テラーノベル
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パーティーで、壱月の会社の人たちとともに、談笑を続ける。しばらくすると、花斗がこちらに駆け寄ってきた。
「パパ、おトイレいきたい」
「ああ」
それで、壱月がこちらをちらりと見た。
外出時は、パパがいるなら男同士でトイレに行くこと。
これが、我が家のルールだ。
「いいよ、行ってきて」
「でも……」
壱月は複雑そうな顔をする。前回私がひとりになったとき、悪意ある視線と言葉を向けられたことを気にしてくれているのだろう。
だけど、私は壱月に笑みを向けた。
「花斗が間に合わないほうが、大変」
花斗はもじもじしながら、壱月のジャケットの裾を引っ張っている。
「悪いな、すぐに戻るよ」
壱月はそう言うと、すぐさま花斗を抱きかかえて方向転換。
「パパ、はやく〜」
花斗の声が小さくなっていくのを聞きながら、私は部屋の端のほうで、ほうと息をついた。
部屋をぐるりと見回す。大きなリビングだ。
石畳の庭に通じる大きな窓が南向きで、部屋の中は明るい。
その中心に置かれた大きなクリスマスツリーが、私のいる場所に陰を落とす。
きらびやかな世界。談笑する男女。
それを見ていると、やっぱり私とは別世界だと思う。
多少英語が話せるようになったって、それは変わらない。
花斗、間に合ったかな……。
自分が場違いであるを忘れようと、子どものことを考える。
そんな私は、ずるいかもしれない。
けれど、英会話教室のおかげで英語に慣れた耳は、周りの会話をやけに聞き取ろうとする。
『今日は子どもを連れてきていたわ』
『素直ないい子だったじゃない』
『でも、やっぱり、なんていうか……普通、よね』
『英語もロクに話せないみたいだし。なにしてらっしゃるのかしらね』
クスクスと私を笑う声がする。
ああ、まただ。
そう思うと気が重くなる。
いや、気にしない、無視をする。それが一番いい。
私は無理やり笑みを貼り付けて、部屋を見回すふりをする。
すると今度は、私を笑っていた彼女たちがこちらに近づいて来た。
思わず身構える。だが、それがいけなかったらしい。
『こんにちは。あなた――』
突然話しかけられて、思わずピクリと肩が震えた。
けれど、怖気づいてはいけない。今日のために、英会話教室に通ったんだ。
自分の身は、自分で守る。壱月がそばにいなくたって、私ちゃんと出来るはずだ。
話しかけてもらったのは、チャンスだ。
だから――。
私はすうと鼻から息を吸い、口からふうと吐き出して、にこやかに努めた。
それから、相手の目を見て、口を開く。
『こんにちは。私は、海野の妻の――』
『ああ、あなたが。今日もとても素敵なドレスね』
あれ、褒められてる?
意外にも、彼女たちはとても上品に笑いながら話しかけてくれた。
『ありがとうございます。このワンピース、今年の新作で、トレンドカラーの――』
『そうなのね。とってもお似合いよ』
言葉を途中で遮られ、急に背を嫌なものが伝った。
『ふふ。とってもあなたらしくて素敵ね』
そう言う彼女の笑い方はとても上品なのに、その口角の上がり方がやけに意地悪く思える。
私は結局、悪口言われていたのだ。
英語だったから、思わず文面通りに取ってしまった。
悔しい。
彼女たちにとって、私の店の自慢のワンピースは、庶民を代表するファストファッションでしかない。
確かに彼女たちの着る服は、もっと繊細で華やかで、光沢が違う気がする。
『あら、ごめんなさい。とても素敵だから褒めたつもりだったんだけど』
『嫌な気分にさせてしまったかしら?』
俯いてしまった私に、彼女たちは口々にそう言った。
でも、顔を上げなくてもわかる。彼女たちは、心配なんてしていない。意地悪い笑みを口の端に浮かべて、心の中で私を馬鹿にしているに違いない。
大丈夫。笑え、自分。
泣いたら彼女たちの思うツボだ。
壱月がいなくたって、私は――。
せり上がってくるものをこらえるためにお腹にぐっと力を入れて、一度ぎゅっと目をつぶった。
大丈夫、大丈夫。
ふう、と息をつき、そのついでに口角を持ち上げる。
ひとりだって、私はできる。
「Yes, I’m OK. Thank you your kindness.」
そう言った瞬間、私の目の前で、彼女たちの笑顔が引きつった。どこからか舌打ちが聞こえる。
それでももう、顔は下げない。
大丈夫だ、負けるな。
それでも、目頭がじわんと熱くなる。
泣くな。笑え、私。
思えば思うほど、悔しさが喉の奥のほうをせり上がってくる。
もうダメかも、と思ったその刹那。
「Hey, girls!」
陽気な声が私と彼女たちを割って入ってきた。
「Mary! I’m glad to see you!」
「Heeeee!」
突然、彼女たちの声がキャッキャと明るいものに変わる。
メアリーと呼ばれた女性の方へ、顔を向ける。
「……え!?」
「Wow! Mrs.Umino!」
彼女は、以前私が接客をした、外国のお客様だった。
コメント
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わあ、第81話、読みました…! パーティー会場で主人公が受ける陰口と、それでも「笑え、自分」と踏ん張る姿に胸が締め付けられました。英語で返したときの相手の表情が引きつるシーン、最高にスカッとしましたね。そして最後に現れたあの外国人女性の登場、すごくいいタイミング! 続きが気になります!