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「そっちの建材は向こうに回せー!」
「ニーフォウル大臣はどこに!?」
「南側にもラミア族の派遣をお願いします!!」
ウィンベル王国王都・フォルロワ―――
そこで活気のある声が飛び交う。
「すごいですね……
どんどん出来上がっていく」
そんな中、私は次々と建築中の高架を
馬車の中から見上げていた。
「何せ、主な材料である石材がどんどん
王都に運び込まれて来ていますからのう」
やや痩せた体形の白髪頭の老人が、
隣りから話しかけて来る。
ライさんから、ランドルフ帝国に対し
『鉄道』技術の提携について魔力通信機で
報告を受けた二週間ほど後―――
私は王都へ呼び出しを受け、その場所へ
案内されていた。
「シン殿の言われる環状鉄道、ですか。
外回りと内回りの2車線を用意し、
さらに中央を繋ぐ路線を結べば……
たいていの交通路を確保出来ます。
何とも素晴らしい構想です」
リオレイ所長が、私と一緒に高架を
見上げながら語る。
「私自身が考えついたんじゃないので、
そう言われると気恥しいのですが」
自分の世界、国であった―――
まんま山手線と中央線である。
王都・フォルロワの人口は三十万程度。
そこにぐるりと環状鉄道を敷き……
都心再開発の足掛かりとし、
また前回、鉄道技術が他国に売れると
わかったので、
まずは自国で実績を作り、新たな商売のタネに
するのだと、ライさんから聞いている。
「もうほとんど完成しているように見えるん
ですけど、いつくらいに繋がるんですか?」
「早ければ今週中にも完成する予定です。
何せ陸橋を前提としていますので、
土地の確保も容易に出来たとの事で、
また一般人や子供が迷い込む可能性も
無いものですから―――
安全性も問題ありません!」
実際、陸橋にしたのは地上の交通機関、
つまり馬車とかち合わない事と、
土地開発が進めば、土地の確保そのものが
難しくなっていくという観点から、
陸橋での路線を提案したのだが、
まさかその必要性がすぐに出てくるとは、
私も考えていなかった。
「それと、あの新たな計算器のおかげでも
あります。
ソロバン、というものですか。
あれで膨大な計算が一気に出来るように
なりましたからな。
あれもシン殿の発案でございましょう?」
「はは、あれも私の故郷にあったものですが。
役立てているようで何よりです」
さすがに国家としての形態を成している以上、
この世界とて試算くらいはする。
そうでなければ、城や王宮などの巨大建築物を
作る事は不可能だ。
魔法とは異なり、物理的に存在する資源を
使う以上……
数学と無縁ではいられない。
この世界、そしてこの国にいて長いが、
税制や予算、人口など―――
計算しなければならないものは山ほど
あるからだ。
だからある程度の数式や計算式は、すでに
確立されているものもあったが、
そういうものはたいてい『秘匿』される。
魔法前提のこの世界で、魔法に頼らない技術……
料理もそうだが、
そんな貴重なものは秘密にして独占し―――
自分たちの利益とするのは当然の選択。
だから少し力のある貴族クラスともなれば、
計算専用の人や一族がおり、
ソロバンをこちらの世界で作った時も、
その人たちをまず優先して、配る事に
したのである。
そして今回、私が王都に来た理由は、
その事に関係しており、
「あれ?
