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「……まさか、ダブルスコアで負けるとは……」
「さすがグリゼルダ様。一歩及びませんでした」
突然行われた釣り勝負の結果は――
グリゼルダが15匹
ルークが14匹
ジャニスさんが7匹
……という形で終わった。
「ふむ、釣りというのは面白いものじゃのう。
ジャニスはもう少し精進すると良いぞ。ルークはなかなかやりおるわい♪」
「ありがとうございます!」
最後はグリゼルダとルークの一騎打ちで、ジャニスさんは置いてけぼりを食ってしまっていた。
言い出しっぺであるにも関わらずその|体《てい》たらく。少し気まずかったものの、それよりも他の二人のデッドヒートは見応え十分だった。
「はぁ~、負け負け!
でもあんたたちがうちの村に来てくれれば、漁獲量も増えて安泰だよ!」
「それは何よりじゃが、妾たちは漁などはせんぞ?」
「え!? それじゃ、何のためにこんなところに引っ越してくるの!?」
ジャニスさんは意表を突かれたように、驚いて聞いてきた。
「えーっと……、私がこの辺りで錬金術のお店を出したいなぁ……って。
ほら、自然に囲まれたところで……みたいな?」
「またまたー! こんなところにお店を出しても、誰も来ないよ?
もしかしてアイナさん、お金持ちなの? 金持ち道楽?」
「いやいや、そういうわけでは無いんですけど……」
「アイナさんはSランクの錬金術師なんですよ!
だからこの辺りでお店を出しても、お客さんはきっと来ると思います!」
私が言い淀んでいると、エミリアさんがフォローしながらアピールをしてくれた。
……自薦よりも他薦。エミリアさんが言うことで、私の凄さが自然な形で伝わってくれるだろう。
「ふぅん、Sランクかぁ……。
そういうランク付けには詳しくないけど、何だか凄そうだね!」
「あはは……。まぁ、ぼちぼちですね……」
自分から詳しく言い直すのも面倒……もとい嫌らしい気がしたので、ここは適当な感じで流しておくことにする。
「――まぁそれよりも、じゃ。
ジャニスよ、約束通り魚料理を用意してもらおうかのう♪」
「ぐぬぬ、銀貨5枚だからね!」
何故かお金を求め始めるジャニスさん。
それは話がちょっと違うんだけど、その流れでグリゼルダがお金の話に念を押す。
「ちなみに、賭け金の金貨1枚も妾に渡すようにな!」
「今なら銀貨5枚の食事が、何と金貨1枚で無料に!
やったー! お得だね、毎度あり!!」
……へ?
よく分からない流れで、ジャニスさんは金貨1枚の賭け金をうやむやにしようとした。
別に賭けなんて、誰も本気にしてなかったからいいけど――
「ふむ、仕方のないやつじゃな。まぁ金貨1枚くらいはいいじゃろ。
妾はアイナから小遣いももらっておうからのう」
「アイナさん、私にもお小遣いちょーだい!」
「……いや、何で会ったばかりの人にあげなきゃいけないんですか……」
ジャニスさんはテレーゼさんとは違う感じで、ぐいぐいとくるタイプのようだ。
よく分からない流れを遠慮なくぶち込んでくるから、しっかり自分を保って流されないようにしないといけない。
「まぁ、勝負は勝負だからね!
約束通り、釣った魚で魚料理を振る舞ってあげるよ!
それじゃ私の村に、れっつごー!!」
勝負は勝負……! しかしそうは言うものの、賭け金の金貨1枚はどこかに行ってしまったようだ。
うーん、まぁいいけど……。いや、いいのかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジャニスさんの明るく無責任なトークに振り回されながら付いていくと、寂れた空気が漂う村に到着した。
規模としてはガルーナ村よりも小さく、それこそ細々と暮らしている……そんな雰囲気だった。
「――お客さん、姉貴が迷惑を掛けて、申し訳ありませんでした!」
「なによぉ! 折角お客さんを連れてきたのに!」
ジャニスさんの家で、がっちりした体型の弟さんと会うや否や、姉弟ゲンカのようなものが勃発した。
弟さんの様子を見るに、これまでに見てきたジャニスさんの言動や行動はいつも通りのことらしい。
……私は面白い人は好きだけど、この性格が万人受けするかと言えば、きっとしないんだろうなぁ……。
「どうせ姉貴の無茶な話に強引に付き合わせたんだろ?
