コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
篠原琴音・鴻伊吹 帰り道にて
「すっかり、暗くなっちゃったねぇ〜。」
私たちはあの後、飲食店を出た。
「にしても、目的地まで遠くないですか?」
「そうなんだよねぇ、私もつくづくそれは思ってる。けど動かすだけのお金がないんだわ、ウチは。」
「そうなんですか?成瀬さんからはあなたの任務報告はかなり優秀だとお伺いしました。なので多額のお金がインフラからおりてくるのではないでしょうか?」
インフラは成果主義的なところがあるので、その仕事の内容や任務報告の早さで報酬が決まる。
「まぁ、そうなんだけど、そのお金っていうのは私1人だけのものじゃないから、さ、あんまりお金を貯めることができないんだよねえ。
それとぉ!、私は「あなた」ではありません。伊吹というきちんとした名前があります。だから、私のこと「あなた」なんて呼ばずに伊吹って呼んでよ琴音?」
「はい、わかりました、いぶ、き?」
少しカタコトになってしまったが慣れれば問題ないだろう。
「はい、よーくできました!」
「それで伊吹?」
「んん?」
「伊吹が住んでいる、プロテクテッド・インフラストラクチャーっていったいどういう場所なんでしょうか?」
私は今から行く目的地が少し気になったので聞いてみることにした。
「そうだねぇ、少なくともあのあんなインフラ本部みたいなガッチガチのセキュリティシステムは搭載されていないよ。あんなんウチの中にあったらのんびりできないでしょ?」
「まぁ、確かに本部のような仰々しい整備があったらくつろぐことは難しいかもしれませんね。」
「ってなわけで、プロテクテッド・インフラストラクチャー、略してプロフラは琴音にとっても居心地いいと思うよ。」
伊吹はニカッと歯を見せながら私に微笑みかける。
すると突然伊吹がこんなことを言い始めた。
「ねぇ、琴音?ちょっと寄り道してもいい?」
「特にやることもないですし、別にいいですよ。」
そう言って近くにあったコンビニに伊吹は猛ダッシュで店内入りしていくのであった。なので置いて行かれた私はコンビニの入り口の横にあるベンチに腰掛けて伊吹が買い終わるのを待つことにするのであった。
あれから私はスマホで最近流行っているお手軽シューティングゲームをプレイしていた。私の中でこのゲームがシューティングゲーム史上、1番のお気に入りである。すると、自動ドアの開く音がした。
「おっ、これ最近流行ってるゲームじゃん、私もやってたら止まらなかったんだよねぇ。」
「そうなんですか、私も楽しくてついつい空き時間にやってしまうんですよネ、ってどんだけ買ってるんですか!?絶対1人じゃ食べきれないでしょう?」
見れば、伊吹の両手には商品がパンパンに入ったレジ袋が両手に4袋も提げてあった。
「これ重いから少し置貸してもらえる?隣失礼するねぇ〜、よいしょっっと。」
伊吹が座った瞬間ベンチを伝って大きな振動が私の元に届いた。それと同時にプレイしていたシューティングゲームを閉じてスマホを鞄にしまった。
「ほいこれ、アイス。夕方に食べるアイスは美味いぞぉ〜。」
そう言われて、ラムネ味のアイスを手渡される。
「ちべてぇえ、頭いてぇぇ。」
「そんなに一気に食べるからですよ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫大丈夫ぅうううまいぃ。」
「忙しい人ですね、フフフッ。」
私はアイスを食べ終わるとアイスの棒を近くのゴミ箱に捨てに行く。そしてまたベンチの方へ戻る。
「それじゃあ、行きましょうか?」
「まあまあ、おねぇさん、ゆっくりしていきましょうや、少しだけお話もしたいし。」
そう言って伊吹は私の手を引っ張って、再び私をベンチに座らせた。
「なんで、今日銃で撃たなかったの?」
そんな問いをぶつけられて、再びあの情景が思い浮かび上がってくる。同時に少し手が震えるのを感じた。
「ふーん、なるほど、訳ありってわけね。」
「すいません、あまり銃は好きではなくて、まだ刃物の方が扱えます。あの時は遠距離からの攻撃が有効かなと思って、銃を構えていました。結局、引き金を引くことはできませんでしたけど..。それに、あの時伊吹が現れなかったら、私は殺人を止められなかった。だから、罪悪感が残ります、伊吹にも、被害者の男性にも。」
「私は全然いいんだけどぉ、そっかあ、銃はトラウマになっちゃったんだねぇ。よかったら、その経緯、聞かせてくれない?別に嫌ならいいんだけど。仲間の状態を把握しとかないと、私としては安心できないからさ?」
