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あれは呪いの本なのだー私はそう確信しています。
受験帰りの二月の夜の新幹線でした。18時半頃に上野駅から乗った、仙台行のやまびこです。当初の予定では、指定席には机があるので、移動中は勉強するつもりでした。そのつもりで、席に座った後にとりあえず机を開きました。しかし、なんだか勉強する気力が湧かなくて、帰りの切符をそこに置いたまま、少しぼおっとしてたんです。これでは時間を浪費してしまう。そんな考えが過(よぎ)って、頭が働かないまま、なんとなくカバンを漁っていると、何か教科書とは違うような書籍をつかみ取りました。折らないようにゆっくり取り出してみると、青い紙カバーに包まれた文庫本でした。
そういえば。先週、駅の本屋に立ち寄ったことを思い出しました。仙台駅の地下鉄から二階に上がって、土産物屋の通りをまっすぐ行くと、小さな書店があるのです。要らないものは持っていかないように整理したつもりですが、参考書か何かと勘違いしてカバンから出さなかったのでしょう。なんにせよ、いい暇つぶしが見つかったと思いました。おぼつかない手でカバーをめくると。杜宮飛彦作の『夜窓』。お気に入りの作家の、新刊ではないけど初めて読む小説でした。
『夜窓』。その文字を見て、ふと新幹線の窓の外を見やりました。夜をものともしない勢いのビル群が見えたかと思えば、一瞬遮られて、次は街灯がぽつんといくつかあるだけの吸いこまれそうな闇が広がっている。闇の中に現れては消え、消えては現れる光をぼんやりと眺めていました。余韻に浸る間もなく変わってゆく風景に後ろ髪を引かれるような寂しさと、次に現れる新しいものを楽しみに待っている期待。私の頭の奥の、それらのせめぎ合いに気付いたとき、もう一度表紙を見つめました。今思えば、その時に私は『夜窓』に取り込まれたのです。