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そう言ったあと、もとちゃんがふとスマホを確認した。
「あー……親父から連絡来たわ。もうそろそろ出よかな?」
急な帰る宣言に、胸の奥へ寂しさが押し寄せる。でも、俺は休みやけど、もとちゃんは配達を頼まれてそのまま拉致されたも同然やもんな。いくら大人や言うても、これだけ長い時間帰ってこうへんかったら親父さん達も心配するし、流石に仕事に支障が出るか。
そんな寂しさを少しでも紛らわせようと、
「じゃあ送ってくわ」
と同時に席を立つ。ほんまはもっと伝えたい事も、甘い空気も味わいたかったんやけど。
「あ、じゃあこれ、余った分のケーキ。元宮さんも持って帰ってください」
陸さんから笑顔でケーキの入った箱を渡される。洸くんに備えて買い占めるんちゃうかってくらい大量に買うたから、流石に余ったか。
陸さんに「ありがとうございます」と笑顔で答えた後、他の子達にも手を振って、「またな」ともとちゃんが俺の先を歩く。
あー、やっぱり寂しいな。俺も元宮酒店まで行ったろかな。あかんか、それじゃ恋人通り越してストーカーみたいになってんな。
俺ってこんなに誰かに執着するようなタイプやったっけ。
陸さんの家の玄関を出て2人きりなると、一気に静けさが訪れる。
「……これ、秀太の家に置いといていい? 仕事終わった後また寄るから」
ケーキの箱を持ったもとちゃんにそう言われ、一気に気持ちが跳ね上がる。きっと、もとちゃんも俺も同じ気持ちやったんやな。嬉しすぎて、「うん!」と子供みたいに笑いながら頷いてしまった。何やってんねん、30にもなる大人が。こんなに顔が緩んでもうどうしようもないわ。
「それなら、送っていく前に、今入れとこうか」
それを誤魔化すように、そそくさと鍵を開けて、そのままもとちゃんを自分の家へ招き入れる。
冷蔵庫にケーキをしまった途端、俺はニヤニヤしながら振り返った。
「……お前、陸さん苦手やろ?」
「え? なにが」
もとちゃんはあからさまに『嘘ついてます』と口笛でも吹きそうな、わざとらしい顔をしている。ほんま分かりやすくて可愛い奴や。
「全然いつもと様子違うかったし。女神様もスベったしな?」
「……ほんま、もうちょっとみんなわろてくれるか思ったんやけど。妙に納得されたから、真面目に返したわ」
ふふッと照れくさそうにもとちゃんが微笑む。この様子やと、絶対にあれやな。
「……もしかして親父さんからの連絡も、あの場から逃げたくて嘘やったりする? ちょっと見せてみろ」
俺がからかいながら、もとちゃんのズボンの後ろポケットからスマホを取ろうと手を伸ばすと、もとちゃんは「待って!」と必死でガードしてきた。そのせいで体勢が崩れて勢いよく抱きつくような形になって、何気に恥ずかしい。
「……ごめん、秀太、ちょっとだけこのまま、ぎゅっとしてていい?」
「……ん、なんか誤魔化されてない?」
「ふふっ、あとでちゃんと見せるから。やから今はもうちょっとこうさせて」
もとちゃんの腕が優しく、だけど力強く俺を抱きしめる。幸せ。でも、もう、我慢せんでええんや。
「……秀太、俺だけのもんになってくれる?」
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改めて耳元で囁かれて、心臓がドキドキと跳ね跳ぶ。ほんまにコイツは。返事なんてもう分かってるやろ。
「……スマホ見せてくれたら返事する」
俺の真意を読み取ったのか、もとちゃんは少し俺を見つめたあと、静かにスマホのロックを解いた。
「……誰もおらんよ。秀太が嫌がるような相手は誰1人おらへん」
その言葉に「別にそんなんちゃうわ」と強がって笑ってみせた。
そう言いながらも、ほんまは不安で仕方ない。俺の事を好きと伝えてくれる前の友達としてのもとちゃんに、特定の相手は作らず、その場の雰囲気でその日だけの恋人を作るという話は前から聞いてたから。
仕方ないのは分かってる。
でも、その日だけじゃないメッセージがもしも残っていたら。
でも、今のありのままのもとちゃんを選んだのは俺や。それを受け入れられるように、なるべく他のものが目に入らないように『親父』と書いてあるトーク画面を開く。
今日の日付の連絡は、もとちゃんからの『秀太のところに配達に行くからちょっと遅くなる』というメッセージに、親父さんからの『ごゆっくり』と書いてあるスタンプだけで終わっている。
「……おい、やっぱり連絡ないやんけ」
俺が呆れてツッコむと、もとちゃんは両手を広げ、なぜか逆にびっくりしたような顔で叫んだ。
「だって!! 嘘つかな2人きりになれんかったやんか!!」
開き直ったその叫び声と、必死すぎる表情に、俺は大爆笑した。
「あほ、隣に聞こえたらどうすんねん」
笑いを抑えながら、もとちゃんの後頭部を片手で掴んで自分の方に引き寄せた。
「……俺だって、はよ2人きりになりたかったよ」
俺の唇をぎゅっともとちゃんのものに重ねると、もとちゃんの肩がビクッと跳ねた。ほんまこいつは。こう言うことに慣れてるはずやのに、俺に対してだけはこんなに純粋に反応してくれるんやな。
そっと唇を離すと、まだ足りないとでも言うように、もとちゃんの顔がもう一度近づいてくる。
「……こんなとこ、あいつらに見られたら、さっきの嘘やってバレるで?」
「……別にバレてもええよ」
「……じゃあ、俺の部屋来る?」
「……ええの?」
もとちゃんの手を引いて、俺の部屋のドアを開ける。
そのままゆっくりとベッドへ押し倒し、耳元で熱く深く囁いた。
「……もとちゃんの事も俺だけのもんにしていい?」
「秀太……」
熱い吐息と体温が重なり合い、俺たちは解け合うように深い愛の中へと沈んでいった。