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さて、万事休すな展開になってきた……。
ヴォルフの加護魔法は、主に振動によって攻撃する為、ダンさんの岩魔法は確実に効かない。
グランさんは、老いのせいもあるのか、ヴォルフの魔法も相まって、既にフラフラだ。
ルークさんは、助言はしてくれても、流石に正面切って仲間割れなんてしないだろう……。
僕は……。
風神魔法 ウィンドストームならヴォルフよりも高速移動が出来るが、木剣なんかじゃ傷を負わせられる気がしない。
風魔法 フラッシュで吹き飛ばしたところで、気絶すらさせられないだろう。
なんだよ、さっきから……気が散るな……。
さっきから、木剣を持つ手がドクンドクンと脈打っている。
緊張してるのか……僕は……。
いや違う……。この感覚は……。
“炎魔法 ラグマ” ……!!
「うわっ……!」
「おおおお!? なんだそれぇ!?」
僕の持っている木剣は、その全てが燃え盛っていた。
しかし、木剣が燃えている訳ではない。
「あ、熱くないのか……? それ……?」
ダンさんも急な発火に驚いている様子を浮かべる。
「多分、僕の炎魔法ですね……。燃えているのは、木剣と言うより、この外側みたいだ……」
(そうか、これが発動条件だったのか……!)
炎魔法は、『武器を介する魔法』ってことだったんだ……!
でも、炎を纏った剣を振るったところで、ヴォルフの魔法属性は水。
相性は最悪だ……!
そんな中、ほんのりとした熱を伝って、あの言葉が脳裏を過った。
” 任せたぜ、ヒーロー “
「ハァ……。ははっ、任されましたよ……!」
「どうした? いい作戦でも思い付いたのか?」
「違います。ダイジョーヴイ! なんですよ!」
「は……?」
“風神魔法 ウィンドストーム”
僕は一直線にヴォルフの眼前へと迫る。
野生の反射神経か……!
ヴォルフは風神魔法 ウィンドストームの速度に付いて来ている……!
ヴォルフの水陣は自身の身体能力強化と、自分以外に触れている者から魔力を吸い取る。
なら、ずっと飛び回っていればいい……!
「オラァ!!」
僕は炎を纏った木剣をヴォルフに振り翳した。
水龍の加護の魔法は、遠方へ、見えない水魔法の振動を使った攻撃。
見えないんだったら、攻撃される前に先手を打つ……!!
しかし、ヴォルフの高められた身体脳力は、今まで試合で見せていたものとは比べ物にならなかった。
ヴォルフは野生の反射神経で、ぶっ飛んで来た僕の位置を予測し、更に野生の勘で、着実な位置に爪を突き立てていた。
相打ち、に見えた。
「なん……だこれ……」
ジュウゥ……と小さく音を立てている。
僕の炎を纏った木剣は、見えない何かを、蒸発させていた。
その姿に、ヴォルフも初めて人語を口にした。
「は!? なんでだ!? 僕の水龍の加護を受けた加護魔法だぞ!! 炎魔法なんか打ち消せるはずなのに……!!」
どうやら、ヴォルフの水魔法の攻撃を、僕の炎の木剣が蒸発させているようだった。
しかし、僕も思う。炎に水は相性最悪だ。
何故……?
いや違う……。
これは炎魔法 ラグマじゃない……!
“炎神魔法 ラグマ・ゴア……!!
「これが炎神魔法の正体だったのか……!」
炎魔法 ラグマにより、武器に炎を付与。
炎神魔法 ラグマ・ゴアは、その炎で全ての魔法を蒸発させることができるんだ……!
