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次の瞬間、ナッキはつい先程まで鼻先を押し付けては『無理でしょ?』とか言っていた水路を進み始めたのである。
当然狭くサイズ的にはナッキが泳ぎ進められる訳は無いのだが、ナッキはグングン進んで行ったのである。
具体的に言えば、水路の左右、言うなれば岸に当たる部分を、自身の鎧の如き鱗で抉り取り破壊しながら中央に見えた澱みに向かって行ったのだった。
当然浅い水路では水深が足りていなかったが、こちらも鱗同様、獰猛な化け物じみている歯で水底を抉り取りながら進んだのである。
時間にして二十秒位だろうか?
ナッキは澱みの中央に泳ぎ着き悪鬼の如き表情のまま、三羽の水鳥に体当たりしてから言葉を発した。
「ご、ゴルアァァッ! 止めろおぉーッ! 何するんどわあぁーッ!」
「……な、ナッキぃ……」
ナッキは体当たりによって意識を刈り取った水鳥を腹の下敷きにしたまま、落下してきたサニーに大きな鰭を伸ばして受け止めたのである。
彼女の全身は水鳥が争いあった鍔(つば)迫り合いのせいであろう、所々の鱗が抉り取られ、この間にも少なくない血液をドクドクと流し続けていたのである。
「さ、サニー……」
「……ナッキ、来てくれたんだね、ガックシッ……」
はっきり言って意識を失ったっぽいサニーを丁寧に自分の口の中に収めた後、ナッキは大きな声で言う。
「オラァアァァーッ! カカッテコイヤアァァーッ! 許さんぞぉおぉぉーっ! 貴様等あぁー!」
この声は、周囲の澱みを囲った中洲中に響き渡った、ナッキは正しく吼えたのである。
獰猛な野生の獣が発するそれより、何倍も周囲を圧したその声に反応し、中洲に居た全ての水鳥が恐怖を面(おもて)にしながら集まって来るのであった。
白色、灰色、黄色掛かった緋色、黒、桃色、茶色の水鳥達は騒がしくギャーギャーと鳴き声を上げ、その一部がナッキの耳に入った。
曰く、
「化け物来た、化け物来た、化け物来た……」
「あーくまー、あーくーま、あーくまー……」
「踏まれてる! 踏まれてる! 踏まれてる! ……」
「白鷺(しらさぎ)離せっ! 白鷺離せっ! 白鷺離せっ! 白鷺離せっ! ……」
だそうだ。
憮然とした表情を浮かべたナッキは、白い水鳥、白鷺三羽を踏み潰したままで、ここまでに無く堂々とした感じで言う。
「化け物? 悪魔だって? 冗談じゃ無い! 僕は『美しヶ池』の『メダカの王様』ナッキだ! 今回は『鳥の王様』に頼みがあってやって来たって言うのに…… あくまでも平和的に依頼したいと思って派遣したサニーを…… 言うなれば外交の使者に対して寄って集(たか)って理不尽な暴力を振るうなんて…… このままでは済まさないぞ! まずは『鳥の王様』をここに連れて来て貰おう! 正式な謝罪を要求する!」
「メダカ、何?」
「ガイコウ? リフジン? シャザイ?」
「白鷺離せっ!」
ナッキの言葉は、無論、盛り捲った物である。
鳥を誘(おび)き寄せる為にこの澱みに侵入したサニーは外交官や使者ではないし、そもそも会話が出来ないのだから、平和的だろうが威圧的だろうが依頼を伝えられないじゃん……
あわよくば今回サニーが傷を負った事まで利用して、一気に『鳥の王様』まで辿り着こうとしているナッキの機転を喜ぶべきかもしれない、国を率いる存在にとって相手を出し抜く駆け引きなんかの政治的取引は言うまでも無く必要な要素だろう、成長を感じる、頼もしい。
対する水鳥たちはと言えば、当初の予想通り長文は理解できなかったのだろう、短い単語を疑問系で繰り返しているだけで、ナッキの『転んでもただでは起きない作戦』は失敗に終わってしまうかに見えた、その時、
「許せ、メダカ王、鳥の王、連れてくる、少し待て…… その前に、使者、出せ、治す」
多少片言気味ではあったが、意味の通じたらしい言葉を言いながらナッキの前に近付いて来たのは、他の個体より二まわり大きな純白の翼を持つダイサギであった。