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『喧嘩のたびに「結婚しよう」と言う彼氏、冗談だと思っていたら全部本気でした』~h×j~
side樹
冷蔵庫の扉を開けた瞬間俺の頭の中に真っ白な吹雪が吹き荒れた。
いや違う。
ここはシベリアじゃない。
俺と彼氏が同棲しているあたたかくて幸せで甘い匂いがするはずの愛の巣のキッチンだ。
なのに俺の視線の先にあるはずの『それ』が跡形もなく消え去っている。
幻覚だろうか。
俺は一度冷蔵庫の扉をパタンと閉め深呼吸をしてからもう一度開けてみた。
一段目ない。
二段目ない。
三段目やっぱりない。
昨日の夜スーパーのスイーツコーナーで奇跡的にラスト一個残っていた期間限定の『濃厚とろけるキャラメル・リッチプリン』。
仕事でヘトヘトになった体を癒すために今日の夜のデザートとして大事に大事に取っておいた俺の希望の光。
それが見事に消滅していた。
「……嘘」
絶望のあまり口から漏れた声は自分でも引くくらい掠れていた。
同棲して三年。
この家には俺と俺の愛する彼氏――北斗しか住んでいない。
まさか泥棒が入ってプリンだけを盗んでいくはずもないし妖精さんが食べてしまったというファンタジーな展開も考えられない。
恐る恐る視線を横にズラしシンク脇のゴミ箱を覗き込む。
そこには綺麗に洗われてひっくり返された見覚えのあるプラスチックのカップが捨てられていた。
パッケージのシールにはしっかりと『濃厚とろけるキャラメル・リッチプリン』の文字が光っている。
「北斗!!」
俺は半狂乱になりながらリビングへ向かって叫んだ。
「ん?どうしたの樹」
リビングのソファでは俺の愛しい彼氏が長い脚を投げ出してテレビを見ていた。
振り返ったその顔は腹立たしいほどに整っている。
彫りの深い顔立ちスッと通った鼻筋そして少しだけ眠たそうな二重の目。
どんな時でも絵になる男それが俺の恋人の北斗だ。
普段ならそのイケメンぶりに「今日もかっこいいな〜」と惚れ惚れしてしまうところだが今の俺は怒れるプリン亡者である。
俺はドスドスと足音を立ててソファへ近づき北斗の目の前に仁王立ちした。
「どうしたのじゃないんだよ!俺の!俺の大事なプリン!!食べたでしょ!」
「あぁあれ。うん、食べたよ。美味しかった」
悪びれる様子など微塵もないあまりにも堂々とした返答。
北斗はポツリと感想まで添えて俺を見上げて瞬きをした。
その無垢な瞳を見ていると一瞬「美味しかったならしょうがないか」と絆されそうになるがいやいやダメだ。
あれは俺が今日一日過酷な仕事を乗り切るための心の支えだったのだ。
「普通わかるでしょ!俺が昨日『明日の楽しみにする』って言ったじゃん!」
「言ってたっけ」
「言った!絶対言った!北斗がソファーでスマホ見てる時に俺がプリン見せびらかしながら『これ明日の夜の楽しみなんだ』って宣言したもん!」
「ごめん聞いてなかったかも」
北斗はゆっくりと瞬きをしてそれからスッと手を伸ばしてきた。
俺の腰に腕を回しそのままポンと自分の隣――ソファの空いているスペースに俺を引き寄せる。
抵抗する間もなく俺は北斗のすぐ隣に座らされてしまった。
北斗から漂うほのかに甘い香水と柔軟剤の匂いが鼻をくすぐる。
肌が触れ合う近さに心臓がトクンと跳ねた。
でも今日ばかりは誤魔化されないぞと俺はプイッと顔を背けた。
「名前が書いてなかったから食べていいやつかなって思ったんだよね」
「……はぁ?名前が書いてなかったからって冷蔵庫にある一個しかない限定プリンを勝手に食べる奴がいるか!そんなの同棲のルール違反でしょ!」
「でも樹はいつも俺に『なんでも半分こしようね』って言うじゃん」
「半分こって北斗全部食ったじゃん!俺の分一口も残ってなかったよ!?」
「あ、そっか。食べるのに夢中で忘れちゃった」
北斗はぽりぽりと頬を掻きながら全く反省の色がない声で言った。
こいつ絶対わかってて食べてる。
俺の反応を見るのが面白くてわざととぼけているふしがあるのだ。
口数が少なくて穏やかな北斗だけれどたまにこういう強引というか天然を装った意地悪をしてくる。
