私は水の魔女。この度訪れたのは、急速な情報化の波に飲まれつつある、名もなき古い街だ。私の旅は、助けを必要とする人々に出会い、静かにその解決を見届けることにある。今回、街の片隅で、私は一人の幽体と出会った。彼女は、20年前に若くして警察官だった息子を失った母親だった。親は、死してもなお、愛する息子の安否を案じ、この世をさまよっていた。
彼女の旅は困難を極めた。電車、バスと乗り継ぎ、古い新聞を読み漁る。幽体であるため、時には悪霊の気配を避け、時には見えるはずのない人々に声をかけながら、息子を探す情報を求めた。情報社会の喧騒の中、彼女のアナログな捜索は、時代から取り残されながらも、ひたすら続いた。
そして、ついに一つの古い新聞が彼女の目に留まった。そこには、**「〇〇という街にいるらしい」**との情報。彼女は急いで幽体となったその体で、その街に足を運んだ。
月日は、もう20年にも及んでいた。
〇〇の街を探し回り、親は完全に疲弊していた。もう見つからないと、ついに諦めかけたその時、横から一枚の新聞が差し出された。
私は、箒の上から、煙のように一瞬現れては消える魔法を使い、最新の新聞をそっと彼女の手に滑らせた。新聞を無料で渡すために「新聞記者」の姿をとったのは、彼女が必要とする情報を提供するためだ。断られそうになった息子から逃げる時も、この魔法を使った。
親は新聞を読み、昨日息子が亡くなっていたことを知った。
「ああ……」
静かに泣き始める親。彼女は横を向き、新聞を渡してくれた「記者」に感謝を述べようとした。
その瞬間、そこにいたのは、なんと新聞を渡した私ではなく、警察官の制服姿の息子本人だった。
お互いに抱き合い、20年間の喪失と探索の月日が溶けていくような、感動の渦に飲み込まれた。
私は、箒の上で空中に静止し、特別な魔法の視界でその再会を見守る。彼らの言葉は私には届かない。しかし、抱き合うその姿と、溢れる光の粒が、すべてを物語っていた。
やがて、その2人は、静かに、まるで水に溶けるように消えながら、天へと昇っていった。
それを見ていた霊媒師兼新聞記者である私は、安堵と深い喜びの感情に包まれた。私は静かに涙を流した。
「無事に会えて、本当によかった」
私は箒の向きを変える。
私の旅は続く。水の魔女。次の困っている人のもとへ。
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