研究施設へ向かうのでは?」
「いえ、今回ばかりは……
王宮での話になりましたゆえ」
そして馬車の中からの風景は―――
段々と目的地を大きく映していった。
「では、これより……
御前会議を行います」
司会らしき青年の発言の後、十数名ほどの
成人の男女が丸テーブルの席に着く。
一人はこの国の最高責任者―――
ラーシュ・ウィンベル国王陛下。
前国王の兄であるライオネル様。
私とリオレイ所長。
残りの出席者の全員は……
いわゆる『数学者』と呼ばれる人員で構成
されていた。
「スマン、シン。
余や陛下は学者ではないのでな」
「いや、私だってそうですけど」
白髪交じりのグレーの短髪をした、
アラフォーに見える王族に思わずツッコム。
それを見た短い金髪の陛下が苦笑し、
「だがどうしても貴殿の見解を
聞きたかったのだ。
あとここにいる全員は、シン殿が
『境外の民』である事を知っておる。
その上で議論していきたい」
そう、ここに呼ばれた主な理由は、
集められた『数学者』たちによるもの。
ソロバン導入後、訓練すれば誰でも出来る
小道具によって―――
中にはその地位が危うくなった者もいたのだが、
『新技術の導入は、それまでの雇用や需要を
脅かさないものとする』
という、ウィンベル王国との取り決めにより、
もし解雇などという事態になった場合、
王国が数学者として直接雇うという方針に
なっていて、
結果、王家直属の数学者が増加。
彼らはほぼ予算無制限で、思う存分
数学の研究を始めたのである。
また私の教える方程式や数式は、まず
王家に伝えられ、
それもあってか、数学レベルが一気に
加速する事態となっていたのである。
「四則演算、簡単な図形面積の求め方……
ここまでは一般開放してもいいと思われます。
すでに公都『ヤマト』では普及して
おりますし」
「ですが、連立方程式や因数分解―――
平方根については時期尚早かと」
数学者たちから口々に意見が上がる。
「どうなのだ、シン殿」
「他国に対する公開も踏まえ、貴殿の意見を
聞きたい」
二人の王族の言葉で、全員の視線が
私に集中する。
「そうですね……
確かに、一般的に連立方程式や因数分解など、
それらの計算式を使う機会は無いと思われ
ますから、
それについてはまだしばらく非公開でも、
問題は無いでしょう」
私の答えにラーシュ陛下とライオネル様は
うなずき、数学者たちはホッとした表情になる。
「他国に対しては、もし数学知識が欲しいと
言ってきたのであれば、段階的に有償で
教えても構わないかと。
それなら、購入した国も広めないでしょうし」
そこで陛下がアゴに手を当てて、
「しかし意外だな。
シン殿であれば、公開に同意すると思って
いたのだが」
「発展し過ぎると、いろいろ負の方面も
進めてしまいますからね―――
魔法も絡めていければいいんですけど、
こればかりは」
そこでリオレイ所長が片手を挙げ、
「しかしシン殿は……
魔法に頼らない技術を推進していたのでは?
今や、シン殿の教えてくださった数式
無しでは、測量も建築もままならないの
ですぞ?」
「あー、よく言われますけど、別に私は
魔法否定主義とかではありませんよ?
それに現実に存在するものを効率的に
消費しやすくなると、資源枯渇を招いて
しまう事もあるんです」
実際、気を付けなければならないのは
この辺で―――
なるべくなら、元の世界のデメリットを
持ち込みたくない、という理由があった。
「そうだな。
担当者に聞いた事があるが、魔界から
石材を購入していなければ……
とっくに各工事は止まっているとも聞いた」
「いくら計算が終わっても、現物が無ければ
何も出来ん。
逆に言えば、これまでの作業と計算の均衡が
破られている、という事か」
王族の二人が同調しながら語る。
「というわけなので、あくまでも数式の
取り扱いは慎重にお願いします。
あ、ただ―――
円周率は建築や測量で絶対必要になると
思いますので、こちらは公開を」
すると数学者たちはざわつき始め、
「そ、それは!」
「あの数式は画期的なものです!
それを公開するなど!」
こぞってその公開に反対し始める。
まあ気持ちはわかる。
私の世界では小学校で学ぶものだが、
車輪から建築までその用途は意外と広い。
正確な円を求める部品や基礎、その設計には
絶対必要になるもので、
現に環状鉄道のトータル距離や、資材計算が
早く出来たのはこのおかげでもあった。
「そんなに貴重なものなのか?」
「も、もちろんです陛下!
あれがあるか無いかで国力が決まると
申し上げても、過言ではありません!!」
国のトップの問いに学者の一人は即答し、
「うむー……」
「どうでしょうか、陛下?
