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コンコン小山のコギツネは
風に揺られる金畑♪
子に為さりぇりゃなになさる?
小道に渡ったヒガンバナ
風にさらわれ森景色
背に響くのは祭囃子♪
記憶の奥に眠る歌を口ずさむ。人間の都合とは関係のない、自分たちのための歌。
遠吠えも、鼻歌も、森は静かに受け入れていた。淡い月明かりが森を照らす…。 獣たちにとって森は楽園だった。何かに守られなくとも、森はそこに在り続けていた。 楽園の中を悠々と進む獣は月明かりに照らされ金色に輝く、靭やかな尾を持った狐だった。木々や川のせせらぎを背に、狐は遙か先に霞んで見える人間の街の灯火を眺めていた。故郷と少しちがう温もりを宿したあの光に、小さな笑みと静かな息を浮かべた。
街では商人や冒険者たちが酒場に集い宴をしていた。酒場の窓からは淡い夕焼けのような光が溢れ、外からでも分かるほどの肉や酒、果実の甘い匂いが漂ってきていた。酒場に足を踏み入れた瞬間空気が変わる。そこは上も下も関係のない、誰でもその場の一員になることができる。あちこちから言葉が飛び交う。しかしその殆どがなんてことない、他愛のない話だった。奥さんとの関係だのダンジョンでの笑い話、仕事のミスを愚痴る者、実に様々だった。大魔鳥の焼串を運びに行った青年も、客と変わらぬ立場であるように振る舞っていた。
「おぉ〜い、アボルゥゥ゙。酒もっと持ってきてくれぁよ」
酒の生臭い匂いとジョッキのぶつかる鈍い音が広がる。
「ミルベさん、俺の名前はアベルだぞ。アボルじゃない。酒は生でいいか?」
名前を間違えられても軽く笑い流すだけなのも、酔いがすっかり回りきった中年の男に対する青年なりの優しさにも見えた。
「アベルもアボルも同じようなもんじゃねぇかよぉ。こまけぇことはきにしなさんなってよぉ。そんな小さなことを気にしてるようじゃぁ、女の1人や2人、手にはいらねぇぞー」
青年の肩を叩きながら大人はゲラゲラと笑っていた。その様子に呆れたように肩をすくめ、青年は答えた。
「ミルベさん。女は手に入れるもんじゃないだろ?心を掴むもんだ。それに俺は、神のお告げによって近いうちに運命の人と出逢うんだそうだ」
「運命?おまえ…それ本気じゃぁねぇだろうな?」
男の質問にアベルは即座に答えた。
「本気さ。何せミズキ・カースバルト様のお墨付きだぞ?」
ミルベは、古臭い叔父の話を聞いたように、
「それももう何年も前の話だろ?」と返した。
大人たちは皆かつての話を遠い昔話のように語る。店主もランタンの火を新しく付け直しながら呆れたようにこちらを見ている。しかしアベルだけはまるで今のことのように受け止めていた。ミルベは暖炉の上に飾ってある絵を眺めながら答えた。
「いーや、今も昔も関係ない。かつてこの地にとどまっていただけるほどの魅力がここにはあったってことさ」
机を叩き、身を乗り出して語るアベルを見て、大人たちは呆れたように笑っていた。まるで夢物語を語る子供を哀れむように
「夢があっていいね、若いもんはそうじゃなくちゃ。ほら酒もう一杯おかわりくれよ」
暖炉から溢れる光にアベルの影が揺れる。アベルは少し頬を赤らめジョッキを机に置いた。
「大ジョッキおかわりお待ちどう」
11
ミルベは酒をみるなり勢いよく喉に押し込んだ。
「あぁ〜。やっぱ酒が一番だなぁぁ」
青年は少し呆れながらふと、暖炉の上にある絵に目が惹かれた。
「ミルベさん。あの絵は?」
「おまえは知らないのか?カースバルトオタクだからてっきり知っているもんだと思ってたぞ」
ミルベは昔話をするかのように語りだした。
「あの絵は、昔ここを治めていた…お前の言うカースバルトが人々を魅了するために描かせた絵画だ。あの絵に描かれてる白髪の女神”しゆら”。あれもほんとにいたのかどうかは今でもわからんからな」
青年は絵を見つめ、呟くように聞いた。
「やっぱり、街の外なの?」
ミルベは思い出したように続けた。
「そうか。おまえ、まだ1度も外に出れてなかったな。この街じゃ未成年は保護者の了承なしには…」
「わかってるよ…。」
青年は半ば強引に話を遮った。ミルベは青年の落ちた視線に気をやって何も言わなかった。
「でももう少しなんだ。あと数日で俺も成人。ようやく外に出られるようになるんだ」
青年の目に映る夜空はいつもより美しく見えた。しかし外を知っている大人たちは青年にどんな言葉をかければよいか、まだわからずにいた。