テラーノベル
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『あなた、ここの関係者なの? わあ、奇跡って本当にあるのね!』
メアリーさんが興奮気味に話す。
『もう一度会いたいと思っていたの。あなたのおかげで、とっても楽しくお買い物ができたから』
彼女は感激した様子で、私の両手をきゅっと握り、ブンブンと上下に振る。
『嬉しいです。私もまたお会いできるなんて』
心がしおれかけ、泣きそうだったことも忘れて嬉しさに胸がいっぱいになる。
ただ一度接客した店員の顔を、覚えていてくれただけじゃない。
こんなにも、喜んでもらえていたことが嬉しい。
『あの後もあのお店は何度か使わせてもらってるの。あなたの服選びもなかなか素敵だったけれど、店長の……みなせ、さん? 彼女のセンスのよさに惚れてしまって!』
『よかったです。彼女は英語が不得手だと言っていたので、あの時は私が代わりを務めたのですが、水瀬でも充分でしたね』
お店のことを考えると、お節介だったかなと思う。
けれど、メアリーさんはずっと嬉しそうに話してくれる。
『言葉なんて、関係ないとは思うわ。でも、あなたは私にきっかけをくれた。それは、私にとってとても幸運なことだった』
それで、つい頬が緩んだ。
メアリーさんも口角をにこやかに上げ、綺麗なブロンズの髪が揺れる。それが彼女のワインレッドのワンピースにかかって、綺麗だと思った。
『あの、そのワンピースって――』
『もちろん、あの時購入させていただいたお品よ。着やすいし、しっかりしてる。使いやすくて、お気に入りなのよ。あなたのワンピースも素敵ね』
メアリーさんは言いながら、私のドレスを見る。
『クリスマスなのでグリーンにしました。今期の流行色なので、いいかなって』
「So cool!」
メアリーさんはそう言うと、『私も買おうかしら』と言いながら、私を取り巻いていた彼女たちを振り向く。
『あなたたち、知っているかしら。このブランドの服は、お値段の割に本当に着心地がいいのよ。自信を持ってオススメするわ!』
すると、彼女たちは全員が私のほうをちらりと見た。口元は笑っているが、視線は怖い。
けれど。
『どこのブランドかしら?』
『この近くにもある?』
好意的な言葉が投げられ、私はほっと息をついた。
彼女たちがお手洗いに行くと去ってゆき、私とメアリーさんだけがその場に残される。
『ところでミセス海野、あなたはどなたのパートナーなのかしら?』
『えっと……』
私は広いリビングをぐるりと見回した。
だいぶ話し込んでいたから、壱月たちはもう戻ってきているはずだ。
するとーー。
「愛音」
壱月の声に振り返る。壱月と手を繋いだ花斗が、ふたりでこちらに手を振っていた。
私も小さく手を振り返す。それから、メアリーさんに向き直った。
『メアリーさん、彼が私の――』
『あら、イツキくんのお嫁さんだったのね』
メアリーさんはなぜか感慨深げに頷く。
その間に、花斗の手を引き、壱月がこちらにやってくる。
『ご無沙汰しています、メアリーさん。彼女は私の妻の、愛音です』
『ええ、今話していたの。とても素敵な奥様じゃない』
それからメアリーさんは、壱月の手と私の手を取り、きゅっと無理やり繋がせる。
「You are a perfect match!」
メアリーさんはそう言うと、他の参加者の輪のほうへ行ってしまった。
「壱月、花斗、おかえり。おトイレ間に合ったね」
改めてふたりに向き直る。それから花斗の目線に屈み、頭をそっと撫でた。
「おトイレだけじゃないよ! あっちにあるサンドイッチとか、ジュースとか、いっぱいもらってたべてたの。おいしかったー」
花斗があまりにも嬉しそうに話すので、私も嬉しくなる。
ふと見上げた壱月は、優しい目でこちらを見つめていた。
きっと壱月は、ひとりでも大丈夫だと言った私を信じて、花斗の相手をしてくれていたのだろう。
それで、やっぱり壱月が好きだなぁと思ってしまう。
「ママはたべた?」
「ううん、おしゃべりに夢中で」
すると、「こっちだよ!」と花斗が私の手を引く。
だが、反対の手は壱月と繋がれたままだ。その手を離そうとすると、ぎゅっと強く握られた。
「食べるときまで、繋いでいてもいいよな?」
「なんで?」
「俺がいなくても平気そうで、ちょっと寂しかったんだよ」
壱月がぽろっとこぼした言葉が、私の「好き」を加速させる。
ニマニマと頬が落ちぬように引き締め、私は花斗オススメの軽食を頂いた。
コメント
1件
ああもう、めっちゃいいエピソードだった……! メアリーさんが「自信を持ってオススメするわ!」って言ってくれたの、愛音の接客がちゃんと届いてたんだなってグッときた。壱月の「いなくても平気そうで寂しかった」発言もズルいよ、加速する好きの気持ちわかるわ〜。花斗がサンドイッチ自慢してるのも可愛すぎ。家族の温かさがじんわり伝わってくる回だった☺️