あの環状鉄道は他国でも欲しがるはず。
その導入と引き換えに有償で渡すと
いうのは」
ラーシュ陛下にライさんが進言すると、
「それでどうだろうか、シン殿」
「そうですね―――
確かに汎用性が高い数式ですし、
それに高額で購入したのであれば、
その国も慎重になるでしょう」
暗に限定的な公開になると告げると、
先ほどよりはやや納得したようで、
学者たちはうなずいて同意する。
ただ不満はまだあるようで、
「そんな顔をしないでください。
では今日は三角関数について
話し合いましょう」
すると彼らは色めき立ち、
「新しい数式か!?」
「今度は何ですか!?」
と、それから小一時間ほど私は質問責めに
あった。
「お疲れ様でしたな、シン殿」
「リオレイ所長も―――
陛下もライさんも、お付き合いくださり
ありがとうございました」
そして数学者たちが解散した後、私と
ラーシュ陛下、ライさん、リオレイさんは残り、
今回の件について話していた。
「スマンな、シン。
連中、ものによっちゃ公開に猛反対
するんだよ」
「こちらとしても、あまり詳しいわけでは
ないのでね。
シン殿がいて助かった」
実は今回の件、環状鉄道の技術と共に
円周率も提供するのは国の方針として
定まっていたのだが、
国家お抱えの数学集団を無視する事は
出来ず……
何とか穏便に事を進めるため、私を巻き込んで
一芝居打ったのである。
「ですが参りましたよ。
さすがは王国の頭脳集団と言うべきか―――
その場でガンガン応用を考えて質問して
くるんですから」
一つの知識を教えれば、人間それなりに
いろいろと考えるもので、
やはり能力しての差はほぼ無いのだと、
実感させられる。
「しかしやはり、数式や数学はある程度、
このように国が管理していた方がいいで
しょうね」
私の言葉に、リオレイ所長はやや複雑そうな
表情となるが、
「やはり全面公開は厳しいですか?
しかし、シン殿の世界では一般的に
学習していたのでしょう?」
ラーシュ陛下がそう聞き返して来たので、
「……私の世界では魔法がありません
でしたので、全ての現象や自然の摂理を
数式で証明しようとしていました。
結果、出来たのがあれです」
私は窓の外―――
太陽を指差す。
「出来た?」
「太陽をか?」
半信半疑という体で、王族二人が私と太陽を
交互に見る。
「戦争兵器として、地上にアレを
出現させました。
一度に10万、15万人が死んだと
伝えられています。
私が産まれる前の話ですが」
その言葉に、三人がゴクリと唾を飲む。
「もちろん、技術の発達もあったでしょうが、
それをそこまで押し上げたのは、間違いなく
数学や数式です―――
そこに善悪などありません。
だからこそこちらの世界では、慎重に
取り扱って頂きたいのです」
「……肝に銘じておきましょう」
一国のトップとして、ラーシュ陛下が
重く告げる。
「そうならないためには、どうすりゃいい?」
ライオネル様が問う。
「やはり、ある程度魔法頼りにしておく
事ですね。
それと強力な推進力というか、爆発力などを
求め始めなければ―――」
「まー確かにな。
魔法も破壊力のあるものはそれなりにあるし」
ライさんの答えに他の二人も相槌を打ち、
「というより、私から見れば魔法の方が
非常に便利ですし―――
資源節約にもなります」
「魔法は体力さえあれば回復しますからなあ」
「雇用にもなるしな。
あの環状鉄道、それこそ身体強化を始め、
水魔法、火魔法、あらゆる人員を動員して
いるぜ」
「人だけでなく、ラミア族は元よりワイバーンや
ハーピーたちにも手伝ってもらっています
からね」
そこで雑談に移行し、しばらく歓談した後、
私はいったん王都の冒険者ギルドへ移動した。
『はえー、何でそんな事になってんの』
小一時間後、私は……
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部へ、
魔力通信機経由で話しかけていた。
「王家直属の研究機関からの依頼でさ。
私がちょうど王都に来たから―――
いい機会だと思ったんだろうね」
『まったく、あやつらは懲りぬのう』
通話先で、メルとアルテリーゼが
呆れているのがわかる。
「そういえば、シンイチとリュウイチは?」
『児童預かり所へ預けてあるよー』
『リベラ所長もおるし、ミリアやルーチェも
今はそこにおるでな。
安心して赤子の面倒を見てもらえるぞ。
とはいえ、我らも早く戻って様子を
見たいゆえな』
「ごめん。
今日中に片付けて、明日には『ゲート』で
すぐ帰るから」
私は通話機に向かって頭を下げると、
『いいよー。
あ! じゃあお土産お願いねー』
『もちろん、シンイチとリュウイチにも
じゃぞ?
