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⚠︎ 注意事項 ⚠︎
本作品は、山本様の楽曲『デロスサントス』に着想を得た、完全非公式の二次創作小説です。
実在の楽曲および関係者様とは一切関係ございません。
また、本作品は野球を題材としておりますが、登場する球団・選手・試合展開などはすべて創作によるものです。
特定の実在球団・選手・戦績等を意図的に反映、または揶揄する意図はございません。
野球という題材をお借りしたフィクションとしてお楽しみください。
本作には、以下のような表現が含まれます。
・痛覚を伴う描写
・楽曲やキャラクターに 対する独自解釈(解釈違い、キャラクター崩壊と感じられる可能性があります)
・モブキャラクターの登場
・他の合成音声キャラクターを連想させる容姿描写
・キャラクター同士の関係性が親密に見える描写
・やや砕けた、または下品に感じられる言葉遣い
(例:チクなぞ、三エロ など)
・公式設定の一部改変
・擬人化的な表現
・衣装の改変
・本作では重音テトをやや男性寄りの解釈で描写しています
以上の点をご理解のうえ、苦手な方は閲覧をお控えください。
サムネイルのイラストは自作です。
**無断転載・無断使用、AI学習などへの利用はご遠慮ください。**そんなことは無いとは思いますが。
(今後、挿絵を追加する場合があります。)
なお、本作は以前投稿していた作品ですが、体調不良の際に誤って削除してしまいました。
当時の内容を完全に思い出せないため、設定を残しつつ改めて書き直したリメイク版として再投稿しています。
再掲・リメイク作品となります。
当時読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけしますが、温かく見守っていただけますと幸いです。
第一話 ドミニカの大砲
助っ人は、一人でベンチに座っていた。
──あれはまあだいたい数年前の春のことだ。
ドミニカ共和国の出身だったか。
さっきの練習で、いきなりホームランを打つというマジヤバすぎることをして球場をざわつかせたくせに、本人はやけに大人しかった。
背中が寂しそう。
無理はない。初めての土地だろうし。
僕はそんな彼に駆け寄って、肩を叩いた。
「¡Eres realmente increíble!」
(君は実に凄いな!)
その言葉を聞いた瞬間、デロスサントスの硬かった表情が、驚きと安堵で崩れた。
「¡…! Hola, hermano… ¿tú también eres dominicano?」
(……!やあ兄弟……あなたもドミニカ人ですか?)
「¡Eso es! ¡Yo también soy dominicano y… un momento, ¡qué tontería! ¡Soy un bateador designado de treinta años, nacido, criado y con nacionalidad japonesa!」
(そうそう!僕もドミニカ人でさ……って、いや、んなわけあるか!僕は日本生まれ日本育ち、日本国籍の三十路5番バッターだよ!)
「Ah, qué lástima. ¡Pero hablas español muy bien!」
(ああ、それは残念。でもあなたはスペイン語がとても上手ですね!)
「No es para tanto…」
(それほどでもぉ……)
彼は初めて、僕に向かってクシャリと笑った。
オフシーズン。
メキシコから日本へ帰国した僕の足取りは重かった。
まあ、何回も派遣されてたら弱点なんてもう既に見抜かれているとは思うけど。
あんまりじゃない?
