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「えっと⋯⋯何?」
彼女の二の腕を強く握りしめていることに気が付き、私は慌てて手を離し頭を下げる。
「ごめん。マリ! 流石に酷かったと思う。私のことを考えて言ってくれたんだよね」
「うん、そうだけど」
何だか気まずそうに目を逸らされたので、私は彼女を見返した。
「ねえ、聞いて良い? どうして、私にそこまで親身になってくれるの?」
「それは⋯⋯同情? そう、同情してるからかな」
「同情!?」
私は思いもよらぬ言葉に目を見開く。私は同情されて、気に掛けて貰えて嬉しいと思うタイプではない。
高杉家でベコベコにされたプライドと自意識が少しずつ回復しているのかもしれない。
「同情」という言葉に少なからず傷ついた。
「ここじゃ何だから、キャンパスぶらつきながら話そう」
「⋯⋯うん」
マリは私がショックを受けている事に気がついたのか、私の手を引き外に連れ出す。
確かに歩きながら話したほうが人に聞かれなさそうだ。
「私さ、実は美香の顔を知ってたんだ」
「えっ? いつから?」
「三年くらい前? 私もテニスやってて、関東大会で当たった事あるんだよ。まあ、覚えてないだろうね。見た目も変わったし⋯⋯超ブスだったから」
最後の方は消え入りそうな声で呟くマリ。
彼女が言い辛い秘密を私に話しながら打ち解けようとしてくれているのが分かった。
(私も打ち明けよう。マリと近づきたい)
「私も見た目変わったよ。高校時代は今みたいな体型だったけれど、結婚生活で残飯処理させられて九十キロあったんだ」
「ええ? 嘘でしょ。残飯処理って? 本当に酷いのと結婚したんだね。まあ、地方の美人は大体、お山の大将のヤンキーに目をつけられるからね」
「ヤンキーではないけど、私の親友と不倫するクズかな」
「親友ってもしかしてダブルス組んでた瀬谷愛子?」
どうやらマリは本当に私たちと対戦した事があるらしい。
「そうだよ。もう、親友じゃないけどね」
「まあ、不倫する奴はクズだな。友達ではない」
マリと価値観が合わないと思い込んでいたけれど、どうやらそうでもなさそうだ。
彼女は私に根気よく接してくれるあたり情がある。
「瀬谷さんも色々拗らせてたんじゃないかな? ダブルス組んでるのに皆、美人な如月美香にばかり注目してたから。私が瀬谷さんだったらキツイなって思って見てたよ」
「えっ?」
私はそんな事を考えた事は一度もなかった。でも、確かに高校の時は私は学校でファンクラブができるくらい人気者だった。
そんな私を愛子が独占したがっていると勘違いしていたが、実は嫌われていたのかもしれない。
ずっと一緒にいた相手に疎まれていたと思うと怖くて身震いがしてきた。
「そんな不安そうな顔しないで、他人の気持ちなんて理解できないのが普通だから」
「でも、マリは凄く私の気持ちとか理解しようとしてるよね」
マリは私にも心を寄せているが、一度しか見たこともない愛子の気持ちも分かろうとしている。
「うーん! やっぱり理解できないと思ってるよ。憧れてた元来の美人が見た目に頼って来たせいか、人を見る目ない上に人間関係構築に失敗してて同情してるだけだから」
「⋯⋯」
「憧れてた」とマリは言った。彼女にとって私は既に憧れの対象から同情の対象になっているのだろう。
何だか情けなくて涙が出そうだ。
「服、貸してくれる? あと、メイクも教えて欲しい」
「何? 急に」
「お金ないけど、綺麗にはなりたいんだ。助けて欲しい」
人に助けてなんていうのは初めてだ。
こんな風な言葉を出せるのは、マリが私を受け止めてくれると分かっているから。
「ラウンジ嬢はノーセンキューなの? 絶対、儲けられるのに」
揶揄うようなマリの言葉に首を振る。
