四月二十一日……午後三時……。
巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われている……。
「よう、ニイナ。最近どうだ?」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がそう言うと、黒いローブでほぼ全身を覆《おお》っている身長『百三十センチ』の幼女はこう言った。
「ナオトと毎日いると、楽しい……。けど、殺し屋としてやってきた私がこんなところにいていいのか分からない」
「……ニイナ。お前はもう誰も殺さなくていいし、殺し屋を名乗る必要もない。もし、お前の前に立ちはだかるやつがいたら、俺が全員ぶっ飛ばしてやる。だから、安心しろ」
「……ナオト」
彼女はそう言うと、スッと立ち上がった。
そして、彼の方へと向かい始めた。
まあ、途中で、つまづいてしまったのだが……。
「……! 危ないっ!」
間一髪《かんいっぱつ》、彼は彼女の体を支えた。
そこまでは良かったのだが、彼はなぜか足を滑《すべ》らせてしまった。
「……あっ、やばい……」
彼はそう言うと、仰向けで倒れた。
その時、彼は彼女を抱きしめていた。
そのため、彼女はナオトという名のクッションに守られた。
「……あー、危なかった……。ニイナ、大丈夫か?」
「う……うん、大丈夫。ありがとう、ナオト……」
その時、彼は初めて彼女の素顔を見た。
白髪セミショートと真紅の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女を目の当たりにした彼は、何かを思い出しかけた。
「……似ている……けど、違う……。あの人は……もう少しだけ髪が長くて……目の色は……黒だった」
「ナオト、どうしたの? 私の顔に何か付いて……」
その時、彼女は黒いローブに付いている黒いフードを被《かぶ》っていないことに気づいた。
「……ねえ、ナオト……」
彼女は少し俯《うつむ》くと、彼にそう言った。
「な、なんだ……?」
「もしかして、私の素顔……見ちゃったの?」
「え? あー、いや、俺は何も見てないぞ。白髪セミショートとか真紅の瞳なんて、知らないぞ。あっ」
彼は思わず、この状況で言ってはいけないことを言ってしまった。
「……嘘《うそ》つき……。やっぱり見ちゃったんだね……」
「え、えっと、その……これは……あ、あれだ。不可抗力というやつで……」
彼女はどこからともなくナイフを取り出すと、彼の目の前に切《き》っ先《さき》を向けた。
「……ナオト、嘘つきは泥棒《どろぼう》の始まりなんだよ?」
「……えっと、その……ごめんなさい……見ました。だから、痛くしないでください」
「……どう……だった……?」
「……え?」
「私の顔……おかしなところとか、なかった?」
彼女は彼の目をじっと見つめながら、そう言った。
彼はキョトンとした表情でこう言った。
「いや、別におかしなところなんてなかったぞ? どうしてそんなこと訊《き》くんだ?」
彼女はナイフを彼から遠ざけると、それで自分の首筋を切った。
「お、おい! 何やってんだよ! ニイナ! どうしていきなりそんなことを……」
彼の口調がだんだん弱くなっていったのには、理由がある。
それは彼女の首筋から溢《あふ》れ出した血液が彼女の首筋へと戻り、傷痕《きずあと》が完全に塞《ふさ》がったからだ。
「……ニイナ……お前……」
「うん、そうだよ。私は吸血鬼と人間のハーフ。だから、私を殺すのは至難の業《わざ》ってわけ……」
彼は目をパチクリさせると、彼女の頬へと手を伸ばした。
「触《さわ》らないで! ナオトも私みたいになっちゃうかもしれないから!」
彼女が彼の手をパシン! と叩いた直後、彼はこう言った。
「そんなことあるわけないだろ? 俺は今までミノリとルルに何度も触られたけど、吸血鬼になる予兆すらないんだから……」
「……でも、そんなの分からない」
「……じゃあ、実験してみようか」
「……実験?」
彼女が目をパチクリさせると、彼はゆっくりと上体を起こした。
「ああ、そうだ。危険か、そうでないのかは試してみないと分からない。だから、実験するんだよ」
「でも、それでナオトが吸血鬼になったら、私……」
彼は彼女の肩に手を置くと、ニコッと笑った。
「大丈夫、大丈夫。ほら、やるぞ」
「う、うん……」
彼女はコクリと頷《うなず》くと、ナイフを体のどこかにしまった。
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