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僕らを乗せた船は、次の目的地、自由の国へと出航した。
船長ダンさんを始め、帰還時には漁をして帰ると言い、ゴーエンやグランさんまで総出で着いて来てくれた。
「あぁ! ちょっと待て、ダン! 今の季節、あそこの島の網を上げねえと全匹死んじまうぜ!!」
急に叫んだゴーエンは、楽園の国の漁業捕獲エリアを示した小さな島国を指し示した。
「そいつぁいけねぇ! 早く上げちまわないと! すまねぇ、ヤマト! ちょいと寄り道だ!」
情に厚い人たちだと感動していたところなのに、なんだかついで感が凄い……。
まあ、乗せてもらっているのは僕たちの方だから文句の一つも言えませんが……。
そして、島に着陸した。
「なっ、何? どっかの島に着いたの……? 自由の国にはもう少し掛かるはずだけど……」
「リョウ、マズイ! 船つけろ!」
「は……? 何言って……」
ドタン! と音を立て、荷物が何個か崩れ落ちた。
「いたたたた……。ア、アンタ、旅人の仲間の子供じゃないのよ!」
「いぇっさー! カナン!」
「カ、カナンちゃんって言うの……? 私は……セーカ……」
「セーカたいいん!」
「え!? た、隊員!?」
カナンは、退屈な船旅の中、船内を探検していた。
そんな中、出会したのだ。
金髪を靡かせた少女、セーカである。
「ちょっと様子を見てみるから、待ってて」
セーカは、楽園の国の住民だったが、炎の神 ゴーエンにも内緒で船に潜み、乗り込んでいた。
「あ、ちょっと、勝手にどこ行くのよ!」
「あっちにこだいいせき! たんけん!」
ダンたちが大きな網を引き上げてる最中、二人は船を降りて小さな遺跡へと足を運んでしまった。
「何ここ……崩落した遺跡……?」
炎の神 ゴーエンの海を割くパンチにより、楽園の国の周囲には崩落した遺跡がいくつかあった。
「いせき! おたから!」
「ちょっと! 一人は危ないじゃない!」
遺跡と聞いたカナンは、意気揚々と、遺跡の中へと入って行ってしまった。
セーカも、カナンを放っておけず、共に遺跡の中へと駆けて行った。
遺跡の中は外の光が差し込み、あまり暗くはなかった。
むしろ、苔が陽の光を浴びて、緑色にキラキラと輝いて見えた。
「カナンちゃん、崩落した遺跡とは言っても、古代兵機が動き出すかも知れないわ。帰りましょう?」
セーカは古代書の資料を読み漁るのが好きだったが、その代わりに偏った知識を盲信していた。
「セーカたいいん! 人いる!」
「え!? 嘘!? 本当に古代兵機!? 私たち以外上陸なんてしていないはずよ!?」
時は遡る。
古代遺跡を発見し、暗躍していた男がいた。
彼は罪人だったが、楽園の国に檻はなく、罪人は追放されるのが楽園の国の決まりだった。
本来であれば、ゴーエンを恐れ、罪人は皆、他の国へと逃げるのだが、この男は執念深かった。
何故なら……
「また、ゴーエン様に殴られたい……!」
生粋のドM研究者だった。
運良く流れ着いた島がこの島で、またゴーエンからお仕置きを貰う為に潜伏していたのだ。
そして、様付けを嫌うゴーエンを、常に様付けで呼ばれてはゴーエンパンチを喰らっていた。
「もう少しで完成するぞ……。この装置でゴーエン様を縛り上げて、灼熱の炎でゴーエン様はコイツを破壊するんだ……! そして、俺はまた殴られるって寸法よ!」
そんな時、研究者の発明した感知機に反応が現れる。
モニターの類は流石に作れず、音による感知のみで、誰が遺跡に入って来たかは分からなかった。
「も、もしかしたらゴーエン様が遺跡周りに来たのかもしれないぞ!! 早速罠を起動だ!!」
そして、現在に戻る。
「わわわぁーっ!」
カナンは、手足を草のツルによってグルグル巻きに捕らえられ、吊し上げられてしまった。
「ほら! きっと古代兵機が起動したのよ!」
「たすけてー! セーカたいいん〜!!」
「ったく……しょうがないわね……」
セーカは飛び上がり、壁に足を着ける。
「 “雷魔法 ビライト・脚” !」
バチバチッ! と雷が飛び散り、更にカナンの元まで大ジャンプをし、カナンを締め上げているツルを掴む。
「 “雷魔法 ビライト・手” !」
今度はツルが焼け、カナンを縛っていたツルが切れる。
そのまま、カナンを抱えて着地した。
「わ〜! セーカたいいん! つよ!」
「ふふん。これでもゴーエンの二番弟子なんだからね!」
その裏で暗躍する男も、密かにほくそ笑む。
「ふふ、流石はゴーエン様だ。こんなツルの拘束罠なんか、平然と突破しちゃいますよね!」
そして、恐れ知らずのカナンは、またしても奥へ奥へと突き進み、心配したセーカも後を追った。
気付いたら、二人は遺跡の最奥まで辿り着いていた。
「ほら、もう行き止まりよ。帰りましょう」
「おたから……なかった……」
「そうそう宝なんてあるわけないじゃない」
ガチャン! ガチャン!