「塾の講師とかやりたいんだ。教えるのが楽しくて」
私は若菜さんを教えていた時に、教える楽しさに気が付いた。
「時給良くて二千五百円、四時間拘束ということで一日一万円。残業代は知らん顔でやりがい搾取の塾講師をしたいの?」
「そ、そうなの? ブラッグだね」
「そうよ。世の中はブラック無糖なんだから。DV夫との結婚生活で思い知ってないの?」
海斗との生活は結婚生活だったのだろうか。私にとって結婚は奴隷契約だった。
「お金を稼ぐのって大変だね」
「だからラウンジに誘ったのに。せっかく痩せたなら、その男受けするルックスを活かしなよ。長期休みの時だけ地方でキャバ嬢とかで稼ぐのは? 周りにバレないし、見入り良いらしいよ」
一瞬、心が揺らぐも脳裏に芹沢慎也の顔が過ぎる。
私が悲しませたくない相手は夫でもなく彼なのだろうか。
「無理だよ。コミュ力ないもん」
「自覚あるんだ。美香はかなり空気読めないコミュ障寄りな人間だと思うよ」
都会の大学に入って、あっさり友達ができないことからも気がついていた自分のウィークポイントを指摘され若干イラっとする。
「言い辛い苦言を言ってくれてありがとう。マリも自分のこと名前呼びはやめた方が良いよ。バカっぽいから」
私たちはお互いの幸せの為に言いたい事を言い合った。
脇田マリとは何もかも合わなそうなのに、私は彼女と近くなりたいと思っていた。
私はその後、塾講師のバイトを週四回、芹沢若菜の家庭教師を週一回でするようになった。
季節は新緑が美しい初夏に変わっていた。
同じ教育学部の神崎君とは塾講師のバイトで一緒になり仲良くなれた。
少しお洒落な縁なしメガネをかけた真面目な子だ。
「高杉さん。今日こそは、ノー残業で帰りたいね」
「ふふっ、頑張ろうね神崎君」
「高杉さん、すぐ近くに住んでるから羨ましいよ。十時過ぎるようだったら、泊めてー」
「布団、一つしかないから無理!」
マリのいう通り、塾講師は非常にブラッグだった。
残業代は全くでず、仕事が終わらないのは仕事ができないせいだという風潮がある。
まるで高杉家のようだと思いながらも、仲間がいるので私は辛くなかった。
何よりも人に教えると言うことができるのが楽しい。
「高杉さん! 僕、廊下で寝るよ」
「だから、泊めないって! 丸つけ終わらなかったら、手分けして持ち帰ろう」
「持ち帰っても仕事やりたくねー」
神崎君は実家から通っていて通学に二時間かかる。
その為、十時過ぎると実家の最寄駅からのバスがなくなってしまうらしい。
いつものように神崎君と塾に向かう道すがら私は思わぬ男に出会した。
「芹沢さん?」
「美香さん、その男は誰?」
私は週一回の若菜さんの家庭教師の時はいつも芹沢慎也に送って貰っていた。
だんだんコミュ障の自覚をし始めている私だが彼は私との会話が面白いと言ってくれる。
そして自意識過剰かもしれないが、彼は少し私に好意を持ってくれている気がした。
既婚者だから好意が男女のものであってはいけないが、あまり人と関係を築けていないこの地で気に掛けて頂けてるのは私としては嬉しい限りだ。
今、目の前にいる慎也さんはまるで恋人にヤキモチを妬くような目で私を見ていて、私は困惑してしまった。
コメント
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美月ゆめか🌸です〜!第13話、読み終えたよ!! まりと美香の距離がじわじわ縮まってる感じ、すごく良かった😭💕「同情」って言葉に一瞬傷つくけど、まりは本当にちゃんと向き合ってくれてるんだなって伝わってきたよ。お互いの過去を打ち明け合うシーン、胸がぎゅっとなった… 最後の慎也さんの登場、完全にヤキモチじゃん!!🔥展開が気になりすぎるよ〜!次話も楽しみにしてるね⋆♡