テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
K side
夜の余暇、るい様と談笑する日々が少しずつ戻ってきた。
最近のるい様は、幼少期の話や公務であった出来事をぽつりぽつりと話してくれるようになった。
時々、公務の不満を漏らするい様が、拗ねた子どものようで可愛らしくて微笑ましい。
以前は、るい様を知りすぎる事に焦りを感じていたのに…。
今は、この距離感に心地よさを感じてしまっている。
今夜も、るい様の部屋へ向かっている。
K「失礼いたします」
R「お、来たか…」
K「?」
視線が合う。
口角は上がっているのに、瞳の奥だけがどこか淋しげだった。
…どうしたのだろう?
思わず、るい様の顔をじっと見つめてしまう。
それに気が付いたるい様が、ふいと視線を逸らした。
そして、何も言わず立ち上がり、縁側へ向って行く。
R「かのん」
振り向いたるい様が、こっちへ来いと手招きをした。
何だろう。
近付いて、るい様の視線の先を見る。
K「あ…」
満月が明るく輝いていた。
月の輪郭が滲んで見えるほど眩しい。
K「綺麗ですね」
R「あぁ」
るい様が腰を下ろす。
月を慈しむように見つめた。
その横顔を、時が止まったように見つめる。
月明かりを映した瞳が、濡れたように揺れている。
その横顔がひどく儚くて、胸が少し痛んだ。
どこか物静かな雰囲気に、疲れているのだろうかと思った。
けれど話し始めれば、そんな気配は感じられない程るい様は機嫌が良かった。
よく笑う。
俺の他愛ない話を、いつも以上に嬉しそうに聞いてくれる。
俺の勘違いだったのだろうか。
るい様のたくさんの笑顔に、俺の顔もずっと綻んでいた。
そしてーー、時折るい様の視線を感じた。
湯呑に口を付ける時、 月を見上げる時、 他愛のない話に笑った時。
K「…?」
気づけば、るい様は静かにこちらを見ていた。
何か言いたげなのに、何も言わない。
その眼差しが妙に穏やかだった。
「……何か、ついておりますか?」
思わず尋ねる。
でも、るい様は小さく笑って首を振るだけだ。
「いや」
それ以上は何も語らない。
だから、俺はその意味を知ることはなかった。
今晩も、あっという間に時間が過ぎていく。
K「では、そろそろお暇します」
R「……、もう…そんな時間か…」
るい様がゆっくりと立ち上がり、戸口まで見送ってくれる。
部屋を出ようとして、戸に手をかけた。
R「かのん」
不意に呼び止められる。
K「はい」
振り向くと、るい様が一歩近付いてくる。
K「え…」
次の瞬間、るい様の片腕にふんわりと抱き寄せられた。
R「……おやすみ」
80
耳元で、低い声が静かに響く。
K「っ…///」
身体が一気に熱くなった。
K「はい…っ…、るい様もゆっくりお休みください」
頭を下げ、早口でそう言うと、まともにるい様の顔を見られないまま立ち去る。
無理…っ。
顔が赤いのを隠すように口元に手を当てる。
明日、ちゃんと顔を合わせられるだろうか。
耳元にはまだ、るい様の声と体温が残っていた。
ーー翌朝。
冷たい空気が頬をひんやりと掠める。
廊下を歩いていると、外が騒がしい。
馬の鳴き声。
荷車を引く音。
家臣達が慌ただしく荷を運んでいる。
K「…遠征…」
胸がどくんと鳴る。
それに気が付いた瞬間、考えるより先に身体がるい様の元へ向かっていた。
けれど、部屋の前で立ち尽くしてしまった。
戸を何度も見つめる。
手を伸ばすが、戸を引くことが出来ない。
呼び出されてもいないのに、自ら訪ねてくるなんて失礼だ。
彷徨う手を軽く握りしめる。
爺「かのん殿、どうかされましたか?」
考え倦ねていると、後ろから声をかけられた。
K「ぁ…若様は…」
爺は言葉を選ぶように一瞬だけ目を伏せる。
爺「若様でしたら…早朝に遠征地へ発たれました」
K「……そうですか…」
遅かった。
見送るくらいしたかった。
出発したばかりだというのに、いつ帰ってくるのだろう。そればかり浮かぶ。
爺「あ、そうでした…」
爺が懐から何かを取り出す。
爺「こちら、若様からお預かりしていた物です。かのん殿に…と」
渡されたものは白い布に丁寧に包まれていた。
手の中に収まるくらいの小さなもの。
K「ありがとうございます」
両手で受け取り、胸元に大事にしまう。
爺「それでは…」
爺が静かに立ち去っていく。
頭を下げ見送ると、 落ち着いた場所へすぐに身を移した。
るい様は何を持たせてくれたのだろう。
白い包みを取り出し、掌に置く。
布の角を摘み、そっと開いた。
え…?
それを見た瞬間、胸がざわついた。
目に入ってきたのは、古いお守りだった。
ほつれた場所は、所々丁寧に縫い直してある。
見た瞬間、それがるい様の大事な物だと分かった。
なんで…こんな大事な物を…俺に…。
本来なら、遠征へ持って行くべきものなのではないか。
どうしてーー。
お守りを見つめたままその答えを探す。
そうしていると、横切った家臣達の声が耳に入ってきた。
家臣「どうして若様があんな危険な遠征へ…」
家臣『…だな、わざわざあの場所を選ぶなんて鬼だな、将軍様は…』
それを聞いた瞬間、息が止まり、頭の中が真っ白になった。
胸の奥が重く、苦しい。
……このお守り…。
K「…るい様の…代わり…」
足に力が入らなくなり、崩れるように蹲る。
そういえば…昨夜のるい様は、おかしかった。
まるで目に焼き付けるように俺を見ていたるい様。
よく笑うのに、目の奥が揺れているのは気のせいじゃなかった。
寝処を出る前の優しい抱擁も。
K「帰って…来ますよね…」
お守りを額に当て、ぎゅっと握りしめる。
月明かりの下で交わした「おやすみ」が、遠い昔のことのように思えた。
コメント
3件
あああ続き出た!と思ったら最後の伏線回収とかでマジで泣きそうですどうしよう🥹🥹🥹次が楽しみで1週間ドキドキしてすごします🥹🥹🥹
はる。だわ。第11話、めっちゃ良かった…! るい様のあの距離感、なんだかもう別れを予感させるような優しさで胸が締め付けられたわ。満月の夜の「おやすみ」抱擁、あれで全て持ってかれた。翌朝のお守りと家臣たちの会話で、一気に物語の色が変わったのがすごい。Kの「帰って来ますよね」って呟き、こっちまで苦しくなる…。次が待てない🔥