大きな音を立て、金属音が遺跡内に響き渡る。
「キャアー!!」
今度は、セーカが捕えられてしまった。
鋼に両手を拘束され、そのまま天井へとネジ巻きのように吊し上げられた。
「なっ、何これ! クソっ……! 鋼じゃ雷魔法で焼き切れない!!」
古代遺跡最奥の、隠された扉が開く。
「ふふふ、ゴーエン様捕獲だぁ!!」
「「 って、お前だれー!?!? 」」
二人の声が共鳴した。
「入って来たのは、ゴーエン様じゃなかったのか……?」
「は? 様? アンタ、ゴーエンの信者?」
「信者も信者だ! 俺はゴーエン様に追放されたが、またお仕置きして貰う為に日々研究してきたのに!」
セーカは露骨に、ドン引きした顔を浮かべる。
「もしかしておまえ! こだいへいき!」
そんな中、空気も読めず、キラキラと瞳を輝かせるカナン。
「おまえ、たおしたら、おたからザクザク!」
そして、徐に弓を引く。
「え、カナンちゃん、そんな小さいのに弓兵なの!?」
しかし、セーカは知らない。
カナンは、矢を放つ。
カナンの燃え盛る矢は、研究者の上を大きく外して放たれた。
「ありゃ、外しちゃった」
ゴォォン!!
カナンの矢は、隠し扉の奥まで届き、研究者の発明していた機械たちに着弾。
そのまま大爆発を巻き起こした。
「ちょ、ちょっと! 爆発!?」
こんなボロボロの古代遺跡に爆破、古代遺跡は更にゴロゴロと音を立てて崩壊していく。
しかし、そのお陰でセーカの手枷は外された。
「カナンちゃん! 崩壊する! 早く逃げるわよ!」
「わぁ〜! いそげいそげ〜!!」
そして、セーカは研究者の前に立ち尽くす。
「なんだよ……もう全部パァだ……。俺のことなんか放ってさっさと逃げやがれ……」
研究者は、崩壊した瓦礫に巻き込まれ、身動きが取れなくなってしまっていた。
そんな研究者を、セーカは抱えた。
「だ、大の男を持ち上げる!? 怪力娘か!?」
「違っ……! 違くないけど違うわよ!」
「ど、どうして俺を助けるんだ……。お前たちを拘束罠にまで引っ掛けた、俺は罪人だぞ!?」
セーカは、ブチっとキレ、研究者に微量の雷魔法を放つ。
「ゴチャゴチャうるさいなぁ! どんな変態でも、死なれたら後味悪いじゃない! アンタをゴーエンのところまで連れて行って、またしょっ引いて貰うの!」
研究者は、気絶しそうな意識の中で思った。
(ゴーエン様に似た怪力に、強烈な雷魔法。俺をゴミみたいに見る目付き。更にゴーエン様のお仕置きにまで連れて行ってくれるなんて……。天使……!!)
そんなことを過らせながら、研究者は気絶した。
カナンとセーカは、駆け足で遺跡から脱出した。
爆破の音を聞き付け、他の全員も集合していた。
「カナン! お前、何やってるんだ!?」
「いせきたんけんしてた! セーカたいいんと!」
そして、カナンはセーカを指差した。
「セーカ……さん……? ありがとう。カナンのことを守ってくれたんですね」
「別に、そんなんじゃないわよ。感謝されるようなことなんてしてないし……。と言うか、逆に助けられたし……」
そこに、ダンやゴーエンも加わる。
「あれ!? なんでセーカがいるんだ!?」
「アンタ、勝手に船に乗り込んでたね!? って、あれ、その男……! 二年前に追放した研究者じゃないか!」
ゴーエンは全てを察したかのようにニヤける。
「セーカ、お前のしようとしてること、この炎の神 ゴーエンが許そう!」
「え!? 私のしようとしてること分かるの!?」
「この旅人の旅に同行したくて、私たちの目を盗んで乗り込んでいたんだろ?」
セーカは顔を赤くして俯いた。
「なんだ? ゴーエンから直々に稽古付けて貰ってんのに、それじゃ満足できないってことか?」
ダンは食い気味に問い詰めるが、割り込むように、グランが言葉を挟む。
「セーカ、行ってきなさい」
僕の知らない内に、話が進んで行く。
「ありがとう……グランさん!」
「あのー……ちょっと話に着いて行けないんですけど、どう言うことですかね……?」
「すまない」と、グランさんは僕に向き合う。
「ワシとセーカは、ゴーエンの弟子なんじゃ。きっと、ヤマトくんとワシの試合でも見て、着いて行きたくなったんじゃろ。セーカも、強さを求めておるからな」
「そうだぜ! この私の一番弟子と二番弟子だ! セーカはまだまだ魔法の使い方が乱暴なところがあるが、相当な戦力になるはずだぜ!」
魔法の使い方が乱暴って……島破壊しちゃうから戦えない人のセリフかよ……と思ったが、ひっそりと心の奥底に留めた。
「じゃあ、えっと……セーカさんはどうして旅に同行したいの?」
「……す為よ」
「え?」
「兄を……殺す為に力が欲しいの!」
復讐の為に力が欲しい……ってことか。
少し悩んだが、僕は同行を許した。
ゴーエンたちと稽古をしていても拭えなかった復讐心。
ならば、外の世界を見て回る僕たちとの旅で、復讐心を忘れて欲しかった。
そんな願いを込めて、僕は同行を許した。
「それから、セーカでいいから! ヤマト!」
「えぇ!? いきなり呼び捨て!?」
なんだかお転婆さが垣間見える少女ではあるが、僕たちの旅の仲間が一人増えた。