢の跡がある。ゲンゾは肘を手すりに乗せ、マグカップを両手で持ち、顔に近づけ、湯気を吸い込む。
街の上の夜は、ビロードのようで、暗く、ほとんど星はない。雲は低く垂れ込み、街の灯りで下からオレンジ色に照らされている。遠くで、ネオンサインの店が点滅している。ピンク、緑、ピンク。家々の向こうの広場で葉が擦れる音が聞こえる。ポプラの木々は、無風の時でさえ音を立てる。
ゲンゾはお茶を飲み、遠くを見つめる。
そして突然、気づく。
地区の別の場所、約一・五キロ先、地区の反対側で、窓が光っている。暗い建物を背景にした黄色い光の長方形。ゲンゾは最初は気に留めない。自分と同じように眠れない人がいるだけだろう。
しかしその後、窓が消える。
そして再び灯る。
消える。灯る。
一、二、三、四、五。
間。
そして再び。一、二、三、四、五。
「なんだありゃ?」ゲンゾは目を細め、凝視する。
窓は点滅し続ける。リズミカルに、急がずに、メトロノームの正確さで。誰かがスイッチのところに座って、一定の順序で押しているかのようだ。
モールス信号?それともただの配線の故障?それとも彼自身がもう故障しているのか?睡眠不足から、孤独から、全てが一度にから?
ゲンゾはマグカップを手すりに置く。落ちないように注意しながら。部屋に行き、棚を手探りし、古い双眼鏡を見つける。まだ父のものだ。革のケースに入り、レンズに傷がある。父の双眼鏡。父はゲンゾが小さかった頃、サッカーにそれを連れて行き、彼らはスタンドに座り、父がルールを説明した。今、双眼鏡は棚に埃をかぶっている。父は遠く、東京の建設現場にいる。
ゲンゾは双眼鏡の焦点を合わせる。
接眼レンズには、夜の街がぼんやりと、霞んで見える。彼は調整ダイヤルを回し、ピントを合わせる。
窓が近づく。
五階。それとも六階?多くのうちの一つの灰色のパネル建物。カーテンは半分閉められ、内部は弱い光、おそらくテーブルランプだろう。シルエット。誰かが窓際に座っている。その姿は判別できず、黄色い背景にただの暗い斑点があるだけだ。
点滅は続く。
一、二、三、四、五。間。一、二、三、四、五。
ゲンゾは冷笑する。喉が渇く。お茶から、緊張から、背筋を這う奇妙な感覚から。
「さあ、どうぞ」彼は夜に向かって大声で言う。一・五キロ離れた見えない人に向かって。「狙撃手。俺を撃て。どうせ。病気なんだ。不眠症だ。空っぽの頭と、憂鬱でいっぱいの口で。誰が気づく?」
何も起こらない。窓は点滅し続ける。
ゲンゾはバルコニーに立つ。片手に双眼鏡、もう一方の手には冷めていくお茶。一点を見つめる。
「SOSかもしれない?」彼は呟く。「助けを求めているのかもしれない?誰かがアパートに閉じ込められて出られないのか?それとも怖がっている子供か?それとも、どれだけ遠くまで見えるか試している、リモコンを持った馬鹿か?」
彼はじっと見つめる。シルエットは動かない。ただ座っているだけだ。
「それとももう幻覚を見ているのか」ゲンゾはささやく。「俺はどれくらい眠っていない?二日?三日?それとも四日?もう最後にまともに眠ったのがいつか覚えていない。前世かもしれない。」
彼は瞬きし、目をこする。目は充血し、炎症を起こしている。ウサギのようだ。ただ耳がないだけ。
窓が点滅する。一、二、三、四、五。
ゲンゾは一晩中そこに立つ。
彼が英雄だからではない。興味があるからでもない。どうせ眠れないし、何かしらの用事があるからだ。四つの壁の中に座って天井をじっと見つめるのは、もっと悪い。バルコニーには、少なくとも風と星があるからだ。
彼は点滅する窓を見つめ、冷めたお茶を一口含む。苦く、冷たく、不味いが、それでも飲み続ける。バルコニーで見つけたタバコのパックから二本吸う。古く、乾燥し、タールのような苦味がある。
