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夕方。
「……なぁ?」
「うん?」
「もうちょい歩く?」
「いいよ」
理由なんてない。
でも。
「帰るの、なんかもったいないな」
緋八マナは、ぽつりと呟いた。
その一言に、隣にいた
伊波ライが反応する。
「え?」
「いや、なんでもない」
誤魔化すように目を逸らす。
でも。
「……じゃあさ」
ライが少しだけ笑って言った。
「泊まっていく?」
「……は?」
思考が止まる。
「俺の家」
さらっと言うなや。
「……え、いや、その」
頭が追いつかない。
泊まる?
ライの家に?
一晩?
「嫌?」
少しだけ不安そうな顔。
それ見せられたら——
「……嫌ちゃう」
むしろ。
めちゃくちゃ行きたい。
「じゃあ決まり」
にこっと笑うライ。
——ほんま、こういうとこずるい。
⸻
■はじめての部屋
「どうぞ」
通された部屋は、思ってたよりずっと落ち着いていた。
「……綺麗やな」
「普通だよ」
「いや、絶対ちゃんとしてるタイプやん」
「そう?」
少し笑う。
その空気に、少しだけ緊張がほぐれた。
でも。
「……ほんまに泊まるんやな」
改めて実感すると、心臓がうるさい。
「うん」
「……」
「そんな緊張してる?」
「してへんわ!」
即答したけど。
「顔赤いよ」
「うるさい!」
完全にバレてる。
⸻
■近すぎる距離
夜。
「お風呂どうぞ」
「……ありがと」
順番に入って、部屋に戻る。
そして気づく。
「……布団、一個やん」
「うん」
当たり前みたいに答えるライ。
「……いやいやいや」
「え、だめ?」
きょとんとした顔。
「だめではないけど……」
心臓もたへん。
「恋人だし、いいでしょ?」
「……そういう問題ちゃうやろ」
でも。
断れるわけもなく。
⸻
布団に入る。
当然のように、隣。
近い。
近すぎる。
「マナ」
「……なんや」
「こっち向いて」
「無理」
「なんで」
「距離近いねん」
「いいじゃん」
くすっと笑われる。
そのまま。
そっと、腕を引かれる。
「……っ」
気づけば、軽く抱き寄せられていた。
「ちょ、ライ」
「嫌?」
耳元で、優しい声。
「……嫌やない」
むしろ——
安心する。
⸻
■静かな夜
「マナ、あったかい」
「お前がくっついてきてるだけやろ」
「そうだね」
素直すぎる。
少し笑ってしまう。
「……なあ」
「うん?」
「今日、楽しかったな」
「うん、すごく」
少しだけ、間があって。
「こういうの、もっとしたい」
「……俺も」
正直な気持ち。
ちゃんと伝えられるようになった。
⸻
少しだけ沈黙。
でも、気まずくない。
むしろ心地いい。
「マナ」
「ん?」
「好き」
小さく、でもはっきりと。
「……俺もやで」
自然に返せた。
⸻
■眠る前に
「そろそろ寝よっか」
「せやな」
電気を消す。
暗闇の中。
まだ、腕の中。
「……離れへんの?」
「離さない」
即答やった。
「……ほんま、ずるいな」
でも。
そのまま、少しだけ身を預ける。
「おやすみ、マナ」
「……おやすみ」
⸻
目を閉じる。
隣にいる温もり。
安心感。
心臓の音が、少しずつ落ち着いていく。
——こんなん、好きになるに決まってるやん。
いや、もうなってるけど。
⸻
静かな夜。
初めての距離。
でも、不思議と怖くなかった。
むしろ。
ずっとこのままでいたいと思った。