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#ざまあ
食いもんだと思ってくれ
コーヒーのいい香りで目が覚めた私は、 ゆっくりと起き上がり、辺りを見回した。
見知らぬ部屋、カーテンの隙間から明るい光が漏れ、誰かの鼻歌が聞こえる。
声の主を探すべく、キョロキョロとあたりを見回した途端、ズキッと激しい頭痛に見舞われた。
「イタタッ」
「先輩、大丈夫ですか?」
里美に覗き込まれ、昨日の記憶がよみがえってきた。
はぁー。やっちゃった。
ちらりと里美の様子を窺うと目が合う。
里美は、にっこり微笑んで薬のヒートとペットボトルを渡してくれた。
「はい、薬飲んでくださいね。気持ち悪くないですか? 昨日、だいぶ飲んじゃいましたよね」
何事も無かったかのように、明るく接してくれる里美の気遣いに申し訳なくなってしまう。
いくら、健治の浮気がショックだったと言っても、里美に縋るべきではなかったのだ。
相手が同性とは言え、SEXをしたのだから、私も不貞を働いた事になるのだろうか?
ペットボトルのお水と共に薬を胃の中に流し込み、ホッと息を吐きだした。
「ありがとう。散々迷惑かけてごめんね」
「全然、迷惑なんかじゃないですよ」
昨日は、部屋の様子も見る余裕が無かったけど、キレイに片付いた部屋。シンプルな木目の家具が配置されている。所々にグリーンが配置され、とてもセンスが良く、落ち着く部屋だ。そして、女の子特有の甘い香りがする。
「いい部屋だね」
「ありがとうございます。お気に入りの空間なんです」
「落ち着くし、センスいいね」
「気に入ってくれました?」
「うん、私もこういう感じの部屋にしたいな」
そう、わが家は健治の趣味で黒に統一された家具。
そして、シンプルモダンのおしゃれな家具にこだわった癖に片付けられない健治。
共働きで、私も忙しいのにいつの間にか、家事分担の原則は破られ、今では家事全般を私がやっている。
あっ、私、健治の嫌いな所を数え始めている……。
新たに湧いた感情に戸惑を覚えた。
考えに耽っているとコーヒーカップが目の前にコトリと置かれる。
「ありがとう」
両手でカップを包み込み、ホッとしながらコーヒーの香りとカップの温かさを堪能していた。
すると、里美が覗き込むようにして訊ねてくる。
「これから、先輩どうするんですか?」
「えっ? これから? うーん、取り敢えず帰るよ」
「違いますよ! 先輩は、旦那さんの浮気を見たんですよ。旦那さんとこれからどうするんですか?」
里美は、私を真っ直ぐ見つめて来る。
私は、後ろめたさからか、その視線から目を逸らす。
健治の浮気、里美との関係、色々向き合わなければならない問題があるのに、何処から手を付けていいのか……考えが上手くまとまらない。
近い距離に女の子特有の甘い香りが濃くなるのを感じた。里美がスッと体を寄せて来る。そして、私の肩に手を掛け、耳元に囁きが聞こえて来る。
「浮気性の旦那さんと一緒にいるのが辛いようならいつでもウチに来てくださいね。セ・ン・パ・イ」
その囁きは、背筋をザワリと撫で上げ、心の水面に一粒の黒い石が投げ込まれたよう。
それを振り払うようにカップに口を付け、コーヒーを飲み干した。
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