俺がプンプン怒っているのを見るのが好きだと言われたこともあるが今はそんな性癖に付き合っている余裕はない。
俺の口の中は完全に濃厚なキャラメルの味を求めていたのだ。
「もういい。知らない。北斗のバカ。北斗なんか勝手にすれば」
俺は腕を組みわざとらしく大きくため息をついて北斗から顔を背けた。
普段なら俺が「知らない」と言えば北斗は少しだけ困った顔をして「ごめんって」と機嫌を取ってくる。
俺の頭を撫でたり後ろから抱きしめてきたりして結局俺が絆されて終わるのがいつものパターンだ。
だから俺は背を向けたまま北斗がどんなふうに謝ってくるのかを待っていた。
しかし背後からは何も聞こえない。
沈黙が落ちたリビングにはテレビのバラエティ番組の笑い声だけが空しく響いている。
あれ?言いすぎたかな。
ちょっと心配になって俺がチラリと北斗の方を振り返ろうとしたその時だった。
「じゃあ結婚しよう」
「……はい?」
あまりにも唐突な言葉に俺は思わず間抜けな声を出して振り返った。
北斗はさっきまでのぽやんとした表情を消し去り大真面目なそれこそドラマのワンシーンのように真剣な顔つきで俺を真っ直ぐに見つめていた。
黒曜石のような瞳が俺を捉えて離さない。
その真顔の破壊力に俺の心臓はさっきの怒りを完全に忘れてドクンッドクンッと警鐘を鳴らし始めた。
え、待って。
今なんて言った?
け、けっこん?結婚?
同棲して三年もちろんこの先の未来について考えたことがないわけじゃない。
でも北斗は口下手だしそういう大事なことはちゃんと準備してから言ってくれるタイプだと思っていた。
それがなんで今?
「なんでプリン食べた側がプロポーズしてんの?」
俺は混乱のあまり一番まともなツッコミを口走っていた。
怒りはどこかへ消え飛びただただパニックだ。
北斗は至って真剣な表情を崩さず俺の目をじっと見つめ返してくる。
「結婚したらどっちのプリンか気にしなくてよくなるから」
「……は?」
「俺と樹が家族になったら冷蔵庫の中身も全部二人のものになるでしょ。そしたら『誰のプリンか』なんて些細なことで喧嘩しなくて済む」
「いや結婚しても俺のプリンは俺のでしょ!そこは家族関係ないから!」
北斗の謎理論に俺は思わず前のめりになって反論した。
しかし北斗はふっと口角を上げ不意に俺の肩を抱き寄せてきた。
大きな手が俺の後頭部に添えられぐっと顔が近づく。
北斗の整った顔が目の前に迫り俺の唇を塞ぐんじゃないかという距離で止まった。
「……次は二個買う。約束する」
北斗は俺の唇のすぐ横頬にちゅっと軽いキスを落とした。
甘いとろけるような声音。
本気とも冗談ともつかないその絶妙な表情。
怒っていたはずなのに顔がカァッと熱くなるのがわかる。
北斗にこんな顔で見つめられて甘く触れられたら俺の安い怒りなんて一瞬で溶けてしまう。
「……ほんとだな?次は絶対俺の分も買ってきてよ?」
「うん、買う。樹が喜ぶやついっぱい探してくる」
「いっぱいはいいんだよ、プリンの話してんの!」
照れ隠しで北斗の胸板を軽くぽかっと叩くと北斗は嬉しそうに目を細めて俺をきゅっと抱きしめた。
広い胸にすっぽりと包まれ温かい体温を感じながら俺は完全に毒気を抜かれていた。
喧嘩を終わらせるための言葉なのかそれとも本気なのか。
北斗が時折見せるこの底知れなさに俺はいつも振り回されてしまうのだ。
翌日。
仕事から帰ってきた俺がリビングのドアを開けると北斗はもう帰宅していてキッチンで何かをしていた。
「おかえり樹」
「ただいま。北斗今日早かったの?」
「うん。冷蔵庫見てみて」
北斗が少し得意げな顔で冷蔵庫を指差す。
俺は首を傾げながら冷蔵庫の扉を開けた。
そこには昨日俺が食べ損ねた『濃厚とろけるキャラメル・リッチプリン』が誇らしげに二つ並んでいた。
本当に二個買ってきてくれたんだ。
俺は嬉しくなって思わず口元を綻ばせた。
でもよく見るとパッケージのフタに黒い油性ペンで何か書かれている。
俺は二つのプリンを取り出しマジマジとその文字を見つめた。
一つ目には力強い字で『樹』と書かれている。
そしてもう一つには『樹の予備』と書かれていた。
「……ねぇ北斗」
「うん?」
「北斗の分は?」
「俺はいいの。樹がいっぱい食べたいでしょ」
