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『そうだよ。……私は、もう死んでるよ』
口に出した瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
あぁ、やっぱり。バレちゃった。
もうこれで、私はここにはいられない。
隠岐くんの目が、震えていた。
信じたくないって顔。そりゃそうだよね。
だって、私だって信じたくなかった。
10歳のあの夏。
パパとママとばあばとじいじに囲まれて、あのぼやける光景を最後に、私は目を閉じた。
でも——気づいたら”こっち”にいた。
あの日の私、あの日のままの彼の笑顔。
“また会いたい”
あの想いだけが、私をこの世界に引き戻したんだと思う。
ただし、人の記憶や出来事は変えられない。
だから、みんなは私のことを知らない。
それが、この世界に来られるための“代償”みたいなもの。
……最初から、わかってた。
ずっとはここにいられないって。
隠岐くんにバレたら、それが終わりの合図だって。終わらせなきゃいけない。
でも、それでもよかった。
もう一度、あの声を聞けて。
もう一度、笑い合えただけで。
それだけで、夢みたいに嬉しかったんだ。
川の風が吹いて、髪が揺れる。
夕暮れが、少しずつ色を変えていく。
『ねえ、隠岐くん』
私はゆっくりと顔を上げる。
「ありがとう。……また会えたこと、本当に嬉しかったよ」
隠岐視点
「……死んでるなんて、嘘やろ」
最初は、ただの冗談かと思った。
でも、『そうだよ。……私は、もう死んでるよ』と告げるナマエちゃんの顔は笑ってなくて。
夕暮れみたいに静かで、覚悟したみたいな顔で。
そこで全部、悟ってしまった。
——そういうことなんやって。
胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに痛い。
喉の奥が熱くなるのに、言葉が全然出てこない。
「待ってや…ナマエちゃん、⸺」
でも、その一言を最後に、彼女はふっと目をそらした。
涙をこらえてるみたいな横顔で。
そして、
『⸺…きだった』
その聞き取れやしない小さな一言だけ残して、ナマエちゃんは走り出した。
「っ、待てって!」
追いかけようとして足が動かない。
頭が混乱して、息が苦しくて、
“死んでる”なんて言葉を理解したくないのに、
彼女の表情が全部の答えになってしまってた。
ほんまは、もっと話したかった。
なんで言ってくれへんかったんかも。
どうやってここに来たんかも。
ずっと一緒におった日々がなんやったんかも。
でも——
あの背中は、全部拒むように遠ざかっていって。
夕焼けの中に溶け込むみたいに小さくなっていって。
「ナマエちゃん……っ」
名前を呼んでも届かなくて、
気づいたら自分の拳をぎゅっと握って立ち尽くしてた。
本当に、行ってしまった。
そして頭の中には、
川辺で見たナマエちゃんの寂しそうな笑顔だけが、
ずっと焼きついたまま離れなかった。