彼とたくさんのことを話した。
彼のたくさんのことを知れた。
息を呑む音すら気になるほどの静けさに、お互いの距離がやけに近く感じられた。
だから、少しだけ気持ちが浮かれて、思いを抑えきれなくなって。
『やっぱり私時透さんのことがすき』
自然と口から零れ落ちた。そんな言葉を綴るのは、今回で何回目だろう。
「……また?」
時透さんの呆れを含んだ表情がこちらに向けられる。たったそれだけで、周りの空気が少しだけどろりと甘くなるのがわかった。時透さんの瞳に映っている私の顔は相変わらず真っ赤に染まっていて、心臓がものすごい速さで震え始める。
『はい。ずっと言い続けますよ』
だって好きなんだもん。と私が言うと、ほんのわずかな間、彼は黙った。
「ダメだよ、ちゃんと一生を添い遂げてくれるような人じゃなきゃ。」
この場に似合わない幼子をなだめるようなその口調についムッとして言い返そうと口を開いたその瞬間、言いかけた言葉は時透さんの仕草に遮られた。
こちらへゆっくりと伸ばされた彼の手が私の髪に触れ、指先でひとすじすくい上げられる。
え、と彼の表情をのぞくと、光の伏せた瞳と視線が交わった。
「僕が」
時透さんは俯いたまま、ぽつりという。
どうしたんだろうと首を傾げた次の瞬間。ドンッと背中に軽い衝撃が走り、目の前の景色が変わった。その拍子に冬の冷たい風が頬を撫で、空気が甘く笑ったような気がする。
『……ぇ』
押し倒された。
その事実を飲み込むより先に、彼の長い髪が私の頬に触れる。先ほどまで夜風に冷やされ、冷たかったはずの頬が段々と熱を持ち始めていった。
脳内に浮かぶ言葉は、私を押し倒す時透さんによってすべて声になる前に消され、空気に変わっていく。困惑が体の行動を止めてくるせいで、私は彼の瞳を見つめることしか出来ない。
そんな状況の中、当の本人は涼し気な顔でジッと私を見つめてくる。私を押し倒したまま。
もともと感情の読み取りずらい彼だが今回ばかりは本当に何を考えているのか分からない。
「……僕が鬼殺隊じゃなかったらよかったのにね」
そろそろ頭がパンクしてしまうのではないかと思った瞬間、彼はそう小さく言葉を吐いた。
触れればすべて壊れてしまいそうな距離で互いの息が混ざる。
「そうだったら、君と」
ぽつりと零したその声はどこか掠れていて、すぐに空気がその言葉を呑みこむ。
彼はほんの僅かに苦しげな表情を浮かべると、それ以上は言わなかった。
『時透さん……?』
「鬼殺隊じゃなかったら」って、鬼殺隊だから何だというのだ。
時透さんが鬼殺隊だったから、私が刀鍛冶だったから、だから出会えたのに。
時透さんと初めて会って、初めて好きという感情を知って、それから今までのことを思い出すと、身を焼かれるような熱がぶわりと湧き上がり、自身の心臓がドカンと弾けた。目の前が霞むほどの眩暈に頭がクラクラしてくる。
時透さんのせいで、こうなったのに。
それなのに、彼は。
「……諦めて」
永遠のように感じられる沈黙のあと、彼はそう言ってさっと私から自身の体を離した。
彼のぬくもりが自分の体から消えていくのをぼんやりと感じながら考える。
多分これは彼なりの忠告なのだろう。これ以上踏み込んでくるなという拒絶。
それは分かる。彼がそういう理由も何となく、分かるけども。
胸に湧き上がってきた言葉には言い尽くせないほどのたくさんの感情に、私は暴れ出したい気持ちを抑えて、ゆっくりと言葉を絞り出す。
『…いやです』
泣きそうになっているのを悟られないよう自身の膝に顔を埋め、ぽつりとつぶやく。
真っ暗になった視界で、時透さんが困ったように笑った気がした。
「だめ」
『いや』
「なんで泣くの」
『泣いてない!』
そう叫んだあと、私は深く息を吸い込み、堪えていた涙を流した。
私のこと助けてくれたくせに。
押し倒したくせに。
好きにさせたくせに。
理不尽だということもワガママだということも分かっている。迷惑だし重荷だし、そもそも私みたいな戦場にも出ない刀鍛冶が柱である彼に好意を抱くどころか、素直に思いをぶつけていいはずがないのに。
『時透さんじゃなきゃいやだ』
酷く掠れた声でそう言い、顔を伏せたまま時透さんの隊服の袖を掴む。これ以上声を出せば堪えている感情がすべて崩れてしまいそうで、口の中を強く噛みしめて言葉を潰した。
「顔上げて」
優しく促す声。大好きな声。
黙ったまま無視して俯いていると、彼の手がそっと私の肩に触れ、強くも弱くもない力で私の視線を持ち上げた。涙でぼたけた視界に、困ったような顔で私を見つめる時透さんが映る。
「……泣かないで」
控えめに伸ばされた指が、不器用な手つきで私の涙を拭った。
土曜日投稿します詐欺してすみませんめちゃくちゃ忘れてました(カス)
テスト終わったんでいっぱい投稿します!!!たぶん!!!()
コメント
8件
うんちょっとまってもうすきなんだが。。 くろてゃの作品すきすぎるどきどきしたまじで ほんと無一郎くんまじで沼なんだが。。。 押し倒すとかまじキュン死するて。。 鬼殺隊とか関係ないぜーって隠しになって登場したいそこにwwww (( くろてゃすきききき
んはーーードキドキ超えてドッキンドッキンだよわかる? 夢主ちゃんが最初は「好き」とかいうのめっちゃ躊躇してたのに時間が経つにつれそんなこと言うのも躊躇わなくなっちゃうのめっちゃ好き😻💖💖
きゃー! すっごくドキドキしました! でも少し悲しさもあってやっぱり黒透さん天才デスね!