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あの夏に見た君と青空

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あの夏に見た君と青空

2 - 第2話 浮いてるあの子

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2025年05月05日

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御三沢愛菜。クラスでは結構浮いている女子だった。なぜ浮いているか、はっきりとした理由は分からない。だが誰もが知らないであろう彼女の一面を俺は見たことがあった。


中学一年の頃だった。確か、1組と2組の体育の合同授業でサッカーをした時の事。

男女合同チームで、1組目の試合が始まった。1組目の試合には愛菜がいた。

愛菜のチームは全体的にサッカーに慣れていない人が多いのに対して敵のチームには全体的に慣れている人が多かったので、 愛菜のチームほぼぼろ負けという結果で終わった。

試合中、何度か愛菜にボールが回ってきたが、すぐに敵チームに奪われて仲間にパスすることも無く終わった。

そんな愛菜を見て嘲笑ったり、陰口を言う奴は少なくなかった。

愛菜と同じチームの男子と2組の男子がわざとらしく大きな声で…

「あのチビのせいでお前らのチーム負けたな笑」

「そうなんだよ、トロイしオドオドしてるし邪魔くさい。同じチームとかまじ最悪だわー」

「おい、やめろよ聞こえるってw」

「あ、やべーwまーいいだろw」

「お前最低じゃん笑」

と言っていた。

それを聞いた俺は(止めた方がいい…)と分かっていた。だが、どうやって注意するのが正解か分からなくてその場に立ち尽くしていた。ふと気になって愛菜の方を見た。彼女はチラッと彼らの方を見るだけで、睨むことも悲しい顔をすることも無く、何事も無かったかのような顔をしていた。だが、手に持っていたビブスを強く握りしめていたのが見えた。

「ごめんね⋯!何回も私にボール回ってきたのに…」 と言いながら他の子にビブスを渡していた。

それを見て陽キャ女子が「絶対強がってんじゃん笑」と笑っていた。

聞こえているはずなのに聞こえてないふりをしているのを見て俺は、愛菜はメンタルが強いんだなと勝手に思い込んでいた。

だが後にこの考えが間違っていたことを知る。


俺は次の試合に出たが、ボールの取り合い中、他の奴の足に引っかかってコケてしまった。

試合は一時中止し、駆けつけてきた体育の先生に「保健室行ってきな」と言われたので保健室に行くことにした。

保健室にて手当してもらった俺はトイレに行きたくなって外のトイレに行くことにした。(我ながらだせぇな)と思いながらトイレを済ませ、運動場に戻ろうとした時、微かな声が聞こえて足を止めた。小さな声で鼻をすする音が聞こえた。音を立てないように声がする方に行くと、物置の裏でしゃがみ込んで必死に声を殺して泣いている愛菜の姿があった。その時に見た愛菜はさっきまでの妙な雰囲気を纏ってはおらず、ごく普通の女子に見えた。バレないようにこっそり立ち去ろうとした時、ズボンのポケットから*チャリン*と音を立てながら何かが地面に落ちた。びっくりしすぎたあまり、落ちたものを置いて逃げてしまった。人混みに紛れて落ち着いてから自分の行動に後悔した。(落ちたものそのまま放置するとか俺はバカか?、もし俺のだと分かるものだったらどうしよう)

俺は昔かよく物を落とすので、 結局なにを落としたかは分からずじまいだった。昼休みに落とした場所を見に行くと案の定そこには何も落ちていなかった。誰かが落し物として先生に預かってもらっているのかもしれないと思い、先生に相談して、落し物箱を見せてもらったが、見覚えのあるものはなかった。

あの日を境にクラスの奴ら、主に男子達の愛菜の見る目が変わっていった。


そして今、愛菜のあの何かに必死に堪えるような顔を見た時、咄嗟にこの事を思い出した。何故なのかは分からない。もしかしたら今日の愛菜の顔とあの時の愛菜の顔が同じ表情をしていたからかもしれない。

あの何かを必死にこらえる表情は、どこかで見たことがある、懐かしい表情だった。

ふと愛菜が手に持っているスマホを見た。文字を打っているように見えたので、誰かとメールしているのかもしれない。すると、優しく、嬉しそうに笑った。今まで笑ってきた顔を見なかったわけじゃない、小学生の時、中学でも少なからず見てきたが、いつもとは比べ物にならないくらい嬉しそうな顔でスマホの画面を見ていた。

愛菜もあんな風に笑えるんだなと思いながら店へと入る皆の後に続いた。

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