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#二次創作
よんがつ
126
#夢小説
しらすのお部屋
567
つばさ
204
どれほど時間が経っただろう。
やがて。
装置の動きが止まる。
電子音。
そして。
「照射終了です」
スピーカー越しの声。
永夢はゆっくり目を開けた。
全身が重い。
鉛でも飲み込んだような疲労感。
身体の芯が空っぽになったような感覚だった。
扉が開く。
2人の防護服を付けた人が入ってくる。
技師と飛彩だ。
飛彩が覗き込んだ。
「終わったか」
永夢は小さく息を吐く。
「……結構きついですね」
「当然だ」
飛彩は淡々と答えた。
技師が車椅子を用意する。
永夢は身体を起こそうとした。
その瞬間。
視界が揺れる。
「っ……」
ふらついた身体を飛彩が支えた。
「無理するな」
「すみません」
苦笑しながら車椅子へ移る。
飛彩はポケットから新しいマスクを取り出した。
「着けろ」
「お前も感染対策だ」
永夢は頷く。
「はい」
マスクを装着する。
飛彩は車椅子を押し始めた。
廊下。
照射前とは少し違う感覚だった。
身体が重い。
だるい。
頭も少しぼんやりする。
飛彩が静かに口を開く。
「今日の照射で、お前の骨髄の造血機能はほぼ停止した」
永夢は小さく頷く。
分かっている。
「今後、白血球はさらに減少する」
「感染症が最も危険な時期に入る」
「だから無菌室ですね」
「ああ」
短い返事。
病棟の奥へ進む。
やがて。
大きな扉の前で止まった。
【⠀無菌区域⠀】
その文字が目に入る。
扉が開く。
短い通路。
強い風。
エアシャワー。
清潔な空気が身体を包み込む。
そして。
もう一枚の扉。
その先には。
ガラス張りの個室。
白いベッド。
空気清浄機の低い音。
飛彩が車椅子を止める。
「無菌室だ」
永夢はゆっくり頷いた。
そして。
ふと後ろを見る。
ガラス越し。
そこには。
貴利矢。
大我。
2人ともこちらを見ていた。
貴利矢は軽く手を振る。
大我は腕を組んだまま。
ただ。
ゆっくりと手を上げる。
永夢は少しだけ笑った。
そして同じように手を上げる。
言葉は聞こえない。
それでも十分だった。
永夢は小さく頷いた。
そして。
無菌室へ入っていった。
骨髄移植まで、あと少しだった。
空気清浄機の低い音が響く。
無菌室。
白いベッドの上で、永夢はゆっくり目を開けた。
全身が重い。
骨の奥まで疲労が沈んでいるようだった。
放射線照射と化学療法。
前処置を終えた身体は、自分が思っていた以上に消耗している。
ガラス越しの世界は静かで
聞こえるのは空調の音だけ。
点滴につながれた腕を見つめる
そして、ゆっくり息を吐いた。
「……ここからが、本番なんだ」
ゆっくり視線を動かす。
ガラスの向こう。
飛彩。
大我。
貴利矢。
3人が立っていた。
貴利矢がインターホンのボタンを押す。
『聞こえる?』
永夢は少し身体を起こした。
「はい」
声は少しかすれていた。
貴利矢はその声を聞いて小さく笑う
『おつかれさん』
『結構きつそうだね』
永夢も苦笑した。
「正直……きついです」
『…当たり前だ』
大我が腕を組んだまま言う。
『全身照射も抗がん剤も終わった』
『今のお前は免疫も骨髄もほぼ空だ』
『少しの感染でも致命傷になる』
永夢は小さく頷く。
「……はい」
貴利矢が口元を緩めた。
『へぇ~』
『さっすが元放射線科医』
『白髪先生も、なんだかんだ永夢のこと気遣ってんじゃん』
大我は眉一つ動かさない。
『……黙れ』
目を逸らし、ぶっきらぼうな一言を放つ。
その返しに、貴利矢は肩をすくめて笑う。
『ほんと、みんな素直じゃねぇなぁ』
永夢は小さく息を吐いた。
どこか嬉しそうに表情が緩む。
飛彩が前に出る。
『前処置は完了だ』
永夢は静かに頷く。
「移植は……」
『2日後だ』
飛彩が答える。
『状態が安定していることを確認してから行う』
貴利矢も続けた。
『ドナーから採取した造血幹細胞を点滴で投与』
『それが骨髄に定着し始めれば移植成功だな』
永夢はゆっくり目を閉じた。
「……そうですね」
短い沈黙。
大我が低く言う。
『移植が終わるまで』
『気を抜くな』
永夢は小さく頷いた。
「はい」
翌日。
無菌室。
永夢はベッドの背を少し起こして座っていた。
顔色はまだ青白い。
だが、放射線照射直後に比べれば落ち着いている。
空気清浄機の低い音。
点滴の滴る音。
静かな個室。
病室の扉が静かに開く。
