テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昼休み 屋上真琴はアキと一緒に屋上へ向かう階段を、
心臓を爆発させながら上っていた。
(屋上なら……人がたくさんいるはずだ。
アニメや漫画だとそうだから、
アキと一緒でも緊張しないはず……)
そう思って選んだ場所だった。
なのに——
屋上のドアを開けた瞬間、
真琴は心の中で叫んだ。
(……なんで二人きりなんだ……!!)
5月の札幌はまだ肌寒い。
人気のない屋上は、風が冷たくて、
ベンチも誰も座っていない。
ただ、青い空と遠くの山並みだけが広がっていた。
アキは全く気にせず、
「わー、いい眺めじゃん!」と笑いながら、
手すりの近くに弁当を広げた。
真琴は固まったまま、
頭の中が真っ白になっていた。
(何話せばいいんだ……
会話……会話……考えろ……!)
アキが座って、こちらを見上げた。
「どうした? 座れよ」
「……あ、うん」
真琴はぎこちなく隣に座り、
弁当を開ける手が震えていた。
沈黙が30秒続いた。
真琴は必死に頭を回転させて、
ようやくひねり出した言葉を、
蚊の鳴くような声で言った。
「……ご趣味は?」
アキが一瞬、固まった。
次の瞬間、
アキは盛大に吹き出した。
「いや、お見合いじゃねーんだからさw」
アキが腹を抱えて笑い出す。
真琴は耳まで真っ赤になって、
自分を殴りたくなった。
(……死にたい……)
でも、アキの笑い声があまりにも楽しそうで、
真琴の胸の奥が、ふわっと温かくなった。
アキは笑いながら、
自然に話を繋いでくれた。
「俺の趣味? 野球と、家族と飯食うことかな。
あとは……ゲームとか?
あ、最近は真琴の球をどう受けようか考えるのも趣味になったかも」
アキは屈託なく笑いながら、
自分の家族のこと、中学時代の話、
好きな食べ物、昔飼っていた犬の話……
次から次へと、たくさん話してくれた。
真琴はほとんど相槌を打つだけで、
ただアキの横顔を、
まっすぐに見つめていた。
(……アキのこと、全然知らなかった)
嬉しかった。
アキの声が、風に乗って耳に心地よく響く。
このまま、ずっと昼休みが終わらないで欲しいと、
本気で願ってしまった。
チャイムが鳴る直前、
アキがふと真顔になって、静かに言った。
「また誘ってよ。
今度は真琴の話、聞きたい」
真琴は息が止まった。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられて、
目頭が熱くなった。
「……うん」
声が震えてしまった。
アキは満足そうに笑って、
立ち上がりながら手を差し出した。
「じゃ、行こうぜ」
真琴はその大きな手に、
そっと自分の手を重ねた。
(……この手、温かい)
屋上を後にする二人の背中は、
少しだけ、近づいていた。
教室に戻ってきた真琴の表情は、
明らかに幸せそうだった。
頰が少し赤くて、目がうるうるしていて、
口元が緩んでいる。
タクは自分の席からその姿を見て、
心の中で小さく呟いた。
(……よかったな、真琴)
真琴はキャプテンとして、
練習中は誰に対しても線引きをしている。
でも、アキだけは別だった。
アキには返せないくらい良くしてもらってるから、
何かしてやりたくて仕方がなかった。
そんな時だった。
グラウンドのベンチで、
アキと誰かが靴下の話で盛り上がっていた。
「アキー! 靴下穴空いてんじゃん‼️
ケガの元だぞ!」
「ゲ、ほんとだ……」
アキが笑いながら自分の足元を見ている。
真琴はスパイクを磨く手を止め、
心の中で決めた。
(靴下……プレゼントしたい……)
真琴はこう見えて、行動派である。