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手早く作りはしたものの、やはり料理を作る時間に比べれば、食べてしまう時間の方が早いわけで。
食卓に並べられた料理はエミリアさんとみんなの活躍もあって、あっさりと全部なくなってしまった。
「――ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」
「ふふっ。エミリアの食いっぷりは気持ちが良いのう」
そう言うグリゼルダは、控えめな量で済ませていた。
きっと、じっくりと楽しむタイプなのだろう。
……お酒を飲みながらだと、もしかしたらちょうど良いペースだったのかもしれない。
「リリーもお姉ちゃんくらい、食べられるようになるの!」
「まずは美味しく食べるのが一番ですよ!」
「うん! たくさん美味しく食べられるように頑張るの!」
……エミリアさん、お願いだからリリーをフードファイトの道に|誘《いざな》わないでくださいね。
「いやぁ、それにしてもアイナさんが手伝ってくれて助かったよ。
弟は台所にずっと立ってると疲れちゃうんだよね」
「おい、姉貴!」
「えーっ。だっていつもはこんなに作ってくれないじゃーん」
ロブさんが諭したにも掛からわず、ジャニスさんは相変わらずのマイペースで話を進めていく。
「あの、どこか悪いんですか?」
「弟はね~、脚を昔、怪我しちゃったんだよー。
海に出たら渦に巻き込まれちゃって」
「だから! お客さんにそういう話をするなよっ!!」
「ああ、何だかすいません……。
ところでこの辺りは海の難所って聞いていたんですけど、どんな感じなんですか?」
折角の機会だし、申し訳ないけどロブさん本人に聞いてみよう。
「……一見すると穏やかに見えるんですが、少し離れると潮流が激しいんです。
アイナさんたちも興味本位で海に出ないようにしてくださいね」
「確かに、流れが下へ向かっているところがあるからのう。
それもこれも――」
「え?」
「……いや、何でもない。
まぁまぁ、妾たちは海には出ないようにしておこう」
「はぁ」
グリゼルダは何かを言い掛けてから、言うのを止めてしまった。
天候にすら影響を及ぼす彼女なのだから、もしかして海のことにも関係していたりして……?
……いや、何でもかんでも紐付けてしまうのはさすがに申し訳ないか。
――さて、それはそれとして。
ロブさんは脚が悪いということなので鑑定してみると、状態異常に『歩行異常(中)』が付いていた。
『歩行異常』は『歩行障害』よりも程度の軽い状態異常のようだ。
つまり昔のアイーシャさんやルイサさんよりは問題ないけど、それでも普通よりは問題がある……ということかな。
「ロブさん、お料理を教えて頂いたお礼にお薬を差し上げますね。
きっと良くなると思いますよ」
「え? 薬、ですか?」
私はアイテムボックスから薬を出すと見せかけて、薬をバチッと作ってロブさんに渡した。
入れ物はポーション瓶を使ったから、見た目はただのポーションだ。
「アイナさんのお薬はよく効くんですよ!
頭のてっぺんから足の先までばっちりです!
エミリアさんが私の代わりに、得意げに言ってくれる。
……頭のてっぺんって、育毛剤の話かな……。いや、あくまでも例えかな……。
「アイナさんは錬金術師だとは聞いていましたが……。錬金術って、そんな薬も作れるんですか?
えーっと……」
「折角もらったんだし、飲んじゃえば?」
少し困っていたロブさんに、ジャニスさんはあっさりと飲むことを勧める。
信用しているから……というよりも、勿体ないから……という雰囲気ではあったけど。
「そ、そうだな……。
それじゃありがたく、頂きますね」
「はい、ごくりといっちゃってください!」
ロブさんは不安な様子で、それでもぐいっとポーション瓶を口にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夕方、私たちはジャニスさんたちと別れて、最初の浜辺へと向かっていた。
ロブさんの脚も無事に治すことができて、彼はとても感動していた。
そしてそこからの流れで、ジャニスさんから『うちに嫁に来い』と言われ、何とも居づらくなって早々に戻ることにしたのだ。
……もう少し料理を教わりたかったけど、あんな雰囲気の中ではどう考えてもしんどいからね。
「アイナはモテモテじゃの~♪」
「はぁ……。いやいや、あれはそういうのではありませんよ?」
「えー、アイナさん気付いていなかったんですか?
お料理を運んでいるときとかも、ロブさんは微笑ましい目でアイナさんを見ていましたよ?」
「微笑ましいって……」
「ルークさんも、悔しそうにしていましたもん」
「し、してませんよ!?」
エミリアさんがまたルークをからかい始める。
だから私たちは、そういう関係では無いんですってば。
「……微笑ましい目で見ていたというのは、きっと私が教え子だったからですね。
ロブさんから魚料理をいろいろと教わりましたので。次の冒険のときは魚料理も作ってみますよ!」
「おぉー! それは楽しみです!
次はどこに行きましょう! 迷宮ですか!?」
……冒険に行くと言いつつも、その目的は完全に魚料理になってしまっている。
「お姉ちゃん、迷宮に行きたいの?
ママが許してくれるなら、入口を開けるの!」
「えっ!? リリーちゃんの迷宮はちょっと、レベルが高すぎるから……!」
リリーの提案に、さすがのエミリアさんも断った。
そもそも疫病にまみれたあの迷宮、中に入ったら食事どころではない。
「残念なの……。
でも、入りたくなったらママに言ってね!」
「う、うん……」
……果たして『疫病の迷宮』に入りたい人なんているのだろうか。
疫学の研究者はサンプルを取りに入りたいかもしれないけど……それくらいじゃないかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最初の浜辺に戻ると、ポエール商会の面々が野営の準備をしていた。
夜中の様子もしっかり見るために、一晩だけ泊まることにしていたのだ。
「みなさま、お帰りなさいませ!
食事まではもう少し時間がありますので、どうぞおくつろぎください」
「すいません、準備までして頂いて。私たちも手伝うことはありますか?」
「いえいえ、ここは私どもにお任せを!
……あ、でも、もしよろしければ、その――」
ポエールさんは少し言い淀みながら、私とグリゼルダをそれぞれちらっと見た。
「ふむ……。そうじゃな、せめてもの礼はしてやらんとな。
アイナよ、『竜の秘宝』はまだあったかのう」
「あー……。
そうですね、少しならありますよ」
「それでは食事の際に、ある分だけ振る舞うとしよう。
妾はいらんから、商会の全員に飲ませてやると良い」
「ほ、本当ですか!!? ありがとうございます!!」
グリゼルダの言葉に、ポエールさんは歓喜の声を上げた。
……ポエールさんはあのお酒のことを夢に見てしまうくらいだから、お礼としてはきっと最良のものになるだろう。
そんなことを考えていると、グリゼルダが耳打ちをしてきた。
「――あの酒はな、人心を掌握するにはもってこいなんじゃ。
ここは全員に飲ませてやって、人望を集めておくと良い♪」
「うわぁ。打算的ですね……」
「国を作ろうとする者が、物事を打算的に考えないでどうする。
そういうことが苦手なら、妾がこれから教えていってやるからな♪」
悪戯っぽく笑うグリゼルダではあるが、それは私のことを思ってのことだ。
……やはり彼女の言葉の端々からは、年の功を感じてしまう。
肉体的には生まれたばかりなんだけど、『転生』は基本的に前世の延長みたいなものだからね。
私だってこの世界に転生してから、まだ一年も経っていないわけだし。