夜の一時頃、窓は点滅を止め、黄色く、心地よい光でただ一定に輝く。三時には、完全に消える。暗い壁にただの暗い長方形だけが残る。
ゲンゾは見続ける。窓が灯っていない時でさえ、それがあった場所を見つめる。
「明日行く」彼は決心する。「見つける。どうにかして見つける。誰がいるのか見てやる。それとも何が。」
時計は朝の六時を示す。空が明るくなる。黒から青灰色へ、それから灰色へ、それからピンクへ、それから金色へ。東の空の雲が火事のように燃え上がる。鳥たちが呼び交わし始める。最初はおずおずと、一羽ずつ、それからどんどん大きく、そして今や声の洪水が全ての声で響き渡る。
ゲンゾはアパートの中に入る。ベッドに座り、頭を枕に置き、五分間目を閉じる。
目を開けると、もう七時だ。
「ちっ」彼は言う。
母は仕事に行っている。彼女は郵便局で働いている。小包、手紙、冊子小包を仕分けしている。大変な仕事、単調で、わずかな賃金だ。しかし彼女は決して愚痴を言わない。朝早く、六時に出かけ、夜遅く、九時に帰ってくる。時には、仕事が多いと十時に。父は日本にいる。東京に住み、建設現場で働いている。年に一度会えれば良い方だ。運が良ければ、飛行機代が十分にあれば。
ゲンゾは立ち上がり、シャワーを浴びる。水は冷たい。ほとんど氷のように冷たい。ボイラーが壊れていて、母はもう三ヶ月も修理業者を呼ぶと約束しているからだ。冷たさが肌を焼き、夜のべたつき、汗、不眠の残りを洗い流す。彼は安物のシャンプーで髪を洗う。それは化学薬品と緑のような何かの匂いがする。タオルで体を拭く。古く、ざらざらしていて、隅に穴が開いている。
鏡を見る。
目の下にたるみがある。紫色の、あざのように。顔色は青白く、灰色がかっていて、まるで死人のようだ。唇は荒れている。髪はあちこちに逆立っている。
「いい男」彼は笑わずに自分の鏡像に言う。「行って、街を征服してこい」
服を着る。Tシャツ、灰色、あるバンドの色あせたプリントが入っている。パーカー、黒、フード付き、肘がすり減っている。ジーンズ、青いが、膝のところはもうほとんど白い。スニーカー、かつては白かったが、今は埃で灰色になっている。
ポケットを確認する:キーホルダーの鍵、ひび割れた画面のスマートフォン、数枚の硬貨、味のしない古いガム、決して使わないヘアゴム。
アパートのドアを鍵で閉める。キーを二回回す。階段を下りる。階段がきしむ、それぞれが独自の音で。二階の踊り場では、猫と安物の洗濯洗剤の匂いがする。近所の誰かがもうテレビをつけている。天気予報を話すアナウンサーの声が聞こえる。
一階で、ゲンゾはゴミ箱に気づく。プラスチック製の、緑色の、溢れんばかりのゴミ箱。袋がはみ出していて、今にも落ちそうだ。
「よし」彼は言う。「口実だ」
袋を取る。重い。ジャガイモの皮、タマネギの皮、何か酸っぱくて甘いものが混ざったような匂いがする。中身がこぼれないように結び目を作る。
外に出る。
朝は灰色で、肌寒く、太陽はない。空は軽いベールに覆われている。霧ではなく、ガーゼのような薄いヴェールだ。木々は動かずに立っている。そよ風すらない。葉っぱさえ動いていない。庭には誰もいない。ただ遠くに、ほうきを持った用務員がいるだけで、去年の落ち葉をかき集めている。ほうきがアスファルトの上で擦れる音がする。リズミカルに、心地よく。
ゲンゾは袋をゴミコンテナに捨てる。大きく、金属製で、緑色のペンキが剥がれている。辺りを見回す。
隣の棟の入口は五十メートル先にある。同じように灰色で、みすぼらしく、もう十年は作動していないインターホンのボタンが付いている。玄関ドアは片方の蝶番で掛かっている。ドアの上には、色あせてほとんど読めない家番号のプレートがある。
