テラーノベル
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夜がやってくる。貴族たちのパーティが開かれ、貴族たちは各々が自分たちの権力をひけらかしながら、利益を追い求めて言葉を交わす。あるいは情報を取引する。彼らにとって最高の夜で、愉快な仲間たちにとっては気の進まない夜だ。
場違い。まさしく、その言葉が似合う。見世物小屋からやってきたのかと思われるほど、招かれた冒険者諸君の出で立ちは汗と土に馴染んだいつもの服装だ。しかし、誰もが悪口を言わず、ひそひそと言葉を交わすに留めた。
「シャーロット嬢、これはまた変わった服装をしていらっしゃいますね」
「こんばんは、デリンダ公爵夫人。なかなか似合いますでしょう?」
どれだけ優れた爵位も、始まりの家門には頭かあがらない。話しかけづらい空気を変えたのはアドリアナ・デリンダ公爵夫人。シャーロットと個人的に仲が良いが、冒険者の服装に関しては苦い顔を扇子に隠しながら、遠回しに嘲った。
「パーティの余興でもなさるのかしら」
「皇太子様のお望みとあらば、演舞でも致しますよ」
「そう。……そっちの方々は新しいお友達?」
迷い込んできたどぶねずみを見つけたような、明らかな嫌悪を向けられる。
「ええ、とても優れた冒険者の方々です。公爵夫人はお気に召さないようで残念です。今夜は彼らが主役になる可能性もありますのに」
周囲がざわつき、公爵夫人は一瞥するとニコッと微笑む。
「そろそろ殿下がいらっしゃる頃だわ。あなたたちも楽しんでね」
気に入らない。気に入らないが、皇太子が呼んだ以上は客だ。腹を立てて言い争いになる前に、さっさと退散していく。
その後ろ姿にレアナがべっ、と舌を出す。
「下品ですわ、レアナ様」
「お貴族様なら上品とは限らねえだろ。あいつは嫌いだ」
「ええ、わたくしもです。あんな方だなんて」
仲間を見る目の冷たさは、普段の温かみあるアドリアナとは違う。典型的な貴族なのだ、とシャーロットは認識を改めて嫌気が差した。
「すみません、わたくしも話を通しはしましたが、彼らの見る目までは」
「気にしなくていいんじゃないかな。僕らも分かってたことだ」
最初から皇太子に、その目的があるのは見え透いていた。情報を手に入れると同時に、あわよくば見世物にでもして余興の代わりにする。アドリアナの言葉もあながち間違いではないのだ。
そして、とうとうその中心人物が会場に姿を現す。
「ごきげんよう、諸君。遅くなってすまない!」
スカンダリ・ディナモス皇太子。強面だが整った顔が、次期皇帝としての風格を見せている。一方で女遊びは底知れずと噂が耐えない。地位と美しさに加えて陽気に満ちた性格が、地に落ちていいはずの評判を持ちあげた。
「今宵は我が生誕記念の祝宴によくぞ集まってくれた。どうか最後まで楽しんでいってほしい。……と、その前にひとつ。何も明るい話ばかりではない。今宵は我々にとって重要な情報を、さる冒険者たちが手に入れてくれた」
貴族たちはざわつきながら、またシレントたちに視線を集中させた。
「私が急遽招いたがために、皆には動揺を与えてしまったことをまずは謝罪させてほしい。だが、彼らの言葉は実に興味深いものだ。────さあ、冒険者諸君。こちらへ参れ。君たちの話を聞かせてほしい」
階段の踊り場で待つスカンダリの前に立たせるために貴族たちが道をあける。シレントがレアナに背中を押されて、仕方なく先頭を歩いた。
「ああ、膝を突かなくていい。こちらへあがってきなさい」
なんとも嫌な視線を感じたが、シレントは黙って頷いた。
代表して、レアナとシャーロットも階段をあがり、皇太子の前に立つ。
「さあ、話を聞かせてほしい。君たちが出会った魔族という存在について」
ほとんどの貴族たちは知らない。ダンジョンに現れた異常な存在を。
シレントはひとつ深呼吸してから言った。
「少し前からダンジョン内部で、レア種を含めた狂暴な魔物たちの出現が認められていました。その最中、僕たちメリー・バンチはダンジョン内で、とある冒険者の悲鳴を聞き駆け付けたところ、人間の言葉を話す魔物と出会ったのです」
巨躯を持った魔族のドルクトスとの戦い。さらには弓術を使うヴォリーダに、それらを超えるゼロとの遭遇。今や世界は水面下で未曽有の危機に晒されている。なにかひとつでも対策を講じなければ大勢の人間が死ぬかもしれない。
そんな想いを胸にシレントが訴えても、彼らには響かなかった。
「じゃあ我々はどこに逃げればいいんだ?」
「ここから遠い島はどうだろう。食料を船に乗せて運ぼう」
「住む家はどうする、ドワーフでも連れて開拓させるか?」
唖然とさせられる。貴族たちの考えは自分たちの命が最優先だ。市民の命は軽く、貴族の命は重い。その価値観を前にシレントは顔を青くした。
「皆、何を言っているんだ……。本当に民を見捨てる気なのか?」
スカンダリは彼の肩を叩き、フッ、と鼻で笑う。
「人間は皆、自分の命は惜しいものだよ。貴族も平民も変わらない。違うのは、それを成しうるだけの力を持つかどうかだ。彼らを変えたければ、君たちが魔族を討ち滅ぼすしかない。────そうだろう、諸君!」
グラスを掲げれば、スカンダリの言葉に同調が広がった。
「そうだ、君たちが倒してくれ!」
「見合った報酬は皆で出そう!」
そんな声が次から次へと連なっていくことに不快感を覚える。
レアナもチッと舌を鳴らす。
「分かってたことだろ、シレント。失望してんじゃねえよ、目的を忘れんな」
「……ああ、そうだね」
二人の言葉にスカンダリも頷きながら、ワインで口を濡らす。
「せっかくだ、宴は楽しんでいきたまえ。魔族討伐の際には私からいくらか兵も貸そう。闘技場の連中なら金を積めばいくらでも命を捨ててくれる」
ばしっとシレントの背中を叩き、ひらひら手を振って階段を下りていく。
「あまり気に病むなよ。此処はそういう場所だ、君たちが悪いわけでも彼らが悪いわけでもない。お互いにその生き方しか知らないだけなのだからね」
コメント
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うわぁ……第29話、読み終わったけどなんかもやもやがすごい残る……🥀 貴族たちの「自分たちさえよければ」みたいな考え方、すごくリアルで嫌な感じが伝わってきた。シレントが「民を見捨てる気か」って言ったところ、胸がギュッてなったよ。正論なのに、空回りしてる感じが苦しかったな。 “お互いにその生き方しか知らないだけ”ってスカンダリのセリフ、なんかすごく刺さった。悪意だけじゃなくて、そういう価値観の違いが人を狂わせるんだろうなって。 シレントたちがどう動くのか、すごく気になる……次が待ち遠しいよ🌙
Bの人。
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