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R-18『彼氏が旦那になった途端、甘やかし方がおかしくなりました』
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「ベッド、樹が全部やってくれたの?」
「うん。北斗が寝落ちしそうだったから俺が完璧にメイキングしといたよ。めっちゃ綺麗でしょ」
「うん、すごく綺麗。もったいなくて寝転がれないくらい」
「寝るためのベッドなんだからもったいないとか言うなよ。せっかく俺が頑張ったのに」
俺が少し唇を尖らせて文句を言うと北斗はフッと柔らかく微笑んだ。
そして俺の頭にポンと手を置きそのまま濡れた髪をかきあげるように優しく撫でた。
「ありがとう。俺の旦那は本当に働き者で可愛いね」
「だ、旦那って……言うなよ。なんかまだ慣れないんだから」
「なんで?もう市役所にも書類出したし正真正銘の家族でしょ。ほら指輪もちゃんと同じだし」
北斗は自分の左手を持ち上げ俺の左手と重ね合わせた。
サイズを直したシルバーのリングが二人の指で同じように光を反射している。
北斗の大きくて温かい手が俺の手を包み込みそのまま指を絡めてしっかりと繋いだ。
ドクンドクンと俺の心臓の音が北斗に伝わってしまわないか心配になるくらい脈が速くなっている。
「樹」
「……ん?」
「今日からここが俺たちの本当のスタートだね」
【9月まとめ公開中】に収録されているギャグコメディを少しだけチラ見せ☆
松村「しんちゃんが低学年の時に「キッザニア…きらいなんだ…がんばってお仕事して…やっとお仕事終わった」と思ったらまた次のお仕事…やってもやっても、次々にお仕事…つらい」って言ってたのを聞いて以来、俺はずっと心配してます」
京本「知ってしまったんだな」
田中「結婚の挨拶のとき、うちの父が「不出来な息子だとは思います、至らないところもあります、でもね、これ以上は出来ないっていうぐらい大切に育ててきました、これ以上親として出来る事はないっていうぐらい愛情を注いで育てました、どうぞよろしくお願いします」って言ってその場の全員で泣いた。
京本「ありがたきしあわせ」
髙地「ほっくんがiPhoneの知恵袋のカテゴリマスターらしくて、なんでそんな詳しいのか聞いたら、iPhoneのバグの質問に対して全部「再起動してみてください」しか言ってないのに7割ベストアンサーらしくて笑」
ジェシー「慎太郎…ライオンとか肉食動物のうんちは臭いはずやんな。でもライオンはうんちしたときにお尻を拭かんよな。慎太郎のスマホで、『ライオン うんちしたあとのお尻』で検索してみてくれへん?」
慎太郎「ご飯終わってからで良い?」
髙地「【算数】たかし君は1個70円のりんごと1個30円のみかんを握り潰してこう言いました。『次はお前がこうなる番だ』」
松村「もしかしてお昼のお弁当京本君に食べられた事根に持ってる?」
髙地「ChatGPT にAIって仕事しか奪えないのダサすぎ笑俺はいつでもお前の唇を奪えるよって書いたら、それは面白いセリフですね。では、こう返させて頂きます。
「私だって、あなたの命ぐらいなら奪うことはできますよ」って言われた」
京本「こわすぎ」
警察「えーっと……もう1回聞くね?電話かけてくれたの君だよね?」
森本「はい」
警察「車に轢かれたのは?」
森本「俺ですね」
警察「……轢いた人は?」
森本「パニックって家族に電話してますね」
警察「自分で……電話してくれてありがとうね」
※最初から最後まで甘く、濃く、容赦なく。読み応えたっぷりのR-18作品となっております。
コメント
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ああもう、プリンを巡る攻防が可愛すぎて悶えました!「結婚しよう」って喧嘩の流れで言う北斗くん、本気か冗談か分からない絶妙な空気感がたまらないですね。しかも翌日には本当に二個買ってきて「樹の予備」って書いてあるの、一本取られた感が半端ないです。同棲3年の空気感がじんわり伝わってきて、続きが気になりすぎます!