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「満開でなくても構いませんわ。今から、その温室を見せてくださいますか?」
「今からか?」
「ええ。以前、次は私からお茶へお誘いすると約束しましたでしょう?」
私は、カイル殿下の手を取った。
「その温室で、二人だけのお茶会をいたしませんか?」
「少し、そこで待っていてくれ」
「え?」
カイル殿下は呼び鈴を鳴らした。すぐに現れた侍従へ何事かを伝えると、侍従は慌ただしく廊下を駆けていく。
***
私はネグリジェの上から薄手のナイトローブを羽織り、カイル殿下とともにローズガーデンへ向かった。
案内されたのは、ローズガーデンの一番奥にあるガラス張りの温室だった。天井から差し込む月光の下で、青や白、淡い紫色の薔薇が幻想的に咲き誇っている。まだ蕾も残っているが、すでに七分咲きほどにはなっていた。
「こんな素敵な場所があったなんて、知りませんでしたわ」
「以前のお茶会で、お前は菓子を気に入っていただろう。今、急ぎで作らせた」
テーブルの上に並んでいたのは、薔薇の花びらを浮かべたハーブティーと、ローズジャムが使われた小さなケーキだった。
「匂いに敏感なのだろう? 香りの強すぎない茶と菓子を用意した」
「まあ。そこまで気を遣ってくださったんですの?」
「当然だ」
そう言いながら、カイル殿下は少し照れたように目を逸らした。
「人払いもしてある。今夜は、誰も来ない」
「ずいぶんと用意がよろしいのね」
二人でソファへ腰掛け、温かいハーブティーを口にする。
ガラス越しに降り注ぐ月明かりの下で、カイル殿下の横顔はいつもより穏やかに見えた。
「それで……欲しいものは決まったか?」
「そうですわね」
ティーカップをテーブルへ戻し、にっこりと微笑む。
「では、宝石店で一番大きくて、豪華な宝石を買ってくださるかしら? たとえば1000万ルクくらいの価値のあるものがいいわ」
(もちろん、一番換金しやすいものをね!)
(カイル殿下が私財から自由に動かせるのは、一度につき1000万ルクまで。それ以上は皇宮の承認が必要――調査済みよ♡)
カイル殿下が、わずかに眉を寄せる。
「1000万ルクか……。確かに、俺の裁量だけで動かせる額ではあるが、そのような大金を使ったことはない。父上に何と言われるか……」
「自由に使えるのに使わないなんて、宝の持ち腐れでございますわ♡」
「しかし――」
「今夜は私が、一千万ルク分の価値をたっぷり教えて差し上げますわ」
迷う気配を見せた彼へ、すかさず抱きついた。
「だから、これはお前の仕事の対価ではないと――」
「分かっておりますわ」
私は彼の耳元へ唇を寄せた。
「ふふっ。これは、私がしたくてすることです♡」
(そうだ、大事なことを忘れてたわ!)
「少々お待ちくださいませ」
一旦カイル殿下から離れ、温室に併設された化粧室へ向かった。
コメント
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第31話、拝読しました!温室の月明かりに照らされた薔薇と、カイル殿下が用意してくれた香り控えめなお茶菓子……あの細やかな気遣いにじんわりしました。そして「1000万ルク♡」のくだり、主人公の計算高さと甘え方が絶妙で、思わず笑みがこぼれました。カイル殿下が「父上に何と言われるか」と迷うところも可愛くて、二人の距離がぐっと縮まった夜になりましたね。続きがとても気になります!