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「万時さん。あの…買い戻すとはどういう意味でしょうか?」
わからないことは尋ねよう。
「実は私、金融業も携わっておりまして」
にこ、と笑顔を向けられた。確か2Fは『エンマン』とかいう名前の金融業者が入っていたなぁ。名前からして…万時さんの会社に思えた。
「この二束三文のネクタイを担保に、あなたに2000円を貸し付けます」
「貸し付けですか? いや借金はしたくないです…」
しかもそんな怪しげな名前の金融業者からなんて、利息いくら取られるんだろう。怖すぎる。2000円の借金が気が付いたら利子がふくらんで200万円返せとか言われそう。
「今回のお話、借金とはまた異なります。んー…早い話、これは投資です。今、あなたにお金はない。でも、僕が軍資金として2000円を与えれば、それを使ってあなたはもっと離婚に近づく1歩を踏み出せるはずです。その情報収集をもとに、僕の店で色々ご購入ください。盗聴器、監視カメラ、GPS、なんでも売っています。この店に無いものはありません」
私は商談スペースから後ろを振り返った。店内には確かにいろんなものが置いてある。なんでも売買屋というくらいだから、どんなものでもありそうだ。
「なんでもあると豪語しましたが、ここでは在庫を置けるスペースが限られていますので、欲しい商品が店内に無い場合は、他の店舗や倉庫から用意します。まあ、最短で2~3時間あれば大抵のものは用意できます」
すごい…。
「ほんとうなら貸付の場合、臓器などを担保に入れていただくのですがね」
「臓器!?」
思わぬワードに肝が冷えた。臓器なだけに笑えない…。
「はい、ご説明いたします。買戻しの方法ですが、僕が貸し付けた軍資金を使い、無事にお金を増やすことに成功すれば、1万円でこのネクタイを買い戻してください。基本的に買戻しは売値の5倍の金額になります。条件がのめるのであれば、こちらの契約書にサインをお願いします」
おかしいな。ネクタイ売って飲み代ゲットのはずが、なんか思っていたのと違う展開に…。
でも建真の部屋にはもう入れないし、売るものもないし、この意味不明な条件を飲むしかないよね。背に腹は代えられない。
「わかりました! サインします」
契約書を読んで問題なさそうだったので、さらさらとサインを書いた。
とりあえず騙される・詐欺系ではないだろう。…多分。
「では、契約成立ということで」
万時さんは私から書類を受け取り、レジから現金2000円を抜き取って目の前に置いてくれた。よしっ、経緯はどうであれとりあえず目標金額ゲット!
「紀美さんはこれからどうされるのですか?」
「実は隣の居酒屋に飲みに行こうと思っています」
「軍資金は飲み代でしたか。しかしなぜ隣の店を選ばれたのですか?」
「半額券と名刺をいただいたので、それを使おうと思っています。『アナタのお悩み解決』って名刺に書いてありましたし、無知なので情報収集には最適かと思いました。毎日いろんな方と接しているでしょうから、店を切り盛りする女将さんと話をしてみようと思っています」
「半額ですか! それはいい。ならば僕もご一緒してよろしいですか?」
「えっ…いいですけど、店番は大丈夫ですか?」
初対面なのにもう飲みを一緒にするとか、陽キャの行動力すごい。
「張り紙をするので大丈夫です。あなたについて行けば、面白い話が聞けそうだ」
「や…別に面白くないと思いますが……」
「隣の店の女将とは、顔見知りなので僕がいた方が話は早いです。さあ、行きましょう」
「2000円しか所持金がないので、飲み代はキッチリ割り勘にしてくださいね」
「もちろん」彼はにっこり笑った。「貸し借りは一切ナシでいきましょう」
――万時 金成 が仲間になった!