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あの日を最後に、ナマエちゃんは二度と現れなかった。
毎日毎日、学校の帰り道に川辺を見た。
公園のブランコにも寄った。
屋上にも行った。
けど、どこにもいなかった。
それでも最初のうちは、
「また会えるやろ」
そんな淡い期待をどこかでまだ抱いていた。
でも──
時間が経つほど、その“期待”は形を失っていった。
ある日ふと、
ノートの隅に書かれた“ナマエ”の字を見つけた。
まるで自分の字なのに、
その名前がうまく思い出せなかった。
「……誰や、この名前」
そう呟いた瞬間、
胸の奥がざわついた。
思い出しそうで、思い出せない。
何かを好きだった気がする。
何かを失った気がする。
でも、形が掴めない。
まるで、夢の中の景色を
無理やり思い出そうとしてるみたいで。
それでも生活は続く。
授業があって、ボーダーの活動があって、
家に帰って風呂に入って、眠る。
普通の日々の中に、
ぽっかり穴だけが空いていた。
そして、ある放課後。
夕焼けに染まった廊下を歩いていると、
不意に涙が出そうになった。
理由はわからない。
悲しいことがあったわけでもないのに。
ただ、
“誰かがここにいた気がする”
そんな気配だけが、胸に残っていた。
手のひらを見つめても、
もう誰の温度も思い出せない。
「……誰やったけ」
呟いても答えは返ってこない。
そのまま窓の外を見上げると、
夕陽の中に、
ふっと誰かが笑った気がした。
髪がゆれて、
やさしい声で名前を呼ばれた気がして。
でも次の瞬間には、もう風に消えていた。
幻かもしれない。
ただの気のせいかもしれない。
だけど隠岐は、
胸に手を当てたまま立ち止まる。
わからないけど、
確かにそこに何かがあった──
そんな感覚だけが、
静かに残っていた。
「……ああ。
好きやった気がするな」
それが誰に向けた言葉なのか、
もう本人にも思い出せなかった。
けれど、
その夕焼けの奥ではきっと、
——『わたしもだよ』
誰かがそっと微笑んでいるような気がした。
ーーー
ご愛読ありがとうございました!!
これにて完結です。
次回作は他界隈になってしまいますがどうぞよろしくおねがいします。