「でも……これだけじゃ君は気絶させられそうにないから、少し痛いけど我慢してくれ……!」
そして、僕は片方の左手を上空へと向ける。
“風魔法 フラッシュ”
勢い良く吹き出る風魔法に、僕の炎を纏った木剣がヴォルフの放った見えない水魔法の全てを勢い良く蒸発させ、その勢いのままにヴォルフの脳天に木剣を叩き落とした。
木剣の触れた水陣は、ジュウ……!と音を立てて消えた。
その激しさに、木剣はまたしても砕けた。
ヴォルフは……気絶していた。
「炎の加護……貰っておいて良かった……」
「凄いね。流石は神の力だ!」
ルークは、見越していたかのように目の前に現れる。
「あっ、いつの間に!!」
しかし、ルークは一瞬でヴォルフを連れ、僕の目の前から消え去り、上空に移動していた。
移動が全く見えなかった……まさか瞬間移動……?
「止めてくれてありがとう! それじゃ、また会おう!」
そう言うと、ルークは一瞬で消え去ってしまった。
そんな中、
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
大きな音と共に、島全体が揺れ始めた。
「今度はなんだ……!?」
「ふぅ……。やあっと私の出番だぜ……!」
会場の端には、全身から炎を発したゴーエンがいた。
「貴様らァ! もうこの国に来るなァ!!」
そう叫ぶと、ゴーエンは海に向けて拳を突き出した。
「 “炎神魔法 シャイニング・ブロウ” !!」
「嘘……だろ……」
ゴーエンの突き出した拳は、海をパックリと割り、拳の跡がくっきりと現れた。
「チッ……ギリギリ届かなかったか……。逃げ足の早い奴らだ。まあいい、顔は覚えたからな」
炎の神 ゴーエンが戦えなかった理由は、この島を破壊してしまうからだろうと察した。
こ、怖い。すごく怖い。あと怖い。
「ほーら、さっさと敗退者はどいたどいた!」
パンパン、と、僕に向けて合図を送る。
ここまで壊滅しておいて、この神はまだ祭りを続行させるつもりなんだ……。
僕は駆け足で観客席まで避難した。
グランの治癒と、会場の壊れた箇所の修復が済み次第、決勝戦を執り行うらしい。
「お疲れ様でした、ヤマト!」
「あ! アゲル! なんで助けに来なかったんだ! オーバーでヴォルフを止めてくれれば少しは……」
「龍族にオーバーは効かないんです。それに、万が一にもカナンちゃんを負傷させるわけにはいかない。炎の神の超パワーは知っていましたからね。今回、足手纏いになってしまう僕は、カナンちゃんを避難させていたんです」
そう言うと、朗らかに笑った。
「そ、そっか……。なんか、ごめん……」
「ヒトは、ごめんよりもありがとう、と言われたい生き物らしいですね」
「お前はヒトじゃないだろ」
割れた木剣で軽くチョップをかまし、僕たちは避難していたカナンと合流した。
そして、最終試合、決勝戦が行われた。
例年の注目株の二人が新たな進化を見せ、観客席は大盛り上がりだった。
二人の戦いはとても楽しそうで、なんだかこっちまで見ていて楽しくなってくる試合だった。
「岩魔法VS岩魔法。まさに、漢の勝負ですね!」
「うん。すごく……かっこいい」
「カナンも岩魔法使えるようになりたい!」
「カナンには爆発があるだろー!」
最後は、グランの鎧をダンが破壊し、ダンの優勝として喧嘩祭りは幕を閉じた。
帰還船の中で、炎の神 ゴーエンと、守護神 ダンは、改めて僕たちの前に姿を現した。
「今回は助かったぜ。ありがとうな!」
そう言うと、ゴーエンは手を差し出した。
こう素直に感謝されると、なんだか照れるが、僕もその手を握り返して微笑んだ。
「俺のことも忘れるなよ! ヤマト!」
ダンは拳を突き出した。
「はい! 僕もダンさんみたいに強くなります!」
そう言い返し、拳を合わせた。
「次の国に行くなら、また船を出してやるよ! 船でなきゃ行けない国があるからな!」
「えぇ……、いいんですか……?」
「喧嘩祭りを救ってくれたヒーロー様だ! そんくらいさせてくれ!」
そんな次の国の目的地は、水の神がいる島国。
自由の国だ。