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#二次創作
よんがつ
126
#夢小説
しらすのお部屋
567
つばさ
204
朝。
病室には静かな光が差し込んでいた。
永夢はベッドの上で窓の外を見ている。
腕には点滴。
身体は重い。
化学療法の疲労も残っていた。
だが。
今日が一つの節目であることは分かっていた。
骨髄移植へ向けた最後の前処置。
全身放射線照射。
永夢は自分の隣へ視線を向ける。
そこには誰もいない。
いつもなら。
何かと口を出してくる存在がいるはずだった。
「……まだ寝てるのかな」
小さく呟く。
永夢は少しだけ眉を下げる。
「無茶するなって言ったのに」
その時。
コンコン――
病室の扉が叩かれた。
「入るぞ」
飛彩だった。
その後ろから貴利矢も顔を出す。
「おはよ、永夢」
「おはようございます」
飛彩はカルテを確認する。
「体調は」
「問題ありません」
「……そうか」
短い返事。
だが飛彩は永夢の顔を見ていた。
「今日は予定通り照射を行う」
「はい」
迷いのない返事。
貴利矢が車椅子を寄せる。
「じゃあ行こうか」
永夢が乗り込む。
廊下へ出る。
車輪の音だけが静かに響いた。
しばらくして。
貴利矢が永夢を見る。
「…」
そして。
口を開く。
「パラドのこと、気にしてる?」
永夢は少しだけ黙る。
「……分かります?」
「顔に出てる」
苦笑。
永夢は窓の外を見る。
「僕の治療が進んでも」
一拍。
「パラドが目を覚まさないままだったらって」
飛彩が前を向いたまま言う。
「……さっきまで俺たちもパラドのところにいた」
永夢が顔を上げる。
「状態を確認して、色々調べている」
「でも」
飛彩の声が少し低くなる。
「未だに目を覚ます兆候はない」
「……」
「原因も、決定的なものは見つかっていない」
貴利矢が小さく息を吐く。
「今はあいつを信じるしかない」
永夢は俯く。
「そう、ですか」
飛彩が前を向いたまま言う。
「何か分かったらお前にも報告する」
「だから」
「まずはお前が治療に専念しろ」
「分かってます」
すぐに返事が返る。
「分かってますけど……」
永夢は手を握る。
貴利矢は何も言わず、ただ車椅子を押した。
飛彩も黙ったまま歩く。
車椅子はゆっくり進んでいく。
静かな廊下。
しばらくして、飛彩が口を開いた。
「小児科医」
「はい」
「最後にもう1度、 確認しておく」
その声に、医師としてのものとは違う、慎重さが混じっていた。
「全身放射線照射についてだ」
永夢は小さく頷く。
もちろん知っている。
医師としてなら。
だが今は、自分自身が受ける側だ。
貴利矢も横から続ける。
「新しい骨髄を受け入れるために、今ある骨髄の働きを抑える」
飛彩が頷く。
「同時に、残っている白血病細胞を可能な限り減らす」
「そのための前処置だ」
永夢は静かに聞いていた。
自分の治療内容。
理解しているはずなのに。
こうして言葉にされると、改めて重みを感じる。
「つまり……」
永夢が続ける。
「僕の中の細胞を一度、作り替えるための治療」
「そういうことだ」
飛彩は即答した。
「その後、ドナーから提供された造血幹細胞を入れる」
「新しい骨髄が定着するのを待つ」
貴利矢が苦笑する。
「医者同士だと説明するまでもないんだけどね」
「確認は大切だ」
永夢は少し笑った。
「そうですね」
車椅子は進む。
静かな廊下。
車輪の音だけが響く。
永夢は少しだけ天井を見上げた。
「緊張してる?」
貴利矢が聞く。
「少しだけ」
正直に答える。
貴利矢は笑った。
「まあ普通そうだよ」
レウコイド。
白血病。
抗体作製。
抗がん剤治療。
数え切れないほどの出来事を乗り越えてきた。
今さら逃げるつもりはない。
それでも。
やはり少しだけ怖かった。
その時だった。
向こうから歩いてくる人影。
「よう」
低い声。
大我だった。
永夢が顔を上げる。
「大我さん」
大我は車椅子の横に並ぶ。
「放射線照射。今日だったな」
「はい」
永夢が答える。
「わざわざ来てくれたんですか?」