まぁ、釣ってきた量は凄いけど……。
みなさん、少し待っていてください。じゃんじゃん料理を作っていきますので!」
「弟の料理は絶品なんだよ! ほらほら、早く~!」
「姉貴は手伝えよ!!」
私たちが呆けている中、ジャニスさんと弟さんの会話は止まらない。
何とも間が絶妙で、長年の付き合いが感じられる。
……ちなみに弟さんの名前は、ロブさんと言うらしい。
「ロブさん、ご迷惑をお掛けします。
何か手伝いますか?」
「いえいえ、お客様はゆっくりなさってください!
クレントスからここまでは遠いですし、きっとお疲れでしょう?」
ジャニスさんに対して、ロブさんの心遣いがキラリと光る。
ダメな姉に、デキる弟……そんな感じが伝わってきてしまう。
「ありがとうございます、それではお言葉に甘えさせて頂きますね」
「よーし、リリーちゃん! ゲームして遊ぼう!!」
「分かったの! ゲームって何をするの?」
「デルポリング! ルールは知ってる?」
「初めて聞いたのー」
離れた場所では、ジャニスさんとリリーが楽しそうに話をしている。
他のみんなはその様子をまったりと眺めているようだ。
「……ジャニスさんって、何だか面白い人ですね」
「ははは、やかましいくらいに賑やかでしょう? お客さんたちも無茶なこと言われたんじゃないですか?」
「釣り勝負を持ち掛けられました。金貨1枚を賭けさせられて……」
「ええ……? も、申し訳ありません……。
もしかして、払わさせられましたか……?」
「いえ、私の仲間が1位と2位だったので大丈夫でした。ジャニスさんが3位で」
「……漁師が釣り勝負を持ち掛けて、しかもビリだとは……。
お客さんたちには申し訳ないですが、何とも嘆かわしい……」
「あはは……」
こと今回については相手が悪かったような気もするけどね。
何せ光竜王様と万能超人が相手だったのだから。
「それよりも台所は大丈夫ですから、向こうでみなさんとゆっくりしていてください!」
「えっと、やっぱり手伝っちゃダメですか?
私も旅先でよくお料理をするんですが、魚料理ってあまり作ったことがなくて」
「旅先で……ですか。凄いですね!」
「アイテムボックスを持っているから、材料を持ち運べるんですよ。
その関係で、食事は私が担当しているんです」
「ふむふむ、なるほど……!
食事は旅先での楽しみですからね。それでは申し訳ないのですが、お手伝いをお願いできますか?
本来は姉貴にやらせるべきなんですが……」
ジャニスさんの方を見ると、リリーと楽しく遊んでいるようだった。
どうやら今はフィーバーモードに入っているらしい。……一体、どんなゲームをしているんだか。
「いえ、うちの子も楽しそうなので、このままにしてあげてください」
「分かりました。それでは漁師の料理ではありますが、お教えできることはお教えしますね。
俺は祖母から教わったので、それなりにいろいろ作ることができますよ!」
「わぁ、楽しみです!
ちなみにジャニスさんは、お料理できるんですか?」
「……できると思います?」
「えっと、実は凄腕……みたいな……?」
「残念ながら、ハズレです……」
ジャニスさんとリリーが楽しく遊ぶ中、私とロブさんは話をしながら料理を作っていった。
教わることも多く、これからの旅先でも役に立てることができそうだ。
レパートリーが増えれば、食事の楽しみも増えるというものだし、ね。