防護服に身を包んだ飛彩が入ってきた。
「飛彩さん」
永夢が身体を起こす。
飛彩はベッドの横まで歩み寄り、永夢の顔色を確認した。
「体調はどうだ」
「熱もないですし、大丈夫です」
飛彩は小さく頷く。
防護手袋をはめた手で永夢の額に軽く触れる。
熱感はない。
「そのようだな」
飛彩が端的に述べる。
「触診するぞ」
永夢は黙って頷き、病衣を少しめくった。
飛彩は防護手袋をはめた手で首元を確認する。
そしてそのまま腹部を軽く触診する。
圧痛はない。
続いて聴診器を胸に当て、呼吸音と心音を確認した。
「……」
異常は認められない。
それを確認すると、 飛彩は手元のトレーへ視線を移した。
「採血を行う」
「はい」
永夢は袖をまくり、腕を差し出す。
飛彩は慣れた手つきで採血を進めた。
「終わりだ」
針を抜き、止血を確認する。
「結果が出たら、また来る」
「お願いします」
飛彩は静かに病室を後にした。
――数時間後。
再び病室の扉が開く。
飛彩は検査データを手に、永夢の前へ立つ。
「特に問題はなかった」
永夢は少し安心したように息を吐いた。
「よかった……」
飛彩は表情を変えない。
「白血球はほぼ検出されない」
「感染症に対する抵抗力は極めて低い」
永夢は苦笑した。
「改めて聞くと怖いですね」
「怖がる余裕があるなら問題ない」
飛彩は淡々と答える。
永夢は少し笑った。
飛彩はデータを閉じる。
「移植を予定通り、明日実施する」
短い言葉。
だが、その重みは大きい。
「ドナーの採取にも問題はない」
「予定通り実施する」
永夢はゆっくり息を吐いた。
「いよいよですね」
飛彩は小さく頷く。
「ああ」
「明日に向けて休め」
「はい」
ーー無菌室。朝。
静かな光が部屋に差し込んでいた。
永夢はゆっくり目を開ける。
身体はまだ重い。
前処置。
放射線照射。
強い治療。
数日前までのことが、身体に残っている。
ベッド脇の鏡。
そこに映った自分を見る。
髪はない。
今はニット帽を被っている。
顔色も以前より白く。 少し痩せた。
でも。
目だけは変わっていなかった。
「……今日か」
小さく呟く。
骨髄移植。
ここまで来た
レウコイド因子。
白血病。
何度も越えられないと思った壁。
それでも。
今、自分はここにいる。
コンコン。
扉が開く。
入ってきたのは、防護服を着た飛彩だった。
無菌室用の装備。
顔はほとんど隠れている。
それでも。
その目で分かる。
「飛彩さん」
飛彩はベッド横まで来る。
「体調はどうだ」
永夢は反射的に答える。
「問題ありません」
飛彩は小さく頷く。
「そうか」
一拍置く。
そして、静かに続けた。
「……それで」
「気持ちの方はどうだ」
永夢の表情がわずかに揺れる。
目を伏せる。
そして。
「……少しだけ」
「怖いです」
正直な言葉。
飛彩は否定しなかった。
「大きな節目だ」
「怖がるのも無理はないだろう」
永夢は少し意外そうに飛彩を見る。
「……飛彩さんが、そう言うんですね」
「……」
永夢は小さく笑う。
そして飛彩の顔を見る。
じっと。
まるで何かを確かめるように。
「……どうした」
「いや」
永夢は少し首を傾ける
「ずっと思ってたんですけど」
「飛彩さん、最近ちょっと変わったなって」
飛彩は眉を寄せる。
「どういう意味だ」
「なんか……僕に対して優しすぎません?」
「飛彩さんなら『怖がるな』『患者なら覚悟を決めろ』とか言いそうだなって」
「もちろん、ありがたいですけど」
「……」
飛彩は黙る。
永夢は少し笑った。
「いつかみたいに、急に敬語で話し始めたりしませんよね?」
「お前に敬語を使う理由などない」
即答。
永夢は思わず笑う。
「でも、大我さんには使ってた時ありましたよね」
「……あれは」
一瞬、言葉に詰まる。
「色々あったからだ」
「忘れろ」
「無理ですよ」
永夢は笑った。
その表情を見て、飛彩は小さく息を吐く。
「……笑えるならもう問題ないな」
1拍。
「準備が整い次第、移植を開始する」
飛彩の静かな声が病室に落ちた。
コメント
1件
え〜!!ついに骨髄移植当日まできたんだね…😭✨ 照射後の鉛のように重い感覚とか、無菌室のひんやりした空気感がめっちゃ伝わってきて胸がぎゅっとなったよ…!! 特に飛彩さんが「気持ちはどうだ」って聞くシーン、あれ今までの冷徹な感じから変わったのが分かって泣ける…😢💕 永夢が「優しすぎません?」って笑いながら言うところ、もう尊すぎて叫んだわ!! 明日の移植、絶対成功してほしい…!応援してるよ永夢っ!!🌟