「……じゃあ、やってみる?」
 
 
 そのひと言で、空気が変わった。
 冗談まじりだった空気に、少しだけ熱が灯る。
ふざけたノリのはずだったのに、なぜかみんな真顔になってる。
テーブルの上に散らばったさくらんぼの茎たちが、やけに生々しく感じた。
 最初に口を開いたのは元貴だった。
 
 
 
 「若井、一番早く結んだし……やってみる?」
 
 
 
 若井は酒で少し火照った頬のまま、「俺?」と笑いながらも、どこか余裕のある顔をしていた。
 
 
 
 「じゃあ、俺が涼ちゃんでいい?」
 「……は?」
 
 
 
 藤澤が思わず身を引いた。
けど、誰も冗談と返さない。
場の空気は、もう誰も止められなかった。
 
 
 
 「ほら、涼ちゃん一番結べてなかったし。どんだけ違うか、体感してみよ?」
 「な、なにそれ……いやでも、キスってそんな、」
 
 
 
 動揺しながら口を動かす藤澤の唇に、若井の指がそっと触れる。
 
 
 
 「じゃあ、目、閉じて」
 「……っ」
 
 
 
 照れ隠しも、逃げる隙も与えずに。
若井がゆっくりと藤澤の頬に手を添えた。
そのまま唇を重ねる。
 最初は軽く、確かめるように。
ただ、触れるだけ。
 けれど、次の瞬間——
舌先がそっと唇をなぞり、ぬるりと差し込まれた時、藤澤の背筋がピクリと跳ねた。
 
 
 
 「……っ、ふ……ぅん……」
 
 
 
 深く、ゆっくりと、でも確実に支配されていく。
柔らかく絡まる舌。
口内の隅々まで探るような動き。
苦しくなって少し離れようとしても、逃がしてくれない。
 それどころか、角度を変えてさらに深く、甘く、キスは続いた。
 藤澤の手が無意識に若井の服を掴んだ。
 
 
 
 (やば……これ、キスだけで……こんな……)
 
 
 
 吐息が止まらない。
何も考えられない。
視界がぼやけて、頭が熱を持つ。
 
 
 
 「……んっ、ふぁ……若井……もっと……して……」
 
 
 
 切れ切れの声で懇願した藤澤の瞳は、潤んで震えていた。
頬は真っ赤に染まり、息が荒くて、完全に若井のペースに飲まれていた。
 若井は少しだけ微笑んで、ゆっくりと唇を離す。
つながっていた唾液の糸が、名残惜しそうに切れた。
 
 
 
 「……どうだった?良かった?」
 「……っ、バカ、何それ……」
 
 
 
 藤澤はまだ息が整わず、肩で呼吸しながら睨むように言ったが、目は完全に蕩けていた。
 若井は、藤澤の髪に指を入れながら、ふっと笑って囁く。
 
 
 
 「もっとしてほしいなら……次は元貴としてみたら?」
 「……え」
 
 
 
 その言葉に、藤澤がはっと目を見開く。
さっきまでふざけていた空気が、一気に張りつめる。
 元貴はソファの奥に座ったまま、口元に指を当てていた。
一部始終を見ていたくせに、何も言わずに、ただ目を細めて。
 
 
 
 「……俺?」
 
 
 
 若井が藤澤から離れ、元貴の方を見た。
 
 
 
 「本当に上手いか、試してみたら?」
 
 
 
 
 
 
 
 
コメント
6件
つ、続きが気になりすぎて死にそう( ´ཫ`)
な、生々しい… 涼ちゃん 可愛い…💛

初コメ失礼です… 今心臓がねじれて吐血しました…ありがとうございます。 文章力、表現力、、そして発想!凄いですわ… もうちょっと早く知りたかった…🫠