大我が目を逸らす
「偶然通りかかっただけだ」
大我も小さく鼻で笑った。
そして。
放射線治療室前。
飛彩が車椅子を止める。
「ここから先は患者だけだ」
静かな声。
永夢は重い扉を見上げた。
貴利矢が苦笑する。
「終わったら無菌室だね」
「しばらくは会うのも制限される」
「はい」
永夢は頷いた。
迷いなく返した永夢に、貴利矢が横から覗き込む。
「へぇ」
「……何ですか?」
「いや?」
貴利矢は口元だけ笑った。
「寂しくないのかなーって」
「……」
一瞬。
永夢の表情が止まる。
「……いえ、そんなこと」
いつものように笑って返そうとする。
けれど。
その間が、あまりにも分かりやすかった。
「嘘が下手だねぇ」
「嘘なんかついてません」
「いや、今のは分かるだろ」
貴利矢が苦笑する。
そんなやり取り。
ほんの少しだけ。
いつもの空気が戻る。
飛彩は小さく息を吐いて、窓の外へ視線を向けた。
「……完全に会えなくなるわけじゃない」
「え?」
「窓越しなら会ったり話したりできるだろう 」
永夢は少し目を伏せた。
「……そうですね」
小さく息を吐く。
その様子を静かに見る飛彩。
飛彩の声が少し強くなる。
「何度も言っているが」
「今、お前が気にするべきなのは自分の治療だ」
永夢は分かっていた。
飛彩が言いたいこと。
貴利矢も。
大我も。
全員同じだ。
「ちゃんと戻ってこい」
大我が言う。
ぶっきらぼうな声。
永夢は少し目を見開いた。
そして。
小さく笑う。
「はい」
飛彩が扉へ手をかける。
「行くぞ」
永夢は三人を見る。
「お願いします」
静かな声。
飛彩が車椅子を押す。
重い扉の向こうへ。
治療室の扉が閉まった。
放射線治療室。
重い鉛の扉が閉まる。
治療室には、低い機械音だけが響いていた。
永夢は治療台の上に横になっている。
頭上には巨大な照射装置。
技師たちが最終確認を行う。
「体を動かさないでください」
レーザー光が身体の位置をなぞる。
腕の位置。
肩の高さ。
足の向き。
すべてが細かく調整されていく。
飛彩たちは少し離れた場所からそれを見ていた。
やがて技師が頷く。
「準備完了です」
技師たちは操作室へ移動する。
飛彩も扉へ向かった。
その時。
「飛彩さん」
呼び止められる。
飛彩が振り返る。
永夢は小さく笑っていた。
「ちゃんと戻ります」
ほんの一瞬。
飛彩の表情がわずかに柔らぐ。
「当然だ」
短く答える。
そして扉が閉まった。
静寂。
広い治療室に永夢一人。
スピーカーから技師の声が響く。
「これから全身放射線照射を開始します」
「体調が悪くなった場合は、すぐに申し出てください」
「はい」
永夢は静かに返事をした。
数秒後。
装置がゆっくりと動き始める。
低い電子音。
機械音が室内に響く。
永夢は天井を見上げた。
(これで)
(移植へ進める)
医者として。
この治療の意味は理解している。
自分の骨髄の働きを止めるための治療。
残っている白血病細胞を可能な限り減らし。
新しい骨髄を受け入れる準備をする。
そのための前処置。
必要な治療だ。
だが――
怖くないわけではない。
永夢はゆっくり息を吐く。
痛みはない。
けれど。
身体の奥から力が抜けていくような感覚があった。
倦怠感。
吐き気。
わずかなめまい。
これまで続いていた化学療法の影響もあるのだろう。
それでも。
永夢は目を閉じた。
頭に浮かぶ。
飛彩。
貴利矢。
大我。
そして――
パラド。
小さく息を吐く。
「絶対……」
かすれた声。
「負けない」
機械音だけが静かに響く。
永夢はただ耐え続けた。
コメント
1件
えっと……やばい、この話エモすぎて泣きそう😭✨ 永夢くんの治療が進む決意と、パラドがまだ目覚めない不安が交錯してて胸がぎゅってなったよ…!飛彩の「ちゃんと戻ってこい」の一言に全部詰まってる感じがするし、貴利矢の冗談混じりの気遣いも大好きなシーンだよ👍 あと「絶対…負けない」ってつぶやく永夢くんが強くて切なくて、応援したくなる〜!次の話も楽しみにしてるよ📖💕つばささん、執筆おつかれさま!✨