それと児童預かり所への分も』
妻二人からお土産の注文を付けられ……
そこで通話先がジャンさん、レイド君に
バトンタッチする。
『で、何だ?
魔導爆弾の実験に呼ばれたんだっけ?』
「正確には、魔導爆弾を使った破壊工作に
対する―――
例の魔力溜まり浄化装置が通用するかどうかの
試験ですね」
依頼内容は、いわゆる爆発物を使った
テロ行為などに対し……
魔導具を使ったものであれば、浄化装置で
無効化出来るのでは、というもの。
私自身、これまでにも魔導爆弾には何度か
出くわす機会があったけど、
(■54話 はじめての ばくだん
■237話 はじめての くうていさくせん1
■257話 はじめての とりたて参照)
あれらは全て、私の無効化で解決出来た
ものであり―――
もし私以外に対応出来る方法があれば、
それは歓迎するべきものだった。
『なるほどッス。
でもまあ、魔力溜まりまで解決出来るんス
から、何とかなるんじゃないッスか?』
レイド君は楽観的に語るが、
「それがそういうわけにもいかないん
ですよね。
あの浄化装置は、いわば魔力を一気に上げて
条件変化を起こさせて……
つまり許容量を超えさせて魔力を吹き飛ばす
仕組みですから」
『魔導爆弾には、いろいろな爆発条件を
設定出来るからな。
下手をすりゃ、撃った途端に爆発って
事にもなりかねないってワケか。
そりゃお前さんを呼ぶわなあ』
すぐに理解したのか、ギルド支部長がそう答え、
後ろで『うへぇ』と次期ギルド支部長の声が
上がる。
「まあ、魔法か魔力で動くのであれば、
私の力で『無効化』出来ますからね。
それじゃさっさとやって来ます」
『お気をつけてッス!』
そこで魔力通信を終えて一息つくと、
「お疲れ様でした」
「すぐに向かわれますか?」
サシャさんとジェレミエルさん―――
ブロンドの長髪を持つ童顔の女性と、
眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の、
秘書ふうの女性が二名、同室にいて、
「そうですね。
……って、まだライさんは戻られないん
でしょうか」
振り向いて室内を見渡すと、彼女たち以外に
おらず、
「時間かかっているみたいですねえ」
「実験が終わったらシン殿もいったん、
ギルド本部まで戻って来られるんでしょう?
もしライオットが戻りましたら、伝えて
おきますので」
そして二人同時に会釈する。
こうして見ると、大企業の秘書みたいだ。
そこで応接室にノックがされ、
「シン殿、おられますか?
依頼先への案内の馬車が来ておりますが」
「わかりました、すぐ行きます」
そして私はギルド本部から、王家直属の
研究機関へと行く事となった。
「申し訳ありません、シン殿!
まったくあいつら、この前も厳重注意を
受けたはずなのに」
施設に到着すると、リオレイ所長が額にシワを
寄せて怒っていた。
つまり、彼には何の連絡も無く依頼したと
いう事か。
まあもし知っていれば、今日会った時に何かしら
私に伝えているはずだしな。
「でも確かに最近、子供が産まれそうだったので
いろいろな事から離れていましたから。
それに『ゲート』もありますし―――
公都に戻った途端にまた依頼を出されたら
二度手間にもなります」
「そう言って頂けると助かります。
本当にもう、このワシがいない間に……!」
以前も、大型の大容量魔力バッテリーのような
魔導具を開発をした際、いきなり私を呼び出して
彼らは大目玉をくらっている。
(■230話
はじめての かいはつふぐあい参照)
それ以降、大人しくしていたのだが―――
喉元過ぎれば、という事か。
「まあ重要性や緊急性は、私も身を以て
知っています。
魔導爆弾に関しては、もう何度か出くわして
いますし。
ここらで私以外の解決方法が出てくれれば
助かりますしね」
そして私は、彼と一緒に研究施設の中を
進んでいった。
「も、申し訳ございません……
そ、それでは実験内容について説明させて
頂きます……」
部屋に通されてからまずリオレイ所長が退室し、
