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「大事を取って7日程はお休みをしましょうね」
次の日、朝食時の母の一言目をきっかけに、
「そうだね、それがいい。その間に父様がディマス様をどうにかしてあげよう」
「僕も有休をとって一緒にいよう。心配だからね」
父がそう言い、キースが続けた。
どうにかって何よ⁈あと、有休もあんのか、この世界!ホワイト!
「え、あの。怪我は治って……」
俺が慌ててそう言うと、母が見るからに肩を落とす。
長い睫毛に縁どられた翡翠の瞳を伏せ、指先が目元を拭うように動いた。
「……お母様、心配だわ……」
母が震える声で落すと、父がそっとその肩を撫でながら、俺に訴えるような眼差しを送ってきた。
うん、うん……これされるとどうしようもないですよね……。多分、演技とは思うけどね!だって俺を止めるときは決まって母はこのムーブだもんな!
しかし、心配しているのは本当なのだ。心配を通り過ぎて過保護なのだが。
俺は小さく息を吐くと、
「わかりました……自習します……」
仕方なくそう答えた。
すると母は一転して笑顔に変わり顔を上げる。
……やっぱ泣き真似かい……いいけどさ。
※
「というわけで、俺は軽く軟禁されている状態だ」
「お兄、愛されすぎじゃん」
放課後の時間になり、訪ねてきたノエルは出されたクッキーを頬張りつつ、可笑しそうに笑った。
昨日の今日ということもあり、ノエルも心配になって来てくれたのだ。
今は二人でソファに座り、いつものようにだらっとしている。
「腕がどうもないなら良かった。お休みだったから吃驚しちゃったけど」
「あーうん、痛みもない。ありがとな。……いや、俺は行く気だったよ……
そういや、ディマスはどう?」
「あーねー……凄いね、あの人……」
「何が?」
「今、レジナルドの婚約者は自分だって吹聴して歩いてる」
俺を負かしたということで、そういった行動に出るのは想像に易くはある。俺としてはどうでもいい話であって、いっそ本当に婚約をしてくれてもいいのだが……。
「たださぁ。当のレジナルドがね……どうもそれを否定してて」
「まあ、国家間の話だしなぁ」
「それもあるけど……気になっている人がいるって言っててねー」
そこでノエルが俺を見た。
え、まさか……。
「……俺とかじゃないよな?」
「誰、とは明白には言ってないっぽいけど。皆、そう思ってるよねー」
「……マジかよ……」
「昨日の負けも、自分はレジナルド様に相応しくないから身を引いた、みたいな美談になってるよー。昨日の今日でこれだよ、凄くない?またさぁ。それって多分レジナルドにも届いてると私は思うんだけどね。否定してないんだよね。ディマスとの噂は否定するのに。だから余計に……」
「ああああああああ……」
俺は頭を抱えて蹲った。
面倒くさい‼激しく面倒くさい‼
この際、その気になる人が俺かどうかはさておき……俺じゃないなら巻き込まないで欲しいんだよ‼ただでさえ、俺とレジナルドは学園内ではだいぶん噂になっている。
それもあって、とにかく俺は近づかないように心掛けているのだが、何せ生徒会に入っていることもあって、行動を全部別にするのは難しいのだ。
しかも、何かと俺と並んで歩こうとしてくるんだよな、あの王太子様はよぉ……。
「でもさ。レジナルドって……お兄が好きっていうよりは、可愛い小動物に構ってるって感じじゃない?」
「それな!」
顔を上げて俺はノエルの言葉に大きく頷いた。
そう。レジナルドは俺を恋愛対象として見ているというよりは、ノエルが言うように構っている感がものすごく強い。ただその接触が客観的に見ると近すぎたりとあって勘違いされ易いというだけだ。ノエルのように近くで見ていれば分かる話だが……全員がそうではないのが勘違いを生じさせていて、また人というのは恋愛話も好きで広まっていく。
「もうさー、お兄、キース先生と結婚すればー?」
「お前もかブルータス!」
「好きだね、お兄、それ」
「いやさぁ!お前知ってるじゃん⁈俺が女の子好きだって……!なんでそれ知っててそうなんの⁈」
「えーでもさぁ、お父さんもお母さんもキース先生推しでしょ?キース先生もそうっぽいし……噂を止めるには一番早いし。キース先生も格好いいよ」
「顔の良しあしじゃないんだよ……!股座に何かついてるかついてないかなんだよ……‼お前、ナイリア推しじゃないのかよ‼いや、それも無理だけど……‼」
「お二人とも、少し声を落した方がいいですよ……」
俺とノエルの会話に、不意に違う声が混じって、俺はびっくりして辺りを見回した。扉の方にはなんとナイジェルが立っている。どうやらいつの間にか入ってきていたようだ。
「え、ちょ⁈ノックした⁈」
「いえ、してないですね。もういいかと思って」
ナイジェルは飄々とそう答える。
良くないよ⁈ナイジェルさん‼お前、執事じゃん‼そういうとこちゃんとしようよ⁈
どうもこのナイジェル、ノエルと個別で会っているようなのだが──我が妹ながらノエルの距離の詰め方がえぐい。前世でもそんな感じではあったが──……どんどんと俺に遠慮なくなってる気がするんだよな。
「それよりも、リアム様」
「なんだよ……」
俺は大きく溜息を吐いて、ナイジェルをもう一度見る。
いかん、うっかりと素で答えちゃったじゃん……。
「お客様が来ておりまして」
「お客様……誰が……?あ、セオドア?」
「いえ、セオドア様ならお通ししますよ。そうではなく」
まあ、それもそうか、と頷いた俺に、
「レジナルド王太子殿下です」
ナイジェルが告げた。
はぁあああああ⁈