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「……じゃあ、始めるぞ?」
「うん……」
彼は彼女の頭に手を置くと、優しく撫で始めた。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「うん、すごく気持ちいいよ。けど、やっぱり不安だよ」
「そんなのすぐに忘れるさ。じゃあ、次は……顔だな」
彼は彼女の額《ひたい》や頬《ほほ》に手を当て始めた。
「……ナオト、なんか恥ずかしいから、やめて」
「恥ずかしい? 俺はただ、ニイナの顔を触《さわ》ってるだけだぞ?」
「……け、けど、やっぱり恥ずかしいよ……」
そう言いながら、頬を赤く染めるニイナ。
彼はそれに気づくと、今度は彼女を抱きしめた。
「ひゃ! ナ、ナオトー、いきなり抱きつかないでよー」
「ごめん、ごめん。ニイナが可愛いから、つい」
「そ、そうなの? けど、ちょっとビックリしたから、次からは気をつけてね?」
「おう、分かった」
彼はそう言うと、再び彼女の頭を優しく撫で始めた。
「……ねえ、ナオト……」
「んー? なんだー?」
「どうしてナオトは、そんなに優しいの?」
「優しい? 俺がか?」
「うん……」
「うーん、どうしてって言われてもな……。お前に乱暴したり、ひどいことをしたら、お前が悲しむってことを知ってるからだと思うんだけど……。まあ、本当のことは俺にも分からない」
彼がそう言うと、彼女は静かにこう言った。
「そっか……。じゃあ、今からナオトの中にある怒《いか》りの感情を解放してみるね……」
「……? おい、ニイナ。今なんか言ったか?」
「……ナオト、私の目を見て……」
彼女は彼に顔を近づけると、真紅の瞳に宿っている力の一つを使用した。
「……あっ! くっ! な、なんだこれ! 頭の中で誰かの声が聞こえる!! おい、ニイナ。お前、いったい何をした!?」
彼が頭を抱《かか》えながら彼女にそう言うと、彼女はニヤリと笑った。
「さぁ、ナオト。怒《いか》りに身を任せてみて。そうすれば少しは楽《らく》になるよ」
彼女は両手を広げると、真紅の瞳を光《ひか》らせた。
その直後、彼は先ほどよりも苦しそうな声をあげ始めた。
「……く……くそ! いったい、どうすれば……」
その時、彼の中にいるものたちが彼にこう言った。
『気をしっかり持て! ナオト!!』
「……あ……ああ……そうだな……。そうだよな。こういう時こそ気張らないと……いけない……よな!」
彼は彼女に手を伸ばすと、彼女を抱き寄せた。
「……そ、そんな……。私の力が通用しないなんて。こんなのありえない……」
「だが、現に俺はお前の力に抗《あらが》って、勝利した。だから、もう無駄な抵抗はするな。大丈夫、俺は吸血鬼になんてならないよ」
「……じゃあ、血を吸ってもいいの?」
「ああ、いいぞ。ただし、死なない程度にしてくれよ」
「うん、分かった。それじゃあ、いただきます……」
彼女はそう言うと、彼の首筋を一度、舌で舐《な》めた。
注射をする前にアルコールを含《ふく》んだガーゼで二の腕を拭《ふ》くように……。
その後、彼女は久しぶりのごちそうを目の前にしたせいか、容赦《ようしゃ》なく彼の首筋にガブリ! と噛み付いた。
「……お、おい、ニイナ。あんまりがっつくなよ、俺は逃げたりなんかしないぞ?」
彼女は彼を押し倒すと、黒いローブを勢いよく脱《ぬ》いだ。
「お、おい! ニイナ! どうして服を……」
その時、彼は彼女の体を食い破り、外に出てきた『ソレ』を目《ま》の当たりにした。
「……お、おい、なんだよ、それ……」
彼がそう言うと、彼女は涙を流しながら、こう言った。
「……ナオト……私を殺して……。お願い」
その直後、彼女の体は『ソレ』になった。
クネクネと蠢《うごめ》く『ソレ』は誰がどう見ても『触手』だった。
「……いつからだ? いつからニイナは、こいつに寄生されていたんだ? 人間と吸血鬼のハーフだから、狙われたのか? それとも……いや、今はそんなことどうでもいい。それよりも今は……!」
彼はキッとした目つきで『ソレ』に目をやると、一瞬で『ソレ』のところまで移動し、『ソレ』の一部を掴《つか》んだ。
俺の中にいる蛇神《じゃしん》よ。俺にその力を使わせてくれ!
彼はそう念じた後《あと》、手の平から神々も殺せるほどの毒を『ソレ』に少しだけ流し込んだ。
すると『ソレ』は抵抗する間も無く、死んでしまった。
ナオトは『ソレ』の中心部に手を突っ込み、その中にいると思われる人物を……探し当てた。
「……よいしょ……っと……」
彼はその人物を『ソレ』の中から取り出すと、風魔法でその人物の体に付いていた粘液《ねんえき》を吹き飛ばした。
彼は、彼女が脱ぎ捨てた黒いローブを風魔法で運んで彼女の首から下を隠すように被《かぶ》せた。
「……う……うーん……あれ? 私、どうして裸なの? それに、どうしてナオトは泣いてるの?」
彼女はゆっくり目を開けると、そう言った。
彼は彼女をお姫様抱っこしたまま、こう言った。
「……バーカ、泣いてなんかねえよ。これは、ただの汗だ」
「え? そうなの? でも、目から汗が出る人なんて聞いたことないよ?」
彼女が疑問符を浮かべると、彼はゆっくりとその場に座った。
「細かいことは気にするな。けど、お前が無事で本当に良かった」
「……なんだかよく分からないけど、心配かけてごめんね」
「いや、お前が謝る必要はない。謝らなくちゃいけないのは俺の方だ」
「どうして? ナオトは私を助けてくれたんでしょ?」
「それは結果論にすぎない。俺はもっと早く気づくべきだったんだ」
彼女は彼が自分を責めていることに気づくと、ニッコリ笑いながら両手を広げた。
「ナオト、自分を責めないで。一人で抱え込もうとせずに私を頼って」
「……ニイナ」
彼はそう呟《つぶや》くと、彼女に身を委《ゆだ》ねた。
「私は元《もと》『殺し屋の中の殺し屋』……ニイナ。私にナイフを使わせたら、右に出る者はいない。だから、心配しなくていいんだよ?」
「……けど」
「けど?」
「俺は、お前を失うのが怖い……」
「私は人間と吸血鬼のハーフなんだよ? そんな私を殺せる存在なんて、そうそういないよ」
「だといいんだが……」
「もうー、ナオトは心配しすぎだよ。私、そんなに弱くないよ?」
「……そう、だよな。お前は強いもんな……。ありがとう、ニイナ。お前のおかげで少し……いや、かなり楽《らく》になったよ。お礼に何かしてやりたいんだけど、何がいい?」
「うーん……じゃあ、しばらくこのままでいて……」
「……分かった」
彼はそう言うと、彼女をギュッと抱きしめた。