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「野菜の下ごしらえを、手伝おうか?」
「はい、ありがとうございます。では、じゃがいもを剥くのをお願いしてもいいですか」
彼と並んでキッチンに立っていると、まるで夫婦にでもなったみたいでドキドキしてくる。
(チーフが、もしダンナさんだったら、こんな感じなんだよね……)なんて考えるだけで、頬が緩んで顔がにやけてきてしまう。
そこへ、「じゃがいもは、これでいいだろうか?」と、声をかけられて、
「はい、ダ……ッ!」妄想のせいで、ついダンナさまと呼びそうになり、「”ダ”って、なんだ?」と、彼に訊き返された。
「……え~とその、こういうのって夫婦のようでと思っていて、それでダンナさまって呼びそうに……」
照れ照れで口にすると、
「ダンナさまって、そんなに大層な呼び方じゃなく、もし結婚をしたら、僕のことは普通に名前で呼んでほしいな」
彼からそう返されて、あまりの気恥ずかしさに真っ赤になりつつ、「は、はい……」と、小さく頷いた。
「もし家族が増えることになっても、君のことは、僕もずっと名前で呼んでいたい……なんて、ずいぶんと気が早いかな」
照れ笑いを浮かべて言う彼に、いつか本当にそんな未来が訪れたらいいなと思うと、胸の奥がじんとあったまるようだった……。
お肉と玉ねぎを炒め、切った野菜を入れて、ルーで煮込むと、部屋の中にスパイシーなカレーの匂いが充満した。
「カレーの匂いは、ノスタルジーを誘うな」
「ノスタルジーですか?」
彼の言葉に、どういう意味なんだろうと訊き返す。
「子供の頃、家に帰ってカレーの匂いがすると、今日はカレーなんだと嬉しかっただろう?」
「ああ!」と、頷く。「お母さんがカレーを作って待っていてくれてるって思うと、なんだかワクワクしましたよね」──小学生の頃に、友達と遊んで帰ると、家の外にまでカレーの匂いが漂っていて、喜んで食卓に着いた幼い日のことが思い出されると、確かにノスタルジーを感じるようだった。