どうせ、ここにきたらここにくるまでの経緯を話すつもりだった。だから別に話すことには問題ない。ただ、懸念点が一つあるとするのならば、伊吹がこの話を聞いた後で、私のことをどんな目で見るかだ。それで折角ちょっと仲良くなった伊吹との関係を瓦解させたくはない。でも本当のことを知っといてほしいという気持ちもある。
私は苦悩の末、真実を伝えようと言葉を紡ぎだそうと決めた。だが、伊吹が先に口を開いた。
「まぁ、無理に言わなくてもいいよ。今見てると、すごく葛藤していたみたいだし。というか、銃でトラウマになるものなんて大体絞れるしね。大まかには私の思っている方は的を射ているんじゃないかと思うよ。私も同じだから、さ。」
伊吹は若干寂しげな顔をして俯いた。
「えっ?」
「ほらっ?、見てたかもしれないけど、私って銃で人を直接撃ってなかったでしょ?」
そう言われれば、そうかもしれない。あの時、残っていた銃弾5発のうち、1発撃っていたが直接人には当ててはいなかった。そしてほとんど銃の力を借りずに戦っていた。今思い返すと、驚異的なまでの運動能力だ。
「まぁ、そういうわけで私は直接銃を人に向けては極力撃たないようにしてるの。だから、琴音の気持ち、すっごいわかるよ。」
「伊吹…。」
私は少し黙り込む。
「ごめんね、こんな空気にしちゃって?」
「いえ、伊吹の方にも辛い過去があるんだと思うとどう言葉をかければ良いのやらという感じです。」
私がそういうと、伊吹は私の腰あたりを膝で突っついて言った。
「何言ってんのぉ、辛い過去なんてみんな持ってるもんだよ?、特にこの組織の人間たちはね。皆んな、デルタ生の時には目が輝いているの、お国の為に自分の力が役に立つという教養を受けてね、まぁ、洗脳に近しいものなのかもしれないけど。でも皆、上の階級になるほど、自分の過去から逃げ出そうとするの。不思議だねぇ、組織インフラに属して国のために働いているというのにその働いているエージェントが苦悩するなんて。」
「インフラ生の自殺も珍しくはありませんもんね。」
先月末にも、デルタ生3人、ガンマ生5人、ベータ生6人、アルファ生8人というように相次いでインフラ生の自殺が起こっている。
「皆、絶望し始めるのよ、組織インフラの実態に。そしてその任務を全うする己の価値に。」
「大きく影響しているのは任務でしょうね。」
「そうそれ。任務は上の階級になっていくほど、高度なものが求められやすくなる。例を挙げると、殺人なんか特にそう。どこの誰かもわからない人を殺さなければならない。そこには同居人や同伴者がいることだってある。だから殺人をした後、その人たちの悲痛な慟哭が私たちの耳を突く。それでね、思うのよね、この人は、本当は殺さなくてもよかったんじゃないかってね。そうしていくうちに、インフラ生は心身共に削っていって、抜け殻になり、そのまま果てることが多い。
でも、琴音の場合は違うんでしょう?あの時の震え方は私が見たものの中では特に異質なものだったから。多分あれはインフラの任務で覚えたような恐怖ではないと推測できる、だからちょっぴり気になったの。」
「すごいですね、そこまで見抜けるなんて。」
「まぁ伊達にインフラのアルファ生やってるわけではないから。」
少しだけ辺りを静寂が飲み込んだ。
「私は強くなりたいです。私は銃を上手く扱えるようになりたい!やっぱり過去から逃げてはダメだと思うんです、覚悟を決めて臆さず拳銃を自分の意思で扱えるようになった時、私は過去を克服したと証明できるはずですから。」
「うぃひひ、そうだね、克服できるといいねその過去を。」
あの過去は置き去りにはできない、といって、私が命を絶ったとしても私の罪は消えない。1番の手は克服すること、そしてあの時のインフラの職員のためにこの力を役立てること、それが私の罪の贖い方だ。
「伊吹、私は今裏国家の人間から狙われる立場にあります。過去の私のデータが流出したんです。それを奴らが見れば、私を完全に消しにくる。私は一種の生物兵器みたいなものですからね。でも、私は無論死にたくなんかありません。だから、私は遥々本部からこの地までやってきて、逆に裏国家の奴らを壊滅さしてやろうと思っています。」
「だから、私にも手を貸せというわけですねなるほどなるほど。」
「ダメ、、ですか?」
「いやいやいやいや、全然それはいいんだけど、その代わり私の事情にも付き合ってほしいの。私もねいつか琴音に話さないといけない時が来るから。それは多分琴音も同じことでしょ?問題解決のためにはお互いの事情を知っておく必要があり、それらを共有できる仲間が不可欠である。そうでしょ?」
