それからは何も考えられずボーッとしながらソファーへ座ったまま、しばらく時間が過ぎる。
理解したくない脳が拒否反応を示す。
考えたくないと脳と心が叫ぶ。
仕事で疲れまくっている今の脳では、正しい判断が出来そうになくて。
だけど、どうにも見てしまったことはこの脳からは消すことが出来なくて。
確かに、見てしまったその光景。
樹の隣りに見たことのない可愛い女性が立っていて。
まだ樹とは会社にも秘密にしてて、お互いの部屋か会議室でしか二人きりで会ったことなんかない自分には、素直にその光景も羨ましくて。
歩いていた二人の距離感もすごく近かった。
笑顔で話している姿は、そんな仕事絡みの雰囲気でもなくて。
あれはそれなりに気心知れてないと出せない雰囲気。
だけど、それだけじゃなく、私に仕事と嘘をついて、その人と今会っているという現実。
私には言えない関係だってことだよね?
なんで私にそんな嘘ついてまで・・?
私が邪魔ならハッキリそう言えばいいのに。
あっ・・。
そしてそんな状況で隠したくなる理由。
一つのある思いが浮かぶ。
もしかして・・・。
さっきの人・・・。
樹がずっと好きだった人ってこと・・・?
だとしたら。
きっと私は邪魔な存在だ・・。
樹なんでこんなタイミングで私と付き合うことにしちゃったんだろ。
私と会わない間に本気の相手へ気持ち報われた出来事でもあったかな。
樹、バカだな・・・。
もう少し待ってたら、私と流れで付き合ったりなんてしなければ、面倒なことにならなかったのに。
せめて、樹の片想いしていた本気の相手であってほしい。
そうなら、ほんの少しだけでも私は惨めじゃなくなるから。
もしあの人が遊びの相手なら、私はホントに救われないし、やり切れないから。
そっか、でもそうだとしたら。
樹の本気の相手なら、もうどう頑張っても私はどうにも出来ないんだ。
案外、終わるの早かったな・・・。
ホントにこのまま樹とは終わっていっちゃうのかな。
どこでそのタイミング間違えたんだろう。
私の仕事が忙しくならなかったら、こんなことにはならなかったのかな。
私の方にまだ気持ち向けられていたのかな。
もし樹の想いが報われなければ、私に本気になってくれたかもしれないのに。
もし私に本気になってくれていたら、彼女の元へ行かなかったかもしれないのに。
まだ早い・・。
まだそんなに本気にさせられてないよ・・・。
なんとなく樹も、同じ気持ちになってくれていたのかと思ったのにな・・・。
いつの間にか、私だけなんでこんなに本気になっちゃったんだろう・・・。
私、こんなに涙が出るほど、こんなに胸が苦しくなるほど、樹のこと好きだったんだ。
なんでこんなに好きだと気付いたのに、彼は違う女性の元へ去って行くんだろう。
なんでそれが私じゃなかったんだろう。
あんなに近づけたと思ったのに。
私のこと好きになってくれるかもしれないって思ったのに。
所詮、遊びで始めた偽物の恋愛は、本物の恋愛には勝てなかった。
最後に選ぶ相手はきっと、本気で好きになった彼女。
なら、もう私が傍にいる必要はない。
大丈夫。まだ間に合う。
まだ今なら忘れられる。
まだ樹との時間なんてほんの少しだし、想い出なんて数えきれるほどしかないし。
なんてことない。
私がこの気持ちを忘れたら。
私はきっと大丈夫。
たぶん。きっと。
・・・だけど。
なぜかまだこんなにも短い時間しか樹と過ごしてないのに、樹との時間はあまりにも濃くてあまりにも楽しくて。
前の恋愛以上に、忘れるのがツラい。
終わらせるのがツラい。
例え偽物だとしても、樹からもらえたドキドキやトキメキは確かにそこにあって、私には本物だったから。
あの優しい言葉も甘い言葉も、私だけのモノにしたかった。
偽物だなんて気付きたくなかった。
本物にしたかった。
結局、偽物は偽物のままで、本物にはなれなかった。
こんなツラくなるなら出会わなければよかった。
一人でずっといればよかった。
でも、もし私がもっと素直になれてたら。
もっと樹を好きだと言ってたら。
樹は私を好きになってくれたのだろうか。
ずっと好きだった人を超えることが出来たのだろうか。
あっ・・・そうじゃない。
違うや・・・。
私、樹に一度も好きだって伝えたことなかった・・・。
そっか。
そうだった。
そして。
樹も、私に一度も好きだなんて言ったことなかった・・・。
一言も好きだって伝えてもいないくせに、調子よすぎる。
一言も好きだなんて言ってもらえていないくせに、どうにもなるはずがない。
最初から始まってもいなかったんだ・・・。
都合よく勘違いして、一人で勝手に好きになって、あっけなく終わっていく恋。
さすがにキツイや・・・。
今まではずっと恋愛遠ざけていたけど。
誰か他の女性の存在がいる人を好きになるのって、こんなにもツラかったんだ。
こんなにこの恋愛を終わらせるのがツラいってわかっていたら、絶対始めなかったのに。
気付くんじゃなかった。
この気持ちに。
こんなに樹のことが好きだってこと、気付きたくなかった。
やっぱり私にはずっと続く恋愛なんて存在しないんだ。
結局私は昔も今も、その人の一番必要な存在にはなれない。
本当に好きになった人には、きっと好きになってもらえない。
私にはきっと永遠なんて・・・ない。
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