テラーノベル
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朝比奈父「優しいな、君は」
父さんは簡易的な椅子に腰を降ろした。
それにしても、本当に何もないなと不躾にも部屋を見渡す。その奏の様子に気付いたのか、気付いていないのか、父さんが話始めた。
朝比奈父「ここは昨日、まふゆと話終わってから急遽、契約してね。」
まふゆ「え、昨日…?」
その覚悟の真摯さが、垣間見えた。
朝比奈父「そう。だから家具とかは無くてね。」
奏「ここを、拠点にする…と?」
父さんは、頷いた。
司「そうと決まれば、類を助ける作戦会議をしよう!」
それから、まずは類が1人になるタイミングを探す事にした。
まふゆ「類は、朝母さんの車で学校に行って、母さんの車で帰ってくる。」
奏「その後は?」
父さんもまふゆも、言いにくそうに一度口をつぐんだ。
まふゆ「家に帰った後は、トイレ、風呂、食事以外は…大抵部屋で勉強してる。」
奏と司の表情が険しくなり、朝比奈父も悔いるような表情で下を向いた。
奏「──っていうのは?」
司「いいが…それだと──にならないか?」
まふゆ「じゃあ──にすれば…?」
朝比奈父「そこに時間を割いて、足りるのか?」
司「じゃあここの時間を全てそっちに割けばいい」
奏「この要の──は…」
まふゆ「私にやらせて」
決行の夜、類は何も知らず勉強をしていた。
類(もういいんだ、充分光は貰った。)
何も気にしないようにしてきた。あの日から。だから今は、台本も、司くんも、部屋に来なくなった姉さんも、もう何も惜しくはない。
たとえ、この生活が永遠に続こうとも。姉さんたちが幸せなら、僕はそれで。
…それで。
頂の時間の少し前、突然部屋の扉が開かれた。
母さんが風呂に入ってすぐ、私は類の部屋の扉を開けた。類は振り向かない。ただひたすらに、手を動かしている。
私は以前、この状態になった類のことを「空白」と称したが、今は少し違って見える。囚われているのだ。何にかは、分からないけれど。自責?母さん?存在意義?それとも、逃げ場になっているの?
ねえ、前に言ったよね。私を救いたいなら、まずは自分が救われてよって。
正確に動き続ける手を、上から包み込んだ。
類「姉さん…」
酷く掠れた声。見えない鎖に、囚われた声。
手を差し出すも、類はその手を取らない。見えていないのか、取る気力も無いのか、取る資格が無いと思っているのか。
まふゆは、目を伏せた。
まふゆ「…私、今辛いよ」
類「なんで…っ」
そうしたら、類は漸くこちらに振り返ってくれた。
まふゆ「類が、光を手放したから。全部諦めたから。泣いてくれないから。」
類「ぼく、が…」
私が、今泣いていいよなんて言っても、類はきっと泣かない。類は私の前で、泣いてはくれない。私だって、守りたい人の前では泣きたくないから、お互い様なんだと思う。
でも、類の心が濁る時、いつだって私はそこに居なかった。何かがあって、類が諦めて、その後の頂の時間に遅れて知る。私は、何かがあった時に一度だってその場に居てあげられなかった。
まふゆ「私を救いたいなら、この手を取って」
類「…取れない、取らない。僕は、勉強し続けることに対して、もう何も感じないんだ。」
類が不器用に笑う。
類「辛くも、苦しくもないんだよ。だから、大丈夫だよ。」
なんで、伝わらないんだろう。
類「僕に時間を割かないで、姉さん」
こんなに、大切に想っているのに。
類は、やんわりと私の手を降ろした。
きっと、類に私のことは考えなくて良い、って言っても無理なんだ。
まふゆ「思い出してよ、光を。」
類「……忘れてしまったよ」
小さく呟かれた嘘だ、という声は、届いただろうか?
まふゆ「皮肉だよね。類を、私を、ここまで苦しめている母さんでも、才能を見抜く審美眼は本物なんだから。」
何が言いたいのか分からない、と言うように類が私を見上げた。
まふゆ「類の記憶力で、忘れたはずがない。思い出したくないだけなんだよね?」
それから、類は目を閉じた。
類「…思い出したら、[[rb:光 > それ]]が無い今に、耐えられないから。」
私は、降ろされた手を上げて、類の両手を掬った。
まふゆ「耐えなくていい。司さんも、外で待ってる。」
揺らいでいる。そのまま揺らいで、こちらに落ちてきて。
コメント
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ああ、もう……胸がぎゅっとなりました。 類くんが「思い出したら、光がない今に耐えられないから」って言うところ、すごく苦しかったです。忘れたんじゃなくて、忘れようとしてるんだって伝わるから余計に。 でも、まふゆさんの「私が今辛いよ」って自分の痛みをさらけ出して類くんを振り向かせたシーン、本当に強くて優しいなと思いました。 ラストの「揺らいでいる。そのまま揺らいで、こちらに落ちてきて。」っていう地の文、美しすぎて何度も読み返しました。姉として、一人の人間として、類くんを受け止めようとする覚悟が伝わってきました……。 かのさんの描く兄弟の距離感、毎回繊細で大好きです。続きが気になります🌷
#兄弟パロ
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