「伊吹の言う通りですね。」
「そうと決まれば早くプロフラに帰って明日の準備するぞ〜、明日は仕事がちょいと入っているからね。」
「任務じゃないんですか?」
「さっきも言ったでしょ、プロフラは居酒屋だって。私はインフラで任命される任務と、居酒屋とかの個人でやってる仕事っていうふうに分類してるの。」
「へぇ、そんなにいっぱい引き受けて大丈夫ですか?」
「あっれれ〜、他人事みたいに言ってますけどお姉さん、あなたも明日から働いてもらうんですよ?」
「えっ、私もですか?」
見当もつかなかった。まさか居酒屋の仕事までやらされる羽目になるとは。
「当たり前、当たり前〜、もう琴音は私たちの一員だし、事情にも付き合ってくれるみたいだからね。」
伊吹は悪そうな顔をした。
「伊吹の話術はあんまり侮れませんね、以後気をつけます。」
「ちょいちょい、別に気をつけんでええわ。」
ここで伊吹の華麗なツッコミが入る。
私たちはそれから歩き出した。
私には銃というトラウマが存在する。伊吹にはどんな過去がトラウマが存在するのだろう。大学にいないということはそれなりに大きな問題を抱えているのはずだ。更に、私と彼女は同い年。だが彼女の方が早くにここにいる。そしてここは訳ありの場、非常識の場と成瀬さんが言っていた。私よりも早くここにいる彼女は一体何者だろうか?
そしてここでできた私の仲間、間違いなくかけがえのない大切な人。そんな人に過去のような惨劇を起こすわけにはいかない。過去に急に目覚めて、成瀬さんを襲ったこと、次々と人を惨殺していったこと、あれは私の原因不明の脳の異常によるものだと推測される。今はファジーで制御しているから大丈夫だとは思うが万が一またあのようなことが…と思うと恐ろしい。
せめて伊吹の足手纏いにならなければいいのだが、彼女の身体能力ははっきり言って化け物に近しい、正直なところ私が銃を扱うことができたとしても、実力が並ぶかどうかぐらいだ。だから、銃の克服はもちろんのこと、他のことなども研鑽していかなければならない。それは伊吹が教えてくれる筈だ。私はもっと強くならなければならない。
鴻伊吹 プロフラにて
しばらく歩くと私の住居でもあり、琴音の新しい住居でもある居酒屋プロフラに到着した。辺りはもうすっかり真っ暗である。
「よーし着いたぁ、私の家〜。」
「お邪魔します、居酒屋にしては大きくないですか?」
「まぁ、ゆーてもインフラが関係してるからねぇ。」
私たちが帰ってくると、出迎えの声があった。
「伊吹おかえり〜、今日はえらく遅かったみたいだね。何してたんだ?」
や、やべえ!、コンビニのベンチで道草食ってだなんて言えない。さて、どのような言い訳を繰り出そうか。
「あぁ、まぁ、あのぉ、この新人ちゃんの琴音ちゃんにこの街を案内してたら思ったより時間がかかっちゃってぇ。それで、遅くなりました。」
それを言うと同時に持っていたレジ袋を物陰の後ろに隠す。『バレるな、バレるな』と心中で指を交差しながら懇願する。
「そう言うことなら、仕方ねぇなぁ。琴音ちゃんもあんまり伊吹には振り回されないように気をつけてな。」
「えっ、あっはい。」
よかったぁぁぁあ、バレなくて。
「伊吹、この人は?」
「ウチの居酒屋の店長兼インフラの幹部的存在だね。いつも私のご飯を作ってくれる人、つまり私の下僕ってことってぁ痛っ!」
そんなことを言っていると私の頭に手刀がぶち込まれた。容赦ない1発、これに関しては何回もくらってるけど、まだ慣れない。
「はぁ、誰が下僕だよ。」
そうして琴音の方へ向く。
「どうも涼野 渚【すずしの なぎさ】です。君が成瀬が言っていた移住者の篠原琴音ちゃんだね?」
「はい、そうです。これからお世話になります。」
「わからないことがあったらそこの伊吹に聞いたら大体わかると思うから、どんどん聞いてねぇ。」
そう言って私の方を睨んだ後に、調理場へと戻っていった。ああ、おっかないもんだ。
琴音も色々と疲れているだろうし、今日はゆっくり休ませてあげないとダメだろう。
「さぁ琴音、今から琴音の部屋を案内してあげるから着いてきて!、改めましてようこそプロフラへ!」
私はそう言い、琴音の手を引っ張りながら調理場の奥へと駆け抜けていくのであった。
【Guns are nothing more than ornaments of the past.】
=【銃なんていうものは、所詮過去の装飾品にしか過ぎない。】