三十分もすると、その前に所長にたっぷりと
絞られたのか―――
数名の学者風の男女がグロッキー状態で
私の目の前に姿を現した。
「魔導爆弾を、あの魔力溜まり浄化装置で
無力化させる、というお話でしたけど」
「せ、正確には……
魔導爆弾にも魔力の流れで制御する部分が
あるはずですので、そこを強力な魔力で
吹き飛ばすというものです」
「爆発させるには何らかの条件が組み込まれて
いるはずです。
ですが、そういった場合は防御レベルも
高い事が多く、魔力も一定量以上は
受け付けない仕組みになっている事が
ほとんどなのです」
ふむふむ、と私はうなずきながら説明を聞く。
そういえば魔導具はそれを作る人が、
魔力の流れで制御を組み込んでいて―――
そして重要な魔導具ほど防御レベルが高いって
ライさんも言ってたっけ。
(■32話 はじめての あんろっく参照)
安全対策のためにも、爆発起動に関する部分は、
かなり厳重な制御になっているはずだ。
「例えば、浄化装置で膨大な魔力をぶつけた
場合……
その瞬間に爆発するような仕組みに
なっている、もしくは魔力量が変わった
途端に爆発という可能性は?」
ジャンさんからも指摘のあった事を、彼らに
伝えてみると、交互に顔を見合わせて、
「そ、その可能性も想定しています……」
「それで、その……
シン殿を急遽お呼びしようと思い立って」
バツが悪そうにする彼らを、リオレイさんは
やれやれといった表情でにらみ、
「……というわけです。
こやつらに付き合ってやってくだされ」
呆れるように所長がそう言うと、私も一礼して、
実験室に同行する事になった。
「いくつかありますね」
以前の大型バッテリーの開発の時は、
頑丈な石造りの壁に囲まれた、
倉庫のような部屋だったけど、
ここは金属製の壁で構成され―――
危険度を嫌でも認識させられる。
そしてその部屋の中央に、五、六個ほどの
実験用と思われる魔導具が置かれていた。
「一つずつ実験した方が確実だと思うのだが」
リオレイ所長の正論に対し、若い研究者たちは
目をそらして、
「シ、シン殿がおられますから……」
「何が起きても安全が保障されているような
ものですので、つい……」
それを聞いて所長が鼻から大きく息を出す。
後で説教時間の大幅UPは確実だろう。
「では申し訳ありませんが、シン殿」
「わかりました、いつでも―――」
そこで研究者たちはバタバタと動き始め、
浄化装置を遠隔で動かすためであろう部屋に
次々と入っていき、
魔導爆弾のある場所には私一人が残され、
『シン殿、準備はいいでしょうか』
「はい、大丈夫ですよ」
マイクのような魔導具から聞こえてきた声に、
手を振って応じる。
『魔導具、接続完了!!」
『放出準備完了!!
指向確認!!』
『起動します!!
開始10秒前……!』
と、実験シークエンスが始まったが、
『……ん? あれ、あの魔導爆弾は?』
『全部設置しましたけど?』
『ま、待て!!
あれは周囲の魔力を吸収して、
さらに爆発力を上げるタイプだぞ!?
今回は実験から外していたはず!』
と、不穏なやりとりが聞こえて来て、
『何じゃと!?』
『だ、だって急に実験が決まったから』
『じ、実験中止!! 中止ー!!』
『間に合いませーん!!』
と、混乱が向こう側から聞こえて来て、
『バフッ!!』という音と共に、浄化装置が
起動した事を告げる。
私から見て、右から左へと放たれたそれは、
恐らく設置された魔導爆弾へ膨大な魔力を
ぶつけたのだろう。
その多くは直撃を受けたであろう瞬間、
無力化されたのかうんともすんとも言わなく
なったが、
一つだけが火花を散らし―――
『ギィンギィンギィン』と、嫌な金属音を
響かせ、
『まま、魔力量が想定値を超えています!!』
『シ、シン様ー!!』
それを聞いた私はやれやれ、とその魔導具に
近付き、
「魔力・魔法で爆発する道具など……
・・・・・
あり得ない」
そう私がつぶやくように話すと―――
『プシュ~』と何か空気が抜けたような
音を出し、その魔導具も沈黙した。