テラーノベル
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あれから、季節がひとつ変わった。
肌にあたる風は、もう夏の終わりの匂いがしてた。
蒼真は、今や生徒会の書記として、黒板の前でふつうにしゃべってる。
誰にも笑われない。誰にも怯えない。
――いや、怯えてないわけじゃないけど、それでも“立ってる”。
陽翔は、やっぱりやんちゃで、元気で、バカで、でもどこか落ち着いた。
教室の一番後ろ。
2人で並んで外を見ながら、陽翔が言った。
「お前さ、最近ちょっと調子乗ってね?」
「は?」
「なんか、“クラスのまとめ役”みたいになってるしー」
「うるさい。元はと言えばお前のせいだろ」
「うん。オレが育てました☆」
「ほんとバカ」
「お前もな〜〜!」
笑いながら、肩をぶつけ合った。
ふと、蒼真がポケットから1枚の紙を取り出した。
それは、ボロボロのスケッチブックの切れ端。
屋上で描いた、陽翔の笑顔の絵。
「……まだ持ってたの?」
「うん。原点だから」
陽翔がそれを受け取って、少しだけ真顔になった。
「オレさ、昔の自分を忘れたくなかった。後悔したこと、許せないこと。
でも、お前に会ってから、思ったんだ。忘れなくていいんだって」
蒼真は、静かにうなずいた。
「俺も、忘れない。陽翔がいたから、今の俺があるって、ちゃんと覚えておく」
「なにそれ、プロポーズ?」
「は!?ちげーし!!」
「じゃあ記念日な!この日がオレらの“再スタート”!」
「うるせーよバカ!」
2人の笑い声が、青空に溶けていく。
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