ゲンゾが近づき、ドアを引く。
開いている。
「ラッキー」彼は呟く。
中に入る。
棟内は自分のところと似ている。湿気、古い埃、そして何か別のものの匂い。猫か、それともただ時間の匂いか。壁は剥がれ、ペンキは古い皮膚のように層になって剥がれ落ちている。床には、吸い殻、ひまわりの種の殻、何かの紙切れ。コンクリートの階段には欠けがあり、いくつかには黒い絶縁テープが貼られていて、何年もそこにある。
螺旋階段は、コンクリートの獣の食道のように上へと続いている。
ゲンゾは上がり始める。
一階。1号室、2号室、3号室。番号はブリキのプレートに書かれている。色あせ、ところどころ剥がれ、ところどころ歪に打ち付けられている。こちらの側の窓は西向きだが、あの窓は東向きだった。違う。
二階。4号室、5号室、6号室。ゲンゾは5号室の前で立ち止まる。耳を当てる。静かだ。ノックする。指の関節で、三回。誰も開けない。6号室も同じだ。4号室には誰かがいる。足音とテレビの音が聞こえるが、ノックに誰も出てこない。
三階。7号室、8号室、9号室。ゲンゾは廊下を前後に歩き、自分の歩数を数える。番号を見て、想像と照らし合わせる。東側、東側はどこだ?彼は踊り場の窓に近づき、外を見る。そう、あの建物が、遠くに見える。つまり、こちらの側の部屋の窓は、あちらの方に向いていなければならない。
四階。10号室、11号室、12号室。
五階。13号室、14号室、15号室。
六階。七階。
ゲンゾは二時間、その棟の中を歩き回る。上がり、下がり、また上がる。ドアをノックする。いくつかは、声や足音が聞こえるが、誰も開けない。いくつかは、誰もいないかのように死んだような静けさだ。いくつかは、ドアの下から玉ねぎの炒めた匂いがする。いくつかは、子供の泣き声、細くて耳障りな。
彼は窓を探す。東向きの、五階か六階の、点滅した光の。しかし特定できない。部屋番号は入り組んでいる。この建物の番地は奇妙で、非論理的だ。廊下は腸のように曲がっている。踊り場の高さは合っていない。五階のある場所では、部屋の代わりにただの壁がある。三階のある場所では、番号のないドアがあり、板で釘付けにされている。
「ちくしょう」ゲンゾは六階の踊り場で立ち止まり、ささやく。パーカーの下の背中に汗が流れる。「どうなってんだ?ふざけてるのか?」
彼は窓辺に座り、袖で額を拭う。向かいのドア、34号室を見る。彼の探している部屋ではない。
「思い違いだったのかも」彼は自分に言う。「ただの不眠症による幻覚かも。あれは窓が点滅していたのではなく、車のヘッドライトだったのかも。それとも広告か。それとももう気が狂いかけているのか。」
彼は五分間座っている。それから立ち上がり、階下へ降りる。
もう十回も見たドアを通り過ぎる。彼は迷路の中のラットのように感じる。あるいは、循環したコースをさまよって出口を見つけられない幽霊のように。
外に出る。光に目を細める。太陽がようやく雲の間から顔を出した。黄色く、明るいが、まだ暑くはない。
コメント
1件
エピソード、読み終えました。 まず、雷電の回想シーン、ヒラの死と父親のその後…あのアスファルトの上に血の水たまりが広がる描写が、ずっと目に焼きついて離れません。そしてゲンゾ、彼の不眠と孤独、あの点滅する窓。二人の夜が交差しないまま静かに語られる構造が、すごく心に響きました。「人は自分で痛みを作り出す」という雷電の言葉、重いです。ゲンゾがあの窓の主を探しに行く終盤、この先どうなるのか気になって仕方ないです。良い読書時間をありがとうございました。