疲れと時差ボケで思わずため息が出る。
早く家に帰ってビールでも飲もう。
そのときだった。
「Ah, Tet」
たまたま、本当にたまたま、おそらくたまたま。
デロスサントスと鉢合わせた。
「……あー、ただいま。あれ、今年のオフは帰国しなかったの?」
「Sí!用事があった」
彼はそう言いながら見せつけてきたのは──帰化許可証だった。
「……は」
「日本国籍、取った。これで一緒に野球できるね」
「マジヤバすぎ……!んじゃ、もうドミニカの大砲じゃなくなるね?」
「Sí!」
……君がそれでいいならいいんだけどさ。
僕は君の真反対のメキシコリーグで外スラ空振りまくりましたよーっと。
バットの芯を外した乾いた音が、グラウンドに響いた。
白球はふらりと上がり、セカンドの真正面に落ちる。
守備についていた中原が、退屈そうにグラブを差し出した。
「はい、ポップフライ」
ぽん、とボールをトスされる。
僕はそれを見送りながら、バットを肩に担いだ。
「……外だよなあ」
ぼそっと呟く。
バッティングピッチャーの西野が、次のボールを握り直した。
春先の午前。
まだ観客のいないグラウンドには、バットの音と守備練習の掛け声だけが広がっている。
ここは、東京湾のすぐそば。
潮風が、少しだけ金属の匂いを運んでくる。
東京ベイ・シーサイドスタジアム。
そして僕らは、その球場を本拠地にする、東京ベイ・トライアングルズという、なんとも景気のいい名前の球団の選手だ。
まあ、景気がいいのは名前だけなんだけど。
「重音さーん、また外っすよ」
セカンドの中原が笑う。
最年少で、やたら口が軽くて生意気。
悪いやつじゃないが、いちいち突っ込んでくるのが面倒くさい。
「知ってる」
「知ってて振ってるんすか?そ、そっすか……」
「君は実にうるさいなあ」
「お、おう」
僕はバットを構え直した。
また西野が腕を振る。
白いボールが、外角へ流れる。
スライダー。
分かっているのに、体が反応する。
バットが空を切った。
乾いた風だけが残る。
「……あー」
後ろで、誰かが小さく笑った。
振り返ると、ベンチ前のフェンスにもたれている大きな影が目に入る。
背の高い、浅黒い肌の男。
腕を組み、グラウンドを見下ろしていた。
……デロスサントス。
ドミニカ共和国から来た、うちの四番打者。
数年前、日本に来てからというもの。
ホームランを打つ、打つ、打つ。
外野スタンドを軽く越え、ヒットは量産され、気がつけばこの球団の四番になっていた。
通称、ドミニカの大砲。
本人はそんな呼ばれ方、あまり気にしていないみたいだけど。
僕がベンチに歩いていくと、デロスはゆっくり顔を上げた。
「テト」
「なに」
「また外スライダー」
「うん」
僕は素直に頷いた。
隠すようなことでもない。
このチームのピッチャーだって、もう知っている。
僕は外スライダーに弱い。
デロスは少しだけ笑った。
「でも、さっきより良い」
「そう?」
「バット、止まりかけてた」
そう言って、彼は僕のバットを指差した。
「次、当たる」
なんとも単純な励まし方だ。
……たった数年、日本語を教えただけでこんなに上手くなりやがって。
だけど、こいつは本気で言っている。
日本に来てすぐの頃も、同じようなことを言っていた。
思い出す。
まあ、思い出話なんていいか。
「デロス」
「ん?」
「今日ホームラン打つ?」
僕が聞くと、デロスサントスは少し考えた。
それから、あっさり言った。
「たぶんね」
「自信あるなあ」
「風、いい」
彼は外野の旗を指差した。
確かに、海風はライト方向へ吹いている。
なるほど。
今日のスタンドは近いらしい。
さすが四番。計算が雑だ。
「重音ー!」
グラウンドから声が飛んできた。
監督だ。
どこかの芸人にいそうな雰囲気の男が、ベンチの端でこちらに手を振っている。
「次、フリー打撃入れ!」
「はいはい」
僕はバットを持ってグラウンドへ戻った。
通り過ぎるとき、デロスが言う。
「テト」
「なに」
「今日、飲む?」
僕は振り返らず答えた。
「勝ったらね」
すると後ろで、低い笑い声がした。
ピッチャーがセットに入る。
ボールが放たれる。
外角。
またスライダーだ。
……分かってるってば。
僕はバットを振った。
白球は高く、センターへ上がった。
外野手が走る。
そして、グラブに収まる。
センターへのフライ。
「……うん」
僕は空を見上げた。
東京湾の風は、今日も強い。