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その日の夜。
仕事を終えて、二人きりになった部屋。
さっきまで普通に話していたのに、付き合ったという事実を意識してしまうと、急に静かになる。
「……たっくん」
「ん?」
「なんか、今日変やね」
「俺もそう思ってた」
「……恋人になったから?」
「たぶん」
リュウキが照れくさそうに笑う。
俺はその顔を見つめる。
いつも見ているはずなのに、今日は少し違って見えた。
「……なに?」
「いや」
「また見よる」
「うん」
「恥ずかしいって」
そう言いながらも、リュウキは離れない。
むしろ少しずつ距離が近くなる。
肩が触れる。
腕が触れる。
それだけなのに、妙に意識してしまう。
「リュウキ」
「ん?」
「こっち見て」
「……なんで?」
「見たいから」
ゆっくり顔を向けたリュウキと目が合う。
その瞬間、リュウキが少しだけ息を止めた。
「……キス、していい?」
「……うん」
今度は、さっきより自然に唇を重ねる。
一度離れても、どちらからともなくまた近づく。
短いキスを何度か繰り返すうちに、リュウキの緊張が少しずつほどけていく。
「……たっくん」
「ん?」
「なんか……近い」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
そう言って、リュウキが俺の服を掴む。
その仕草に、胸がいっぱいになる。
俺はリュウキをそっと抱き寄せた。
「……あったか」
「たっくんも」
「もっとこうしてていい?」
「……うん」
腕の中で、リュウキが小さく息を吐く。
いつも強気で、かっこいいものが好きで、「かわいい」と言えば怒る。
そんなリュウキが今は、俺の胸元に顔を隠している。
「……見んで」
「見てないよ」
「絶対嘘」
「じゃあ、目閉じる」
「……それもなんか嫌」
「どっち?」
「……分からん」
思わず笑う。
「ほんと、リュウキらしいね」
「うるさい」
そう言った声も、いつもよりずっと柔らかい。
俺は髪を撫でる。
するとリュウキが、ほんの少しだけ俺に体を預けてきた。
「……たっくん」
「ん?」
「今日、帰りたくない」
その言葉に、心臓が大きく跳ねる。
「……俺も」
目が合う。
言葉はもう必要なかった。
もう一度、そっと唇を重ねる。
今度は急がずに。
お互いの気持ちを確かめるように。
抱きしめる腕に少しだけ力を込めると、リュウキも俺の服を握り返した。
「……たっくん」
「うん」
「好き……」
小さな声。
「もう一回言って」
「……言わん」
「そっか」
「……でも」
リュウキが俺の肩に顔を埋める。
「……今日は、そばにおって」
「うん」
その夜は、それ以上何も急がなかった。
ただ、何度も抱きしめて。
何度もキスをして。
今までよりずっと近い距離で、お互いの存在を確かめる。
窓の外が静かに暗くなっていく。
俺の腕の中で、リュウキが安心したように目を閉じる。
その横顔を見ながら、俺も静かに目を閉じた。
明日になれば、またいつものようにみんなと笑って。
いつものように仕事をして。
きっと誰にも、この夜のことは分からない。
でも俺だけは知っている。
俺の隣にいるこの子が、誰よりも大切な人になったことを。
そして腕の中から聞こえる、小さな寝息。
それを聞きながら、俺はもう一度だけ、そっと髪にキスを落とした。
コメント
1件
お疲れさま!第6話読んだよ〜。 二人が恋人になった後の“距離感の変化”がめっちゃ丁寧に描かれてて、すごく良かった。普段は強気なリュウキが「帰りたくない」って言ったり、たっくんの胸に顔を隠す姿にギャップ萌えしたわ。キスの数も多くなくて、焦らずお互いの存在を確かめるような夜の描き方が、逆に甘くてずるい。ラストの「誰にもこの夜のことは分からない」っていう秘密めいた余韻も好き。次も楽しみにしてる🔥